株式の上場と会社の支配

株式の上場は、会社の資金調達のみならず、創業者等が株式を市場で売出し多額のキャピタルゲインを得ることができます。

いっぽう、新株を発行したり保有株式の売出すことで、支配株主(グループ)の持株割合(議決権行使割合)が低下するばかりでなく、縁もゆかりもない株主が多数現れることになります。

会社支配を継続しようとする場合、どのようなことが考えられるでしょうか。

株式の譲渡を制限するという意味

出資者(投資者)にとって、出資したおカネの回収(投下資本の回収)は、元本の返済がある貸付金とは異なり、基本的に譲渡することでしか回収できません。

上場している株式の場合は市場があるため自由に譲渡することができます。トクするかソンするかはともかく、自由に投下資本を回収できます。

ところで、会社の意思決定は、意思決定の際に行使できる株式(より正確には議決権)の数で決まります。

会社からすると、いや、正確には会社を支配できる株式を持っている株主(主に創業者系)からすると、株式が自由に譲渡できると、いわゆるお家騒動が起こると誰かから譲渡を受け、または誰かに譲渡するなどされて、会社を乗っ取られたり経営を引っかき回されかねません。。

そこで、圧倒的多数の会社が、発行する株式の少なくとも一部について、譲渡(またはそれによる取得)には株式会社の承認を要することとして、勝手に株式が譲渡され株主が変わらないようにしています。このような株式を譲渡制限株式といます。

なお、譲渡制限株式を他人に譲渡することそのものが禁じられているのではなく、取得者が会社との関係で株主としての権利を行使できないということです。この点で投下資本回収は不可能ではありませんが、株主になれないのに株式を取得するというのは、特段の事情が必要と考えられます。

また、株式譲渡につき承認が得られない場合には、会社または会社が指定した者に買い取ってもらうことができます(会社法140条)。その売買価格は当事者の交渉ですが、裁判所に決定してもらうことになります(会社法144条)。

株式の上場という意味

なぜ株式を上場するのか、いくつも理由があります。

株式を上場していないと資金が不足したときの調達手段が借入金などに限られがちです。上場すれば市場から調達することもできます。また、上場すれば会社の信用力が高まり、借入れする場合も有利な条件で借りることができます。

でも、大きな理由は、株式を上場するときに、新たに株式を発行して市場から資金調達すると同時に、創業者や従業員などが株式を売却(売出し)することで大きな利益(キャピタルゲイン)を得ることにあります。

ただ、別の面もあります。

株式を新たに発行し、これを引き受けるのが他人、しかも、これまで会社とは何の縁もゆかりもない不特定多数の者ということになれば、会社を支配するだけの株式を保有する株主の持株比率(議決権比率)が落ちるばかりでなく、いろいろな人が新たな株主となります。

また、自分の保有する株式を手放せば手放すほど大きな利益を得られますが、それだけ会社への支配力が落ちるということになります。

そのため、株式を上場するとき、そして上場した後も、一定の会社への支配力を維持できるようにいろいろ考えるのが資本政策と言われるものです。

市場での株式の売買と会社との関係

上場会社の株式を売買することによって、その株式を発行している会社におカネが入ってくるわけではありません。

市場で、その会社の株式を買いたい人と売りたい人がおカネのやり取りをしているにとどまります。つまり、発行会社からすれば、株主の異動ということです。

会社におカネが入ってくるのは、増資、すなわち、新たに株式を発行し、株式を引き受けた者からおカネが入ってくる場合です。

上場株式とその支配の行方

株式には、主におカネを集める単位という側面と、会社を支配する単位という側面があります。

そして、通常の株式(普通株式)の場合、株式数と会社を支配する議決権数は一致または比例的関係にあります。

1株につき議決権1個では一致しますが、ある程度まとまった株式(単元)で議決権1個とすることができます(単元株制度、会社法188条)。

上場会社の株式の場合には、1,000株または100株を1単元とし、1単元につき1個の議決権としています。株式数と議決権数は一致してはいませんが、比例的な関係にはあります。

会社を支配するだけの株式(議決権)を保有している支配株主にとって、会社の支配で不測の事態が生じないようにするための策が、株式の譲渡(またはその取得)に会社の承認が必要にする(株式に譲渡制限を付ける)ことですが、上場され、市場で売買されている株式は、譲渡制限のついていない株式です。このため、会社(というより支配株主)にとって好ましくない者が株主になることも十分にありえます。

