( 8 )「仮払金」の後始末 Part2 仮払金ほったらかしとそのリスク

決算書上は仮払金となっていても、いつまでも精算が終わらない実質的な貸付金がある会社もあります。貸付金とできない事情については前回申し上げました。

今回は、ほったらかし続けた場合のリスクについて検討します。

健全でない「仮払金」

ところが、仮払金とはいっても、何年経っても精算がされないような健全でない仮払金があります。

経費使用目的での仮払いとはまったく無関係の、数十万や数百万円単位で行われる「仮払い」は、実質的には貸付金といえます。

このような「仮払い」の相手方は、たいていは会社の代表取締役や大株主(創業者)に対するものです。

なぜ、仮払金にしているのでしょうか。

金融機関から借入れを行っている場合、金融機関は役員等に対する貸付金や仮払金などを基本的に嫌います。

なぜなら、もともと金融機関は会社に対して一定の使途に使うものとして融資したはずなのに、そのおカネが役員個人に渡っていると、本人が意図していたかどうかは別として、役員は会社をダミーにして個人的におカネを借りたことになってしまうからです。

金銭消費貸借契約に明記された使途と異なる形で融資金を使ったとすると、契約に違反しているとして引き上げ、すなわち一括返済を求められるリスクがあります。

そこで、たとえ貸付金だという認識があったとしても、貸付金とはせずに仮払金とすることになります。

より悪質になると、貸付金にも仮払金にもせずに、他の科目(棚卸資産や固定資産など、ひどいと現預金)で表示したり、買掛金や未払金といった負債の科目と相殺して表示します。

もっとも、そのような細工をするということは、かえってやましいことをしているとハッキリ認識していることがバレることになります。

税法のリスク

「健全でない仮払金をほったらかし」た場合に対する税法上の論点は「仮払金は実質的な貸付金である」という認定を契機として、次のようなロジックになります。

  • 仮払金は貸付金である
  • 貸付金なのに会社は役員等から利息を受け取っていないので受取利息の計上が漏れている
  • 利息を受け取っていないということは役員等に対して経済的利益を供与したことになり役員給与となる
  • 役員給与ということは会社の所得税の源泉徴収が漏れている

貸付金認定

税法では、もっぱら実質で判断されるため、どんな勘定科目名を使ったかはあまり重視されません。

たとえば交際費等は明文で交際費等の範囲を定義しており(租税特別措置法61条の4第4項)、これに該当すれば経理上は何費で計上しようと交際費等となります。「交際費勘定でなくて会議費勘定で処理したから交際費等には該当しない」と考えるのは誤りです。

よって、「仮払金勘定で処理しているから貸付金にはならない」という理屈はあまり説得力を持ちません。

「どうなると貸付金に認定されるのか」を検討する前に「貸付金として認定される」とどういうことになるのかを検討します。

法人税法における会社(つまり法人)はもっぱら経済合理性に従って常に収益獲得を目的とする主体です。具体的には、法人が他人と取引するときはすべて適正な時価(通常得べき対価の額、法人税法22条の2第4項)で取引したものとみなして法人の所得と法人税を計算します。

たとえ当事者間の契約で貸付金は無利息であっても、法人税の計算は「会社が他人におカネを貸し付けたら適切な利息(収入)を当然に受け取るもの」として行うことになります。

まず、「貸付金」と認定されると、会社は適正な利率による利息を収入として計上しなければならないのです。しかし、実際の帳簿上はもちろん計上していないため、法人税申告書上で当期純利益の額に受取利息の額を加算しなければなりませんが、これが漏れているということになります。

役員給与認定

次に、会社としては適正な利率による利息を相手(仮払いの相手方)からもらわなければならないところですが、実際は受け取っていません。つまり、実質的な「借り手」は、適正な利息による支払いを免除された、つまり、経済的利益を受けたことになります。

この会社が与えた経済的利益は、「借り手」が会社の役員である場合、役員に対する給与となります(法人税法34条4項、法人税基本通達9-2-9(7))。なお、「借り手」が会社の従業員である場合も従業員に対する給与となり、「借り手」が役員でも従業員でもない場合は、その借り手に対する寄付金となります。

ところで、役員給与は、会計上は費用として処理されますが、法人税法上でも損金として認められる要件は厳格です。典型的なものが定期同額給与(法人税法34条1項1号)であり、一定の金額を一定のタイミングで支給することが必要で、臨時に支払ったもの(つまり役員賞与)は損金になりません。

この点、「貸付金」残高の増減によって月々の認定利息も変動することになりえますが、役員に対する給与は通常一定の額でないと損金(定期同額給与、法人税法34条1項1号)として認められません。このため、貸付金利息(益金)が認定される一方で、役員給与(損金)は認められないのではないかとも思われますが、この場合は「おおむね一定」として定期同額給与となり損金算入が認められます(法人税法施行令69条1項2号、法人税基本通達9-2-11)。

課税処分(法人税)

