( 3 )譲渡制限株式の譲渡手続の概要

譲渡制限株式の譲渡に係る承認から売買価格の確定までの会社法上の手続についてご説明いたします。

会社法では一定の期間内に当事者のアクションがないと譲渡が承認されたものとみなす旨と定めています。ただし、期間についてはあらかじめ定款で別段の定めをして期間を短縮することは可能ですし、また、会社と請求者との間で合意により別段の定めをすることができます。

目次

( 1 )当事者(譲渡人または譲受人)から会社への譲渡承認請求

株式会社は、その発行する株式の全部または一部の内容として「譲渡による当該株式の取得について当該株式会社の承認を要すること」を定めることができます(会社法107条、会社法108条1項4号)。

このような譲渡制限株式を譲渡する場合には、譲渡人(株主)あるいは譲受人(株式取得者)から会社に対して取引の承認の請求が行われます。

この請求は、譲渡制限株式の譲渡取引そのものについての承認の請求というよりも、譲渡によって譲受人(株式取得者)が新たに株主となることについての承認の請求という意味があります。

そして、会社が譲渡を承認しない場合には会社または会社の指定する者に株式を買い取る旨の請求も行う場合には、譲渡「等」の請求となります(138条1項)。

承認請求は、譲渡人(株主)からも譲受人(株式取得者)からもすることができます。以下、承認請求した者を譲渡等承認請求者(139条2項)といいます。

当事者間の譲渡取引の前に株主(譲渡人)が行う譲渡承認請求

譲渡制限株式の株主は、その有する譲渡制限株式を他人(当該譲渡制限株式を発行した株式会社を除きます。)に譲渡しようとするときは、当該会社に対し、当該他人が当該譲渡制限株式を取得することについて承認をするか否かの決定をすることを請求することができます(会社法136条)。

この請求にあたっては次の事項を明らかにしなければなりません(会社法138条1号)

  • 当該請求をする株主(譲渡人)が譲渡しようとする譲渡制限株式の数(種類株式発行会社にあっては、譲渡制限株式の種類および種類ごとの数)
  • 譲渡制限株式を譲り受ける者の氏名または名称
  • 会社が、株式取得者が当該譲渡制限株式を取得することについて承認をしない旨の決定をする場合に、当該株式会社または指定買取人(会社法140条4項)が当該譲渡制限株式を買い取ることを請求するときは、その旨

当事者間での譲渡取引の後に株式取得者(譲受人)が行う譲渡承認請求

譲渡制限株式を取得した株式取得者は、株式会社に対し、当該譲渡制限株式を取得したことについて承認をするか否かの決定をすることを請求することができます(会社法137条1項)。

この請求にあたっては次の事項を明らかにしなければなりません(会社法138条2号)

  • 当該請求をする株式取得者(譲受人)の取得した譲渡制限株式の数(種類株式発行会社にあっては、譲渡制限株式の種類および種類ごとの数)
  • 株式取得者の氏名または名称
  • 会社が、株式取得者が当該譲渡制限株式を取得することについて承認をしない旨の決定をする場合に、当該会社または指定買取人(会社法140条4項)が当該譲渡制限株式を買い取ることを請求するときは、その旨

請求は、当該株式の株主として株主名簿に記載・記録された者(譲渡人)またはその相続人その他の一般承継人と共同してしなければなりません(会社法137条2号)

ただし、以下に該当するときは、株式取得者が単独で会社に対して株主名簿の名義書換えの請求ができます

  • 株券発行会社における株式の場合
  • 株式取得者が株券を提示して請求した場合(会社法施行規則24条2項1号)
  • 株式取得者が組織変更株式交換により当該株式会社の発行済株式の全部を取得した会社である場合(同2号)
  • 株式取得者が株式移転により当該株式会社の発行済株式の全部を取得した株式会社である場合(同3号)
  • 株式取得者が所在不明株主の株式の競売による代金の全部を支払ったことを証する書面その他の資料を提供して請求した場合(同4号)
  • 株式取得者が端数の処理の競売による代金の全部を支払ったことを証する書面その他の資料を提供して請求した場合(同5号)
  • 株券発行会社でない会社において振替制度の対象とならない株式の場合
  • 株式取得者が株主名簿上の株主に対して名義書換えの意思表示をすべきことを命ずる確定判決を証する書面等を提供して請求した場合(会社法施行規則24条1項1号)
  • 株式取得者が株主名簿上の株主に対して名義書換えの意思表示をする旨を記載した和解調書その他確定判決と同一の効力を有するを証する書面等を提供して請求した場合(同2号)
  • 株式取得者が当該株式会社の株式を競売により取得し、当該競売により取得したことを証する書面等を提供して請求をした場合(同3号)
  • 株式取得者が組織変更株式交換により当該株式会社の発行済株式の全部を取得した会社である場合(同4号)
  • 株式取得者が株式移転により当該株式会社の発行済株式の全部を取得した会社である場合(同5号)
  • 株式取得者が所在不明株主の株式の競売による代金の全部を支払ったことを証する書面を提供して請求した場合(同6号)
  • 株式取得者が株券喪失登録者で、株券喪失登録日の翌日から起算して1年を経過した日以降に請求した場合(同7号)
  • 株式取得者が端数の処理の競売による代金の全部を支払ったことを証する書面その他の資料を提供して請求した場合(同8号)

