( 2 )株券発行会社における株式の譲渡

株券発行会社に特有の問題について検討したいと思います。

会社法施行日現在で存在する株式会社は、定款による定めがないかぎり、株券発行会社です。

株券発行会社の場合、会社は株券を発行しなければなりませんが、株式を譲渡する場合には株券の交付が必要になります。このため、株式譲渡の前に譲渡人は株券を準備することが必要になります。

なお、テーマの関係上、株券に密接に絡む株券喪失登録制度(会社法221条以下)につきましては説明を割愛させていただきます。

株券発行会社とは

株券発行会社とは、会社が発行するすべての株式について株券を発行する旨を定款で定めた会社をいいます。

会社法施行(平成18年5月1日)前に設立された株式会社は、定款で株券を発行しない旨を定めない限り株券を発行する必要がありました(平成17年改正前の商法227条1項)。 このため、定款で株券を発行しない旨の定めがなければ、株券発行会社である旨の定款の記載があるものとみなされます(会社法整備法76条4項)。

重要なのは、譲渡制限株式を譲渡するためには会社に承認を得なければなりませんが、その前に、当該株式を発行している会社が株券発行会社の場合、譲受人に株券を交付しなければ効力が生じないため、手元に株券を準備しなければならないことになります。

さらにその前段階として、当該株式の発行会社が株券発行会社かどうかを確認しなければならないのです。

株券発行会社かどうかは登記で公示されるため、登記簿謄本で確認できます。ただし、株券発行会社でも、その後定款で株券を発行しないことに変更し、その変更がまだ登記されていない可能性も残ります。

日付が記載された最新の定款(の写し)を入手するのが理想的です。

株券発行会社における株式の譲渡

株式会社の株主は、その有する株式を譲渡することができます(会社法127条)。

株式の譲渡とは、契約によって株式を他人に譲渡することをいいます。

とすると、契約当事者すなわち譲渡人と譲受人との意思表示のみで譲渡の効力は発生しそうです。

ところが、会社法128条1項は「株券発行会社の株式の譲渡は、当該株式に係る株券を交付しなければ、その効力を生じない。」と規定しています。

つまり、株券発行会社の場合、株式の譲渡において意思表示は契約の成立要件ではあるものの効力要件ではなく、株券の交付がなければ株式譲渡の効力が生じないのです。

この場合、株券の交付は、現実の引渡し(民法182条1項)のみならず、簡易の引渡し(民法182条2項)、占有改定(民法183条)または指図による占有移転(民法184条)も含まれます。

ちなみに、譲受人が会社に対して株式の譲渡があったこと(つまり自分が株主であること)を主張するためには、株主名簿の名簿書換えがなければなりません(会社法130条2項)。この点で、株式の譲渡における譲受人の会社に対する対抗要件は、株主名簿の名義書換えとなります。

株券発行会社でも株式の譲渡で株券の交付を要しない場合

株券発行会社の株式の譲渡は、当該株式に係る株券を交付しなければその効力を生じません(会社法128条1項)が、株券発行会社の株式の譲渡(というより移転)については、株券の交付を要しない場合があります。

相続、合併、会社分割等の一般承継による権利の移転、取得条項付株式の取得(会社法170条)、株式交換・株式移転による株式の移転(会社法769条1項、774条1項)、そして、自己株式の処分(会社法128条1項但書、129条)です。

ところが、実務上は必ずしもそうでないことがあります。

株券発行会社で株主が株券を持っていない場合

株券発行会社は、株式を発行した日(会社法50条1項、102条2項、209条)以降、遅滞なく株券を発行しなければなりません(会社法215条1項)。

株券発行会社の株主は保有する株式を表章する株券も所有し、株式を譲渡する場合は、所有している株式を交付することになります。しかし、株主が株券を持っていない場合(株主の紛失等とは別です。)があります。

  • 定款で単元未満株式に係る株券を発行しない旨を定めた場合(会社法189条3項)
  • 公開会社でない株券発行会社で、株主から株券発行の請求がない場合(会社法215条4項)
  • 公開会社でない株券発行会社で、自己株式の処分による株式取得者から株券交付の請求がない場合(会社法129条2項)
  • 株主が株券不所持の申出をした場合(株券不所持制度、会社法217条)

