( 2 )収益の粉飾への道と一片のモラル

ルールを外れる以前に、ルールの範囲内でできることを徹底的にすべきです。 徹底的に会計基準を分析検討し、理論構成・理論武装と、それを裏付ける事実を検証可能な形で作り上げていくべきです。

売上高を不正に計上したら、いつかそれを損失として処理しなければなりません。

そのためには、何が正規の取引で、何が不正な取引なのかをキチンと特定し裏付けできる証拠を持っていなければなりません。

そもそも論

企業会計なるものの重要な機能のひとつが、企業の財政状態と経営成績を算定することです。 企業は常に活動を続けていますが(継続企業の前提)、一定の期間(会計期間)で区切って経営成績(損益計算書)を算定します。そして区切った断面が財政状態(貸借対照表)となります。

さて、当然といえば当然ですが、関係者の関心事は財政状態よりも経営成績(期間損益)にあります。

ここで、利益は収益(主として売上高)から費用を差し引いて算定されます。

ということは、利益を出すには、売上高を増加させるか、費用を減少させるか、またはその両方ということになります。

利益を出さないようにするためには逆のアクションが必要になります。

粉飾の前にやるべきことはないか

粉飾に手を染め、深みにはまる前に、ルール上でやるべきことをやっているかをチェックします。

とりわけ、現状がそもそもルールに準拠しているのどうかを検証すべきです。

基本的なものとして、現金主義的に売上を計上していたために本来計上すべき額がもれていたり、いわゆる「締め後売上高」の計上がなかったり、原価計算をまともにやっていないために棚卸資産となるべき額が過少だったりしていることもあります。 融資の保証料など前払費用にすべきものがあるにもかかわらずそのまま全額費用計上していたりしていることもあります。

ルールを外れる以前に、ルールの範囲内でできることを徹底的にすべきです。

徹底的に会計基準を分析検討し、理論構成・理論武装と、それを裏付ける事実を検証可能な形で作り上げていくべきです。

希望的観測または自己陶酔的な我田引水で薄っぺらな解釈をしたり、雑な裏付けや処理をしていると、簡単にひっくり返されてしまいます。

あるいは、「過去それでやってきたから」「なんの指摘もなかったから」という自己保身または当事者意識が感じられないスタンスではクリエイティブな発想はなかなか出てこないと思われます。

売上高粉飾への道

諸事情により求められている売上高があり、いかに現場での営業努力をもってしても、いかに机上での理論構成を試みてもそれが不可能となると、悪魔がささやくことになります。

それは、翌期の売上高を先行計上してしまうことから始まり、最後はまったく根拠のない売上を計上してしまうことです。

翌期にそれを清算できればよいのですが、できない場合、それはどんどん膨らんでいくことになります。

先行計上

比較的浅いものとして、売上高の先行計上があります。 つまり、会計期間中に発生した収益と費用を適切に取り込むことが当該期間の正確な期間損益を計算する前提となるわけですが、翌期以降に計上すべき売上高を当期の売上高としてしまうのです。

まずイメージできるのが、たとえばサービス業におけるアフターサービスなどの保守契約です。これは、通常1年先または数年先までの期間について顧客から先に対価を受け取っていることが一般的です。 この売上高は、時の経過に応じて収益(売上高)を計上すべきです。

しかし、売上高がどうしても足りないと、受け取った金額を全額その期の収益(売上高)にしたくなってしまいます。

このように、会計基準における収益計上ができるためのいくつかの要件のうちほとんどを満たしていて、翌期(決算作業中)には売上高が計上できるようなものを先行計上してしまいます。

見込み計上

それでも売上高が絞りだせないと、会計上収益として計上できるような要件を満たしていないどころか、収益計上と結びつくような活動(製造や仕入やサービスの提供)すらなんら着手していないのに、受注したものを売上高として計上してしまいます。

典型的なのが、上記の保守契約といった期間と対応するものではなく、単に受注額の一部を前受金(貸借対照表では負債として計上)として支払いを受けている場合、本来売上高として計上できるタイミングよりも前に売上高に振り替えてしまうのです。

架空まではいかないにしても、すでにルールからの逸脱が顕著になっています。

架空計上

売上高を見込み計上してもなお数字が足りないという場合、いよいよ何の根拠もない架空売上を計上することになります。

とはいえ、最初はまだ良心のかけらが残っているケースがあります。たとえば、いわゆる「締め後売上高」です。

通常の会計期間は月の末日までですが、対外的な締め日は必ずしもそうでなく、20日締めということも相当あります。 会計実務では、売掛金勘定や買掛金勘定や未払金勘定などの帳簿上の消し込み状況の視認性などから、請求や支払いの締め日ベースで収益や費用の会計処理を行うことが少なくありません。 このような場合、会計上は、少なくとも決算月の21日から末日までの収益を計上しなければなりません。 会計監査や税務調査でもおなじみの事項です。