( 2 )会社による譲渡を承認するか否かの決定とその通知

会社が株式取得者が譲渡制限株式を取得することについて承認をするか否かの決定をするには、株主総会(取締役会設置会社にあっては、取締役会)の決議によらなければなりません(会社法139条1項)。

ただし、定款に別段の定めがある場合は、この限りではありません(会社法139条1項但書)。

会社は、承認するか否かを決定をしたときは、譲渡等承認請求者(譲渡人または株式取得者)に対し、当該決定の内容を通知しなければなりません(会社法139条2項)。

取締役等が通知をすることを怠ったとき、または、不正の通知をしたときは過料に処されます(会社法976条2項)。

会社が譲渡等承認請求者による請求の日から2週間以内に、この決定の通知をしなかった場合は、会社は譲渡を承認したものとみなされます(会社法145条1号)。定款で2週間を下回る期間を定めている場合にはその期間内となります。

なお、会社と譲渡等承認請求者との合意により別段の定めをしたときはこのかぎりではありません(同但書)。

( 3 )会社が譲渡を承認しない場合の買取りの選択(会社・指定買取人)とそれぞれの手続

請求者(株主(譲渡人)または株式取得者(譲受人))が会社が承認をしない旨の決定をする場合に、当該会社または指定買取人が譲渡制限株式を買い取るよう請求していた場合で、会社が譲渡を承認しない決定をしたときは、会社は、会社がみずから当該譲渡制限株式を買い取るか、買取人を指定して買取人が当該譲渡制限株式を買い取るかを選択します(会社法140条)。

会社が買い取る場合の手続(株主総会、供託、通知および交付)

会社が承認請求に係る譲渡制限株式(以下「対象株式」といいます。)を買い取ることとした場合には、臨時株主総会を開催して以下の事項を決議しなければなりません(会社法140条2項)。この決議は特別決議となります(会社法309条2項1号)。

  • 対象株式を買い取る旨(会社法140条1項1号)
  • 会社が買い取る対象株式の数(種類株式発行会社にあっては、対象株式の種類および種類ごとの数)(同2号)
  • 会社は、上記の事項を決定したときは、1株当たり純資産額(1株当たりの純資産額として法務省令で定める方法により算定される額をいいます。)に会社が買い取る対象株式の数を乗じた額をその本店の所在地の供託所に供託しなければなりません(会社法141条2項)。

    そして、会社は、譲渡等承認請求者に対し、株主総会で決議した上記の事項を通知し(会社法141条1項)、かつ、当該供託を証する書面(供託書正本または供託証明書)を譲渡等承認請求者に交付しなければなりません(141条2項)。

    この通知により、会社と譲渡等承認請求者との間に対象株式の売買契約が成立します。そのため、通知の後は、譲渡等承認請求者は会社の承諾がないかぎり「譲渡等が不承認の場合に会社が買い取べき旨」の請求を撤回できません(会社法143条1項)。

    取締役等が通知をすることを怠ったとき、または、不正の通知をしたときは過料に処されます(会社法976条2項)。

    譲渡等承認請求者との合意により別段の定めをしないかぎり、会社が譲渡等承認請求者に対して譲渡を承認しない旨の決定の通知をした日から40日以内(定款で40日を下回る期間を定めている場合にはその期間内)に、会社から譲渡等承認請求者に対して買い取りに関する通知をしなかった場合、または、通知をしても供託を証する書面を交付しなかった場合、会社は譲渡を承認したものとみなされます(会社法145条2号、会社法施行規則26条1号)。

