「締め後売上高」のみならず「締め後仕入高」の計上を忘れずに

実務において、「締め後売上高」は計上しても、「締め後仕入高」は計上しないケースがあります。 「締め後売上高は計上しないと税務調査でやられちゃうけど、原価のほうは計上しなくてもその分だけ利益(所得)が大きくなって税金多く払っているのだからある意味「保守的」じゃないか」という背景があるかもしれません。

しかし、締め後仕入高の未計上は、棚卸資産の評価計算にも影響を及ぼします。また、仕入高だけでなく、人件費や外注費(業務委託費)でも締め日が月末でない場合は同様の問題が生じます。

締め日と売上計上の関係

一般に、会計上の売上は「製品や商品の引渡し(出荷)や役務(サービス)の提供が完了」「それに対する対価が成立」をともに満たした時点で認識・測定されます。

会計期間中の売上高はもれなく計上しなければなりませんが、帳簿上、個々の取引で売上が実現した都度、売上高を計上しなければならないわけではありません。

1日の売上について、製品等の種類ごとにまとめて売上高を帳簿入力することもあります。 とりわけ掛売上については、売上の都度ではなく、得意先への請求書をベースに売上高を帳簿入力するのが一般的です。 これは、通常得意先からは請求書に基づいて支払を受けるため、帳簿上の売掛金残高の消し込みが容易であり、得意先元帳の管理が楽だからです。これらの場合、個々の詳細な売上内容は、帳簿ではなく、別システム等(販売管理システムなど)で管理することになります。

さて、得意先との支払の条件(締め日と支払日)、とりわけ締め日は必ずしも月末締め(月初日から月末日まで)とは限りません。20日締めの場合には、前月21日から当月20日までの売上について請求書を作成・通知することになります。

決算日が3月31日で、得意先に対する締め日が20日締めである場合、少なくとも3月20日締めまでの請求書に基づく売上高は計上されているはずです。入金ベースで売上高を計上する「(期中)現金主義会計」ならば別ですが・・・

締め日と仕入計上の関係

いっぽう、会計期間中の仕入高ももれなく計上しなければなりませんが、帳簿上、個々の取引で仕入をした都度、仕入高を計上しなければならないわけではありません。

1日の仕入について、商品等の種類ごとにまとめて仕入高を帳簿入力することもあります。 とりわけ掛仕入については、仕入の都度ではなく、仕入先からの請求書をベースに仕入高を帳簿入力することが一般的です。 これは、通常仕入先には請求書に基づいて支払をするため、帳簿上の買掛金残高の消し込みが容易であり、仕入先元帳の管理が楽だからです。これらの場合、個々の詳細な仕入内容は、帳簿ではなく、別システム等(購買管理システムや在庫管理システムなど)で管理することになります。

さて、仕入先との支払の条件(締め日と支払日)、とりわけ締め日は必ずしも月末締め(月初日から月末日まで)とは限りません。20日締めの場合には、前月21日から当月20日までの仕入の請求書を受け取ることになります。

決算日が3月31日で、仕入先に対する締め日が20日締めである場合、少なくとも3月20日締めまでの請求書に基づく仕入高は計上されているはずです。支払ベースで仕入高を計上する「(期中)現金主義会計」ならば別ですが・・・

売上原価と期末在庫の関係

損益計算書では、売上高から当該売上高に係る原価(売上原価)が差し引かれて売上総利益(いわゆるアラリ(粗利益))が計算・掲記されます。

売上原価は、売上の発生の都度、その内容(商品、製品、サービスなど)が把握されますが、まさにその売り上げの内容に対してかかったコスト(仕入高や製造費用など)です。

そして、損益計算書の表示では、売上原価は「期首棚卸高+当期仕入高(当期製品製造原価)-期末棚卸高」となります。なお、製造業における仕入高すなわち当期製品製造原価は、製造原価報告書での表示は「当期材料費(期首材料棚卸高+当期材料仕入高-期末材料棚卸高)+当期労務費+当期製造経費+期首仕掛品棚卸高-期末仕掛品棚卸高」となります。

損益計算書の「期末棚卸高」は、貸借対照表の「棚卸資産(商品、製品、材料、仕掛品など)」となります。

期末棚卸高には「会計期間末に現実に存在している在庫の価額」という側面だけでなく、「翌期以降の売上高の原価として対応させるため、当期の損益計算(書)から除外して貸借対照表の資産に計上する」という理論的な側面があります。

期末の棚卸について

理想的な展開

仕入の都度在庫が増加し、売上の都度在庫が減少する状況は、会計帳簿によってではないにせよ、システム上などで管理されていることになります(継続記録法)。

すると、システム上は会計期間末日の在庫も把握できていることになります。

しかし、システム上(帳簿上)の在庫が、現実に存在する在庫と一致しないこともありえます。そこで、実際に在庫をカウントするのが棚卸(実地棚卸)です。

そして、帳簿上の在庫(帳簿棚卸高)を実地棚卸高に合わせ、差額を損益処理し、損益計算書上の「期末棚卸高」(貸借対照表上の「棚卸資産」)とします。

現実に少なくない展開

在庫管理は経営活動の生命線のひとつですが、現実には、さまざまな事情により在庫の管理がじゅうぶんに行われず、会計期間末日に実地棚卸を行い、これを期末棚卸高とすることが少なくありません(棚卸計算法)。

