( 3 )売上高粉飾からのリカバリー

まずは実態の把握が肝要です。架空売上や先行売上が相当過去から常態化している場合、前期の数値だけのチェックでは足らないかもしれません。実は会社存続が危ぶまれるほどの状況かもしれません。

粉飾をすることそのものとか、粉飾を悪いことだとは思わないということよりも、粉飾していると思っていない、実態がわからないことのほうが恐ろしいことなのです。

過去のおかしな売上高の清算を一時に行うことができない場合、少しずつ減らす、つまり「償却」せざるをえないことになります。同時に、今期以降のおかしな売上高は可能な限り計上しないようにしなければなりません。

つまるところ、売上高の粉飾を清算・解消するためには、けっきょく正常な売上高を多く計上する、リアルな事業活動を改善・向上させることに尽きます。

悪循環とマヒ

借入れをしている金融機関に決算書類や経営計画を出してしまうと、どうしても「前期よりもいい内容にしなければならない」「計画以上の業績にしなければならない」という心理はノーマルなものといえます。

問題は、決算書類や経営計画がリアルな業績を反映しているのか(反映していたのか)どうかということです。

金融機関の担当者や責任者も、融資を実行することが自分の営業成績や人事評価につながるため、自分の首を絞めるような愚かなことはしないものです。このような奇妙なバランスは世の中至るところで見ることができます。

さて、もし前期の決算書が「背伸び」していた場合、当期の決算にその分のしわ寄せがくることになります。

たとえば、前期の決算の売上高が10,000であったとします。ところが、10,000のうち、本来ならば前期ではまだ売上高として計上できない(計上してはいけない)部分が2,000あったとします。つまり、本来の売上高は8,000(=10,000-2,000)であるところ、2,000だけ「背伸び」をしていたとします。背伸びの中味は、たとえばまだ出荷や役務の提供もしていないのに、ただ受注しただけで売上高に計上してしまったとします。

ここで、「今期は売上高は前期よりも上回る」と金融機関に「宣言」していたり、「前期よりも売上高が落ちることは許されない」というコダワリがあると、なんとしてもそれを達成しようとします。

さて、今期の売上高は8,000となりました。ところが、このうち2,000は本来だったら今期の売上高なのに前期の決算で売上高にしてしまったとします。すると、今期の本来の売上高は6,000(=8,000-2,000)ということになります。

これでは、前期よりも売上高40%ダウンということになってしまい、金融機関から今後新たな借入れができるかどうか不安が生じます。そこで、今期も「背伸び」をしなければならなくなります。

「今期は売上高は前期よりも上回る」ことが必要なため、今期の売上高をたとえば11,000にするためには5,000「背伸び」しなければなりません。

またもや、受注しただけで何ら出荷や役務の提供が何ら行われていない案件を売上高に計上してしまったり、それでも足りない場合には「受注したかもしれない」「受注したことにしたい」売上高を計上してしまいます。

この結果、決算書上は「売上高は前期10,000、今期11,000で業績は順調である」ということになりますが、実態は「売上高は前期8,000、今期6,000で厳しい状況」となります。

これは、おカネを貸している債権者サイド、つまり金融機関の担当者にとっても好ましくありません。なぜ売上高が落ちたのかその理由を調べて上司や審査部門に報告しなければならないからです。それに、今後新規の融資をして自分の営業成績を上げたくてもそれができないかもしれないからです。

このような状況だと、売上高が「前期10,000、今期11,000」であることは悪いことではないという心理に陥りがちです。

しかし、「背伸び」の額は、前期2,000で今期は5,000と増加しています。

これが続くと、本来の一般に公正妥当な会計基準に照らした売上高の計上はほぼ無視され、あるいは、無視せざるを得ない状況になってしまいます。

良心の呵責があるとしたらまだよいほうで、受注しただけで売上計上するのが当たり前になってしまい、粉飾しているという感覚はマヒ、それどころか「架空じゃないのにどこが悪いのか」「今さら売上高が激減するようなバカなことできるわけないだろ」「銀行のほうだって困るだろ」という状況になってしまうのです。

粉飾のために借入れ?

ところで、事業の性質によって違いはあるにせよ、販売(売上)にはコスト(売上原価)が伴うものです。しかし、売上を架空で計上したり先行して計上する場合、それに対する原価はリアルには発生していません。

ここで、粉飾してでも売上高を確保しなければならないときは、ただ損益計算書の一番上(売上高)をよくすればよいだけではなく、一番下(当期純利益)をよくしなければいけないという動機があるものです。

この場合、架空売上や先行売上を計上している場合は、経理上もこれらに対する原価を計上しないものです。つまり、原価率がゼロ%(粗利益率100%)、売上高イコール利益となります。

財務分析されて「前期に比べて粗利率が高いな」と指摘を受けたくない場合には、架空な売上原価を盛ることになりますが、過去何期もそのような状況が続いているときは、売上原価を盛るとかえっておかしくなるのでそのままにしてしまうものです。

利益が大きくなると課税所得も大きくなるため法人税等が追加的に発生します。法人税等の納期限は原則として決算日から2ヶ月後です(延長可)。また、その売上高が消費税法の課税売上に該当する場合、消費税の申告と納税も決算日から2ヶ月後(延長可)となります。税金の納付はキャッシュの流出にほかなりません。