重要なのは、株券発行会社における株式の譲渡には株券の交付が必要であり(会社法128条1項)、株式を所有していない株主が株式を譲渡しようとする場合には、事前に会社に株券を交付するよう請求しなければならないのです。

公開会社でない株券発行会社の特例

株式の譲渡、というより、株式の譲渡によって株式を取得した者が株主としての権利を享受するには会社の承認が必要なこと、そもそも頻繁に株式が譲渡されないために株券の交付が求められる必要性がないことなどから、公開会社でない株券発行会社では、株式を発行しても、株主から請求がある時までは株券を発行しないことができます(会社法215条4項)。

なお、この制度は「公開会社でない株券発行会社」すなわち、会社が発行する株式がすべて譲渡制限株式の会社で適用され、会社が発行する一部の株式が譲渡制限株式(会社法108条1項4号)にすぎない株券発行会社は、原則通り株券発行後遅滞なく株券を交付しなければなりません(会社法215条1項)。

自己株式の処分

自己株式の処分とは、(株券発行会社であるか否かを問わず)株式を発行する会社が自ら保有する株式(自己株式(金庫株))を会社以外の者に移転することをいいます。

株券発行会社における株式の譲渡は株券の交付によって効力が生じますが、自己株式の処分における株式の譲渡は、会社は譲渡時に株券の交付を要しません(会社法128条1項但書)。この場合、自己株式の処分による譲渡の効力が生じるのは、株券の交付のときではなく金銭の払込み等の期日(払込期間を定めた場合には出資の履行をした日)となります(199条1項4号、209条)。もっとも、自己株式を処分した日以後遅滞なく、当該自己株式を取得した者に対し株券を交付しなければなりません(会社法129条1項)。

ただし、公開会社でない株券発行会社(つまり、発行する株式すべてが譲渡制限株式である会社)は、自己株式の処分で株式を取得した者から株券を交付するよう請求がある時までは、株券を交付しなくてよいのです(129条2項)。

なお、この制度は「公開会社でない株券発行会社」すなわち、会社が発行する株式がすべて譲渡制限株式の会社で適用され、会社が発行する一部の株式が譲渡制限株式(会社法108条1項4号)にすぎない株券発行会社は、原則通り自己株式の処分の後遅滞なく株券を交付しなければなりません(129条1項)。

株券不所持制度

株券を所持していると、紛失した場合には第三者に善意取得(会社法131条2項)されるおそれがあるため、株主が、会社に対して株券の所持を希望しない旨を申し出ることができます。これを株券不所持制度といいます(会社法217条)。

株券不所持の申出をした株主は、会社に対していつでも株券の発行を請求できます(会社法217条6項)。

重要なのは、株券発行会社における株式の譲渡には株券の交付が必要であり(会社法128条1項)、株式を所有していない株主が株式を譲渡しようとする場合には、事前に会社に株券を交付するよう請求しなければならないのです。

もし、秘密に行動して、時間切れで譲渡が承認されたものとみなされる(会社法145条など)ことを狙っている場合、この請求で会社に「株式譲渡のための準備では?」とアヤしまれることになります。

株券発行前の株式の譲渡

株券発行会社であっても株券を発行(交付)しないために、株主が株券を保有していないことがあります。そこで株主が株式を譲渡しようとするときは、会社に対して株券を発行(交付)するよう請求することになります。会社は遅滞なく株券発行手続を行います。

さて、会社が株主からの請求に応じて株券の発行手続を遅滞なく行っている間に株式の譲渡が行われた場合にはどうなるのでしょうか。

会社法128条2項によれば、株券の発行前にした譲渡は、株券発行会社に対してはその効力を生じませんが、当事者間で有効かどうかは見解が分かれています。

株券発行手続が遅滞している場合、または、会社が株券発行手続を拒否している場合

会社法128条2項によれば、株券の発行前にした譲渡は、株券発行会社に対してはその効力を生じませんが、株券発行会社の株主が株券の発行を請求しても、会社が不当に発行を拒絶する場合には、株券発行遅滞の問題となります。