(借) 売掛金 XXX (貸) 売上高 XXX

さて、この締め後売上高は、翌会計期間(翌月や翌期)に反対仕訳等によって取り消されることになります。

(借) 売上高 XXX (貸) 売掛金 XXX

この翌期に「反対仕訳で取り消されてしまう」ことを悪用して、締め後売上高を過大に計上するのです。

と申しますのも、架空売上に係る入金額はないため、架空売上に係る売掛金は、そのまま貸借対照表に残ってしまいます。ところが、締め後売上高ならば、翌期の反対仕訳で消えてしまうのです。

常習への転落

たとえば、売上高の一部について先行計上や見込み計上や架空計上をしていたとします。

これを解消するには、翌期にこれらの売上高を清算、すなわちマイナスできるだけの正規の売上高がなければなりません。

先の締め後売上高でいえば、架空部分が大きくなればなるほど、翌期に反対仕訳でマイナスする部分が大きくなります。つまり、翌期に正規の売上高でカバーできないと、翌期末により大きな架空売上をしなければならなくなります。

前期に、本来80の売上高なのに100でなければならない事情があり、20の不正な売上高を計上してしまったら、今期はその20を減額できたらよいのですが、今期は今期で120でなければならない事情があり、実情は90しかないと、とても20を減額することはできず、それどころか今期もまた30の不正売上高を計上しなければなりません。

まるでギャンブルで落ちぶれていく場合と同じなのです。

より大胆に

それでもまだ余裕があるうちは、なるべくバレまいと、巧みに玉石混交にして見つかりずらくするものです。たとえば1年分の保守契約に係る対価を前受して時の経過にしたがって売上高を計上する取引のうち、一部だけを全額売上高にして目立たなくしたりするものです。

しかし、翌期でリカバリーできないと、どんどんおかしな処理のほうが幅を利かせてしまいます。

また、利益を出したいわけですから、不正な処理をする場合は、売上高だけを追加計上し、売上高に対する売上原価はまったく計上しないものです。つまり、原価率0%、計上した全額が利益となります。

ところで、仕訳では、売上高(貸方)の相手科目(借方)は通常は売掛金となります。とはいえ、架空売上によって得意先から入金があることはありません。このままでは貸借対照表の売掛金の残高が膨らんでしまいます。

しかも、決算書に添付する勘定科目内訳明細書では、得意先ごとの残高を示し、これは金融機関等にも提出することになります。 特定の得意先に対する売掛金残高が極端に大きかったり、毎期残高が増えていると不自然さが際立ちます。

そこで、ひとつの得意先ではなく複数の得意先に対する売上ということにして目立たなくしたり、あるいは、あるいは、とくに同族会社にありがちな役員等からの借入金と相殺するというメチャクチャな処理を行います。

さらに、下記のような処理をまったく当然のようにしてしまうことになります。

(借) 売上原価(業務委託費や仕入) XXX (貸) 売上高 XXX

このような、ただ見た目の売上高を大きくするだけで利益すらない処理をまったく当然のようにしてしまうことになります。

(余談)チェックする側の心がけ

これらの処理は、複雑な仕訳にすると元帳を見たのではわかりずらくなります。たとえば、1行仕訳ならば元帳に相手科目が出ますが、複数行の仕訳や借方と貸方を別の行にする振替仕訳ならば、元帳に相手科目は出ません。

このような場合、試算表と元帳を入手してチェックするだけではあまり意味がなく、仕訳のデータ(仕訳日記帳など)を直接エクスポートしてチェックすべきなのです。

また、決算書を分析してどうのというのは否定しませんが、そもそも分析されておかしくないように作り込むわけですから、「お仕事しました」というセレモニーではなく真剣にチェックしようとすれば、仕訳情報を徹底的にチェックすべきです。

いつの日かのために重要なこと

「バレたときはすべて終了」ではあまりにも無責任です。いつかは正常なものに回帰しなければなりません。

それは、それまでは収益として計上してきたものを、損失として処理しなければならないということです。

問題は、損失で処理することによって利益が減少するという生易しいものではありません。

税金をムダに支払うことになるのです。

もともと、不正な売上高を計上したことにより、法人税や消費税をムダに納めていることもあります。

ところが、これら過去の不正な売上高を損失として処理した場合、その損失が法人税法上の損金として認められないリスクがあり、また、消費税の還付(納付額の減少)を受けられないリスクがあるのです。

これを可能な限り回避するためにも、何が正規の取引で、何が不正な取引なのかをキチンと特定し裏付けできる証拠を持っていなければなりません。

それこそが、担当者の真の意味での保身になり、ひょっとしたら企業を救うことにもなるのです。

長い期間の粉飾になればなるほど、1期ですべてケリがつくわけではありません。だから繰り越されてきているのです。徐々に解消していくほかないのです。

( つづく )