サービス業の「期末在庫」
原価計算というと、「この製品ひとつの価格はいくらなのか」というイメージで、製造業以外は関係ないというふうになりがちです。
しかし、「製品ひとつ作るのにいくらかかったのか」というアプローチではなく、この売上をするのにどれだけのコストがかかったのか(これを売上原価といいます。)というアプローチですと、製造業のみならずすべての企業に妥当することになります。
ふたつのコスト
売上の有無にかかわらず、企業はずっと活動をしています。従業員を雇用し事業に必要なモノを買いサービスの提供を受け電気や水道を使います。つまり、企業が事業をすればコストは常に発生しています。
もっとも、コストにも、販売(収益獲得)活動と直接関連する部分(売上原価)とそれ以外の部分(期間費用)があります。損益計算書でいえば、前者が売上原価で、後者が販売費及び一般管理費や営業外費用などになります。
売上原価とは、会計期間中に発生した製品の製造や商品の仕入れに要したコストのうち、販売された製品や商品に対応する部分です。
たとえば、製造業を営む企業で、当期中に発生したコストが500あり、このうち、製品の製造に要したコストが200、それ以外のコストが300の場合には、売上原価は200、販売費及び一般管理費が300となります。
もし、当期中に製造された製品や仕入れた商品がすべて販売された場合、すなわち、期末の在庫がゼロの場合には、当期中に発生したすべての製造コストや仕入コストは、損益計算書上で売上原価ということになります。 たとえば、当期中の商品の仕入れが100あり、そのすべてが販売された(150)の場合、損益計算書では、売上高は150、売上原価は100、売上総利益は50となります。
ところが、もし製品や商品がまったく売れなかった場合、すなわち、すべてが在庫で残ってしまった場合には、当期中に発生したすべての製造コストや仕入コストは、損益計算書上で売上原価にすることができません。
なぜなら、重要な会計原則に、収益(売上高)と費用(売上原価など)は対応していなければならないからです。
売上高がゼロならば、売上原価もゼロなのです(ただし、ゼロ円で売り上げた場合には、売上高はゼロですが売上原価は発生します。)。
たとえば、当期中の商品の仕入れが100あり、そのすべてが売れなかった場合、損益計算書では、売上高はゼロ、売上原価はゼロ、売上総利益はゼロとなります。この商品在庫100は、翌期以降に商品が販売された(売上高が計上された)時点で売上原価となります。
では、この在庫100は経理的にどう処理するのでしょうか。貸借対照表の流動資産となったのです。フロー(期間(事業年度)における損益)ではなく、ストック(一時点(期末)における資産)として翌期に繰り越されるのです。
サービス業でも存在する「期末在庫」
一般的にいう期末在庫とは、決算日が終わる(翌会計期が始まる)タイミングに、店や工場や倉庫等にある会社に所有権がある物品です。
会計理論でいう期末在庫(棚卸資産)は、これらのほかに、「当期に計上できず翌期以降に計上することになった売上高に対応するコスト(原価)」も含まれます。
さて、原価計算というと、「この製品ひとつの価格はいくらなのか」というイメージで、製造業以外は関係ないというふうになりがちです。
しかし、「製品ひとつ作るのにいくらかかったのか」というアプローチではなく、この売上を生み出すのにどれだけのコストがかかったのか(これを売上原価といいます。)というアプローチだと、製造業のみならずすべての企業に妥当することになります。
サービス業における売上高の計上時点は、「サービスの提供の完了」かつ「それに対する対価の成立」をともに満たした時点です。
イメージ的には「請求書が発行できる時点」になります。
とはいえ、売上高の計上時点である「サービスの提供の完了」といっても、以下のような時点があります。
- 求められた成果物(作業終了後の物品等の提供や最終報告書など)の提供した時点
- 契約では成果物の提供が目的でも一定の段階まで提供した時点
- 継続的なサービスの提供の場合には期限(締め日)を区切った時点
もし、当期中に発生した売上高の計上に要したコストについて、それに対応する売上高が決算日において余すところなくすべて計上できる場合には、「在庫」はありません。 ところが、当期中に発生したこのコストのうち、次のような場合には会計上の「在庫」があることになります。
- 1. で、当期末までに成果物の提供ができない場合、当期中そのサービスに要したすべてのコスト
- 2. で、当期末までに一定の段階まで提供できない場合、当期中そのサービスに要したすべてのコスト
かんたんな設例
たとえば、当期末までに受注額100のサービスを仕上げようとしたものの結局間に合わなかったという場合で、このサービスの提供に要したコストが60だったとします。
コストはかかったものの、売上は計上できません。しかし、このコスト60は当期の費用となるのではなく、翌期に売上が計上されたときにこれに対応して費用となります。この点で、この60は「期末在庫」とも言えるものです。
このため、損益計算書では、売上高はゼロ、売上原価はゼロ、売上総利益はゼロとなります。
そして、「期末在庫」60は、フロー(期間(事業年度)における損益)ではなく、ストック(一時点(期末)における資産)、すなわち、貸借対照表の流動資産として翌期に繰り越されるのです。
翌期、売上高100が計上でき、翌期に発生した追加的コストが5だった場合、売上原価は、前期から繰り越された60を加えた65となります。
よって、損益計算書では、売上高は100、売上原価は65、売上総利益は35となります。
(おわり)