会社が株券発行を遅滞する場合の株券発行前の譲渡の効力について、判例は、株主は、意思表示のみにより株式を譲渡することができ、会社は株券発行前であることを理由にその効力を否定することはできないとしています(最判昭和47.11.8、最判昭和49.9.26、大阪高判昭和55.11.5)。

株券の善意取得

株券発行会社において、株式の譲渡は株券の交付によって行われる(128条1項)ので、株券の占有者は株券の交付により株式の譲渡を受けて株券を占有している可能性が高いことから、株券の占有者は適法な権利者として推定されます(会社法131条1項)。

適法な権利者と推定される株券の占有者は、会社に対して株券を呈示して名義書換えを請求できます(会社法133条2項、会社法施行規則22条2項1号)。会社は、名義書換請求者が無権利者であることにつき悪意・重過失がないかぎり、無権利者の請求に応じたとしても免責されます。この場合の悪意・重過失とは、会社が名義書換請求者が無権利者であることを立証できるにもかかわらず、故意または重大な過失によりそれを怠ることです。会社が名義書換請求者が無権利者であることを認識していてもそれを立証できるだけの証拠がない場合には株主名簿の名義書換え請求を拒むことはできません。

株券の占有者は適法な所持人と推定されることから、その占有者(本来は無権利者)から株券の交付を受けた者は、悪意・重過失がないかぎり、当該株券に係る株式についての権利を取得(善意取得)します(会社法131条2項)。

善意取得が成立すると、従前の株主は権利を失い、善意取得者は従前の株主に株券を変更する必要はなくなります(会社法131条2項)。

譲渡制限株式の場合

譲渡による当該株券に係る株式の取得について株式会社の承認を要することを定めたときはその旨を株券に記載しなければなりません(会社法216条3項)。

また、発行する一部の株式を種類株式として譲渡制限株式とする(108条1項4号)の場合でも、当該株券に係る株式の種類及びその内容を株券に記載しなければなりません(会社法216条4項)。

このため、譲渡制限が付されている株式については、株券上にその旨が記載されているため、これを譲り受けようとする者は、取締役会での承認の有無または承認が得られる可能性があるかどうか調査したり、株主名簿上の株主に照会するのが通常と考えられるため、調査や照会をしなかった場合には重過失ありと判断されて善意取得が成立しなかった事例があります(東京高判平成5.11.16)。

この点で、譲渡制限株式について善意取得ということはあまりないと考えられています(アドバンス新会社法P146)。

株券発行会社の譲渡制限株式の譲渡について

譲渡制限が付してあるか否かにかかわりなく、株券発行会社における株式の譲渡には株券の交付が必要です(会社法128条1項)。

このため、株主(譲渡人)は、前もって株券が手元にあるかどうかを確認する必要があります。株券発行会社が公開会社でない会社であり株券を発行していない場合や株券不所持を申し出ている場合には株券を発行してもらい(会社法215条4項、会社法217条6項)、株券を紛失した場合には株券喪失登録(会社法221条以下)をします。

詳細については次回以降で申し上げますが、株券発行会社における譲渡制限株式の譲渡承認手続関係では、株券の供託があります。

譲渡等承認請求にあたり、譲渡を承認しないときは会社または指定買取人が買い取るよう併せて請求していた場合(会社法138条1号ハ)に、会社が譲渡を承認しない旨の決定をしたときは、会社または指定買取人が買い取ることになります(会社法140条1項、4項)。

この場合、会社または指定買取人からの買い取りの通知(会社法141条1項、会社法144条7項)とともに買取価格相当額(1株当たり純資産額)を供託したことを証する書面が交付されます(会社法141条2項、会社法144条7項)。

譲渡等承認請求者は、供託を証する書面の交付を受けた日から1週間以内に株券を供託し、遅滞なく、株券発行会社または指定買取人に通知しなければなりません(会社法141条3項、142条3項、会社法144条7項)。

期間内に供託をしなかった場合には、会社または指定買取人は株主との売買契約を解除することができます(会社法141条4項、142条4項)。なお、会社または指定買取人が売買契約を解除しても、譲渡が承認されたものとみなされることはありません(会社法145条)。

( つづく )