法人税の申告は、損益計算書の当期純利益の額から、プラス要素(益金)とマイナス要素(損金)を加減算して法人税が課される所得金額を算定して税額を計算します。

貸付金利息の計上もれ(益金・・・加算)と役員給与(損金・・・減算)は基本的に同じ額であり、その場合はプラスとマイナスがゼロとなって法人所得の増減はなく法人税の追徴はないのでまったくダメージがないように思われます。

ただし、役員給与の額のうち不相当に高額な部分は損金の額に算入されませんが(法人税法34条2項)、この不相当に高額かどうかの判定にはこの経済的利益の部分も含めた額で判定されるため、この場合は減算部分がないため、所得の増加分と法人税の増加となります。

課税処分(所得税)

「プラスマイナスゼロだから痛くもかゆくもない」と思いがちですが、役員給与にしても従業員給与にしても生じるのは所得税の処分です。

「所得税は個人に課されるもので法人に課されるのは法人税だろ!」と思われるかもしれません。しかし、ここでの所得税は、法人が行う所得税の源泉徴収(と納付)です。

法人は、給料を支給する際には支給額によって定められた所得税の金額を源泉徴収して納付しなければなりません。

そして、実際に課税処分されるときは、月々の経済的利益の額を源泉徴収税額表に当てはめた額ではなく、月々すでに現金支給されているだろう役員の給与にこの経済的利益の額を加算した金額で源泉徴収する税額を計算したところで不足額を納付することになります。

その月々で納付していなかったわけですから、不納付加算税も納付することになります。

「仮払金」が貸付金として認定される場合

どのような場合に仮払金が貸付金として認定されるのでしょうか。

「仮払金」の精算状況

「仮払金」の残高とその精算状況が調べられます。判例のロジックは、「仮払金勘定は、現金等が支出された場合にその時点で処理すべき勘定科目や金額が確定していないときに一時的に処理する仮の勘定であるところ、会社の業務に関連して支出されたものであれば、それが長期間処理すべき相手勘定に振り替えられずにいることは一般的に考えられない」(東京地裁平成元.3.15)というものです。古い判例では、3事業年度にわたって精算されていない仮払金について貸付金と認定している事例(静岡地裁昭和35.9.20)もあります。

「仮払金」の使途

上記の判例(東京地裁平成元.3.15)でもそうですが、本来、仮払金は役員等が会社の業務に関連する支出をするために前もって仮払いするものです。よって、仮払金の使途は会社の業務に関連する支出に充てられなければならないことになります。

ところが、仮払金を受け取った役員等がその資金を会社の業務に関連する用途に充てずに個人的な用途に使われたということになれば、仮払金は実質的には貸付金となり役員等は会社に返還義務を負うことになります。ちなみに、課税当局は役員等の銀行口座の状況を調査できます。

「仮払金」の相手方の特定

誰に対する「貸付金」なのか、そして、利息相当額の経済的利益を受けたのかが調べられます。勘定科目内訳書では仮払金の相手方が親族や他人名義となっていても実際は誰なのか特定されます。上記判例でも、役員の親族の固定資産税の支払いに充てるための仮払いでも、実際は役員が親族の資金を管理しているとして実質的に当該役員に対する仮払金であると認定しています。

貸付金認定が取り消された事例

逆に、課税当局(と第一審)が仮払金を貸付金として認定したものが控訴審で覆った事例もあります。

これは、会社の代表者の給与の源泉所得税について裁判で係争中のところ、会社が本人から天引きする源泉所得税をいったん立て替え納付して仮払金としたものについて貸付金認定および認定利息相当額に係る経済的利益が認定されたところ、「仮払金」勘定で会計処理したのはその支払に係る訴訟提起中であることから不自然、不合理ではなく、納付税額と利息相当分を代表者に求償権を行使しないことが確定していたものとはいえないとし、貸付金認定を取り消しました(大阪高裁平3.9.26)。

最大のリスク・・・仮払金が役員賞与として認定

仮払金が貸付金として認定されても、認定利息(益金)と役員給与(損金)となり、しかも、過大役員給与でもないかぎり利息相当額の経済的利益は定期同額給与として損金となるため、プラスマイナスゼロで法人税の追徴はなく、所得税の源泉徴収漏れにすぎず、しかも、とはいえ、現在は超低金利自体となれば、よほど「仮払金」の残高が大きくないかぎりはあまり痛手はないという考え方もありえます。

ただし、最大のリスクは、仮払金残高が貸付金として認定されることではなく、残高そのものが役員給与として認定されることです。

この場合は、定期同額給与には該当しないため、いわゆる役員賞与として損金算入されず、さらに源泉徴収漏れとなる極めて厳しい処分となります。

この点については実際に国税不服審判所の裁決例(昭和54.6.18)があり、下記の理由から結論として役員賞与にはならないとされました。

  • 役員に交付した仮払金の一部については精算されている
  • 役員は仮払金について精算する意思がある
  • 会社も仮払金を精算する意思がある

ということは、逆に上記のいずれかが欠けると役員賞与と認定されるリスクがあるのかもしれません。

( つづく )