よく、粉飾決算について「税務調査では何の指摘もなかった」という詭弁を弄する人もいますが、税務当局(あるいは国民)としては、あえて課税所得を膨らまして納税をしてくれているわけですから、ありがたい国への貢献であり、よほどのことがないかぎり(減額更正の)指摘するわけありません。

ところで、架空売上ならば当然ですが、翌期(以降)の売上高となるものを今期に計上してしまうということは、その売上高の相手方である得意先・顧客との関係では、モノを引き渡したりサービスの提供するなどの行為がまだ行われていないか十分でないことになります。

ということは、その得意先・顧客に対して、この計上した売上高に係る得意先への請求はできません(前金というような名目ならば別ですが)。

請求ができないということはキャッシュの流入がないことになります。

つまり、納税のキャッシュ流出が先行することになります。

売上高を計上することで、余計な税金を納税することでキャッシュを流出させ、これによりキャッシュが不足して新たな借り入れが必要になり、借り入れるためにさらに盛りまくりの経営計画を提出し、首尾よく融資を受けて金利を支払うことになります。

たしかに、納税とは、金融機関の信用を得るためのコスト、融資を受けるためのコストという側面もあります。

おカネに色はついていません。事業活動により顧客から流入したキャッシュなのか、そうではなく金融機関から融資を受けたキャッシュなのかは区別はつきません。

「おカネがなくなったら借りる」「借りるために粉飾をする」、金融機関の担当者も「貸したい」という動機があるかぎりそれに応じやすい、これが続いていくと、行き詰まったときの傷はより深いものとなります。

(余談)粗利率0%売上での粉飾

申し上げたとおり、架空売上や先行売上を計上している場合は、経理上もこれらに対する原価を計上しないものです。つまり、原価率がゼロ%(粗利益率100%)、売上高イコール利益となります。

さて、先行売上や架空売上を計上すると、それだけ売掛金や未収入金が貸借対照表の残高に反映されます。

このため、売掛金残高の内訳で不自然さが浮き彫りになり、しかも、これらの売上に対する入金はかなり遅い(先行売上の場合)かゼロ(架空売上の場合)ですから、財務分析で売掛金回転期間が悪くなって粉飾がばれやすくなります。

そこで、先行計上や架空計上について「(借方)〇〇費 (貸方)売上」というような仕訳をして、売掛金の残高に残さない手法をとる場合があります。

この手法の場合、売上高と原価(または販管費)が同じ額すなわち、売上高イコール売上原価なので、原価率100%(粗利益率0%)となります。

この方法は売上高の先行計上や架空計上に対して同額の費用(と仮払消費税)を計上することで利益はまったく増加しないため、法人税や消費税の追加負担をなくせるというメリット(?)があります。

しかし、このような売上高と売上原価が増えても利益そのものは増えないため、当然のことながら売上高利益率は悪くなります。 正常な売上高からの粗利益(売上総利益)がよほど大きくないと、最終赤字に転落してしまいます。

リカバリーへの道

(1)一般的なルールに基づいた実態把握

先行売上や架空売上の計上が常態化していると、決算作業は、前期の実績や予算(これらもある意味でインチキ)をベースにして作り込むことになってしまっています。

売上高の計上基準ももはやその会社の独自のルールとなってしまい、一般に公正妥当と認められる基準からは大きくことなってしまっているものです。しかも、「過去ずっとこれで来ていて特に問題なかったんだから」ということがやけに説得力を持ってしまうものです。

しかし、このままでは財務状況はいつまでも改善せず、借入金(有利子負債)の残高は減らず、「事業を止めたくても止められない」「会社を売りたくてもデューデリで粉飾がばれて買いたたかれる」「有利子負債が多くて敬遠される」ことになってしまいます。

まずは、実態の把握が肝要です。

一般に公正妥当とされる会計基準に基づいた売上高はいくらなのかを算定します。

架空売上や先行売上が相当過去から常態化している場合、前期の数値だけのチェックでは足らないかもしれません。

実は会社存続が危ぶまれるほどの状況かもしれません。

粉飾をすることそのものとか、粉飾を悪いことだとは思わないということよりも、実態がわからないことのほうが恐ろしいことなのです。

(2)過去分の「償却」

実態を把握した結果、過去に計上したおかしな売上高が(そうとう)あったことが判明した場合、本来ならばこれを一挙にマイナス計上することによって清算すべきです。

外野からはキレイごとはいくらでも言えますが、現実問題として、すでに過去かなり以前から先行売上や架空売上を繰り返しており、すでに二進も三進もいかない場合には、いきなりリアルな額を出すのは危険であるといえます

今期のマトモな売上高がよほど大きくて吸収しきれないと売上高が激減することになるため躊躇してしまいます。

そこで、過去のおかしな売上高の清算を一時に行うのではなく、少しずつ減らす、つまり「償却」せざるをえないことになります。

それと同時に、今期以降のおかしな売上高は可能な限り計上しないようにしなければなりません。

(3)正常な売上高アップ

経理上の机上の作業では限界があります。

売上高の粉飾を清算・解消するためには、けっきょく正常な売上高を多く計上する、リアルな事業活動を改善・向上させることに尽きます。

これがないと、なかなか悪循環から脱することはできません。

正常な売上高とは、正常なタイミングでのキャッシュの流入ということであり、財務状況の改善にもつながるのです。

( つづく )