ただ、株式を上場しても会社支配を継続しようとすれば、新株の発行数や保有する株式の売出しをコントロールしています。

このため、保有する株式数(議決権数)を維持して、市場で流通させる株式数を制限しているため、誰だかわからない者が株主になっても、会社の支配に別段の影響はないわけです。

実際に上場基準でも、市場に流通する株式の比率(本則形式要件)は30%、マザーズ形式要件では25%です。ということは、創業者等の支配株主は70%または75%を保持し続けられることになります。株主総会で重要な意思決定である2/3以上、66.7%(特別決議)もクリアできるということになります。

ところが、会社の経営状況が悪化し、資金繰りが厳しくなってきたとします。

株式を上場すると四半期ごとに決算を開示しなければならないため、経営状況が悪化すれば、基本的に株価は下がります。

株価が下がると、資金繰りを改善しようと増資によって新株を発行して資金調達しようとしても、たくさん株式を発行しないと目標となる資金が調達できません。たくさん株式を発行するということは、それだけ持株比率(議決権比率)が落ちるということになります。

まして、増資も、市場でひろく投資家から資金を調達する公募増資でなく、特定の者(会社、金融機関、ファンドなど)に株式を引き受けてもらう第三者割当増資の場合、引受人の持株比率(議決権比率)が高まります。

この引受人が支配株主にとって好ましいか好ましくないかにかかわらず(少なくとも引受人が「モノ言わぬ株主」である可能性は極めて低いでしょう)、支配株主の会社支配への影響力はにわかに弱まります。

こうして、株式を上場しても盤石の支配を維持していた体制が崩れていくことになります。

新たな動向

さて、これまでのお話は、すべて一つの重要な前提があります。

「株式数と会社を支配する議決権数は比例的な関係にある」というものです。

ということは、逆に、この前提を取り払えばよいということになります。

具体的には、議決権の行使内容や議決権数が異なる種類の株式を発行することです(議決権種類株式、会社法108条)。

議決権種類株式の種類

議決権の内容が異なる株式(議決権種類株式)としては、次のように分けることができます。

  • まったく議決権のない株式
  • 役員の選任や解任その他重要な事項だけ議決権が制限されている株式
  • 重要な事項以外について議決権が制限されている株式
  • 議決権の数の異なる株式(下記参照)

議決権種類株式数が発行済株式総数の1/2を超えるに至ったときは、ただちに、議決権制限株式の数を発行済株式の総数の1/2以下にするための必要な措置をとらなければなりません(会社法115条)。

議決権種類株式の上場基準

制度上、すなわち、東京証券取引所の有価証券上場規程によれば・・・

「まったく議決権のない株式」「役員の選任や解任その他重要な事項だけ議決権が制限されている株式」については、これらの株式のみを新規上場させることも、通常の議決権のある普通株式と同時に新規上場させることも可能です。

「議決権の数の異なる株式」の上場は、すでに上場している会社は認められず、新規上場会社のみ認められます。なお、議決権の数の異なる株式のうち、議決権の数の少ない株式のみが上場が認められます。

議決権種類株式の上場にあたっては、議決権の制限を受ける株式や議決権の少ない株式を保有する株主の権利内容や行使が制限されないことが求められます(いわゆるブレークスルー状況やサンセット条項)。

議決権の数の異なる株式の上場

議決権の数の異なる株式とは、1株あたり(正確には1単元あたり)の議決権の個数が異なる株式を発行します。

たとえば、通常の株式(普通株式)が100株につき1個の議決権(1単元を100株とします。)であるのに対して、10株につき1個の議決権(1単元を10株とします。)となるような別の株式を発行します。

これを創業者やその関係者などの支配株主(グループ)が取得し保有します。

そして、上場前に議決権種類株式を普通株式に転換することなく、上場時に新たに発行して資金調達する新株や上場時に売出す株式は普通株式(上場規程でいう「複数の種類の議決権付株式を発行している場合の議決権の少ない方の株式」)にするのです。

これによって、上場時に新規に株式を発行したり保有する普通株式を売り出しても会社支配力の低下が少ないため、資金調達と会社支配継続とキャピタルゲインをより高いレベルでバランスさせることができます。

( おわり )