まさに、損益計算書の表示そのままのやり方です。

継続記録法と異なり実際の在庫の動きは把握していないため、とにかく期末に実際にあるものがすべてであり、それ以外の部分はすべて損益計算書の表示そのままに売上原価となります。

締め後取引の計上

実地棚卸した在庫(数)は、決算日に仕入れたものも含まれますが、決算日に売り上げられたものは含まれません。実際に存在するものをカウントしているわけですから当然です。

いっぽう、帳簿上は、上記の例で行くと、売上高について3月20日までの分が計上され、いっぽう、仕入高についても3月20日までの分が計上されています。

このまま決算を終了するとどのような問題がおきるでしょうか

売上計上もれ

得意先との約定に基づいて請求書を発行し、請求書に従って売上高を計上しているため、帳簿上、売上高について3月20日までの分が計上されています。

3月21日から3月31日までの売上高(締め後売上高)を計上しなければなりません。

いっぽう、期末(3月31日)に行った実地棚卸は、まさに期末に存在する在庫であり、3月21日から3月31日までに売り上げた在庫は存在していません。

このまま決算を終了してしまうと、売上高の計上もれとなります。

しかも、締め後売上の分も含めて売上原価になっているため、売上原価も過大ということになります。

とはいえ、「締め後売上高」の計上は、典型的な決算整理事項であり、これを失念することはあまりないと考えられます。

仕入計上もれ

いっぽう、仕入については、仕入先との約定に基づいて請求書が通知されており、請求書に従って仕入高を計上しているため、帳簿上、仕入高について3月20日までの分が計上されています。

期末に行った実地棚卸は、まさに期末に存在する在庫であり、3月21日から3月31日までに納品されたもの(のうち売り上げされていないもの)は在庫に入っています。

このまま決算を終了してしまうと、3月21日から3月31日までの仕入高が計上されていないため、その部分だけ売上原価が過少になります。つまり、利益の過大計上となります。

そこで、3月21日から3月31日までの仕入高(締め後仕入高)を計上しなければなりません。

締め後売上高は計上しても、締め後仕入高は計上しないことによる悪影響

ところが、実務において、「締め後売上高」は計上しても、「締め後仕入高」は計上しないケースがあります。

単純に失念したというばかりではありません。

「締め後売上高は計上しないと税務調査でやられちゃうけど、仕入のほうは計上しなくてもその分だけ利益(所得)が大きくなって税金多く払っているのだからある意味「保守的」じゃないか」というものです。

過大な納税と資金繰りへの悪影響

しかし、資金繰りの関係などで、仕入れの締め日(3月20日)を過ぎてから大量に仕入れを行う場合もあります。この場合で締め後仕入高を計上しないのに、期末の在庫は締め後仕入高を反映したものとなると、ますます売上原価が過少になります。よって、利益が大きくなり法人所得も大きくなるわけですから余計な法人税を納税することになり、資金繰りに悪影響を及ぼします。

しかも、法人税だけではありません。 締め後仕入高が消費税の「課税仕入れ」に該当する場合には、それだけ消費税の申告で仮受消費税等から差し引く額が減少してしまい、消費税の申告納付額が大きくなり、さらに資金繰りに悪影響を及ぼします。

売上原価の算定に及ぼす悪影響

そして、損益計算書の表示では、売上原価は「期首棚卸高+当期仕入高(当期製品製造原価)-期末棚卸高」となります。なお、製造業における仕入高すなわち当期製品製造原価は、製造原価報告書での表示は「当期材料費(期首材料棚卸高+当期材料仕入高-期末材料棚卸高)+当期労務費+当期製造経費+期首仕掛品棚卸高-期末仕掛品棚卸高」となります。

さて、「売上原価」すなわち「期首棚卸高」「当期仕入高」「期末棚卸高」は、数量×単価で計算された金額です。

売上原価となるもの、つまり、実際に売り上げられた在庫は、その種類や数量については正確にとらえることができても、その単価について管理することは容易ではありません。期末の在庫についても「これはいくらで仕入れこれはいくらで仕入れたもの」として算定することはほぼ不可能といえます。

そこで、経理上または税務上は、単価の算定について、実際のモノ等の動きとは別に一定の仮定に基づいて行います。

つまり、上記の算式は足し算と引き算ですが、見方を変えれば「期首の棚卸高と当期の仕入高」の金額を「売上原価と期末の棚卸高」に配分するともいえます。

この配分計算こそ「棚卸資産の評価方法」というものであり、簿記の試験でもおなじみの個別法、先入先出法、平均法(総平均法、移動平均法)、売価還元法などです。

締め後仕入高を計上しない場合には、評価計算に影響を及ぼすことになります。

影響が軽微で重要性の原則が適用されないのであればともかく、そうでない場合は再計算を行うべきといえます。

製造原価と「締め後」

「仕入れは卸売業や小売業のものだろ?ウチは違うから」という考え方があります。

しかし、製造業やサービス業であった場合ならば、まったく関係ないのでしょうか。

卸売業や小売業ではない場合には、(製造)原価計算を行わなければなりません。

原価計算の要素としては、材料費、労務費および経費がありますが、いずれも「締め後」が絡むことになります。

材料の仕入れの締め日、給料や賞与の締め日、経費(外注加工費や業務委託費)の締め日などです。

原価計算となると、計算がより複雑になるため、再計算の場合もより労力を要することになります。

(おわり)