    指定買取人が買い取る場合の手続(供託、通知および交付)

    会社は、対象株式の全部または一部を買い取る者(指定買取人)を指定することができます(会社法140条4項)。

    この指定は、定款に別段の定めがないときは、株主総会(取締役会設置会社にあっては、取締役会)の決議によらなければなりません(会社法140条5項)。

    会社から指定された指定買取人は、1株当たり純資産額に対象株式の数を乗じた額をその本店の所在地の供託所に供託しなければなりません(会社法142条2項)。

    そして、指定買取人は、譲渡等承認請求者に対し、以下の事項を通知し(会社法142条1項)、かつ、当該供託を証する書面(供託書正本または供託証明書)を譲渡等承認請求者に交付しなければなりません(142条2項)。

    • 指定買取人として指定を受けた旨(会社法142条1項1号)
    • 指定買取人が買い取る対象株式の数(種類株式発行会社にあっては、対象株式の種類及び種類ごとの数)(同2号)

    この通知により、指定買取人と譲渡等承認請求者との間に対象株式の売買契約が成立します。そのため、通知の後は、譲渡等承認請求者は指定買取人の承諾がないかぎり「譲渡等が不承認の場合に会社が買い取べき旨」の請求を撤回できません(会社法143条2項)。

    会社が譲渡等承認請求者に対して譲渡を承認しない旨の決定の通知をした日から10日以内(定款で10日を下回る期間を定めている場合にはその期間内)に、指定買取人から買い取りに関する内容の通知をしなかった場合、または、または、通知をしても供託を証する書面を交付しなかった場合、会社は譲渡を承認したものとみなされます(会社法145条2号、会社法施行規則26条2号)。

    ( 4 )供託を証する書面の交付を受けた譲渡等承認請求者の供託と通知(株券発行会社の株式の場合)

    譲渡等承認請求者は、会社または指定買取人の通知を受ける前までは、譲渡等承認請求を自由に撤回できます。

    しかし、会社または指定買取人の通知を受けた後は、会社または指定買取人の承諾を得なければ譲渡等承認請求を撤回できません(会社法143条1項、2項)。

    対象株式が株券発行会社における株式である場合には、会社または指定買取人から対象株式を買い取る旨の通知および供託を証する書面の交付を受けた譲渡等承認請求者は、当該交付を受けた日から一週間以内に、対象株式に係る株券を当該株券発行会社の本店の所在地の供託所に供託しなければなりません(会社法141条3項、142条3項)。

    そして、遅滞なく、株券発行会社または指定買取人に供託した旨を通知しなければなりません(同)。

    譲渡等承認請求者が、株券発行会社または指定買取人から供託を証する書面の交付を受けた日から1週間以内に株券の供託をしなかったときは、株券発行会社または指定買取人は、対象株式の売買契約を解除することができます(会社法141条4項、142条4項)。

    ( 5 )売買価格の決定

    協議によって売買価格が決まる場合

    会社または指定買取人からの買い取りの通知があった場合は、対象株式の売買価格について、譲渡等承認請求者と会社または指定買取人との間で協議を行います(144条1項)。

    両者の協議が調って売買価格が確定した場合、会社または指定買取人は供託した金銭に相当する額を限度として、売買代金の全部または一部を支払ったものとみなされます(会社法144条6項、7項)

    供託額が売買価格に満たない場合には、会社または指定買取人はその差額を支払わなければなりません。支払いを怠った場合には、会社または指定買取人の債務不履行となります。譲渡等承認請求者は、相当な期間を定めて催告し、売買契約を解除することもできます(民法541条)。売買契約が解除された場合は、譲渡等の承認があったものとみなされます(会社法145条3号、会社法施行規則26条3号)。

    裁判所への申立てで決まる場合

    会社もしくは指定買取人あるいは譲渡等承認請求者は、会社または指定買取人からの買い取りの通知があった日から20日以内に、裁判所に対して売買価格の申立てをすることができます(会社法144条2項、7項)。

    管轄裁判所は、株式会社の本店の所在地を管轄する地方裁判所です(会社法868条1項)。

    期間内に裁判所に売買価格の申立てがあったときは、当事者間の協議によってではなく、当該申立てにより裁判所が定めた額が対象株式の売買価格となります(会社法144条4項)。

    裁判所の決定に対して、会社もしくは指定買取人または譲渡等承認請求者のいずれからも即時抗告ができます(会社法872条4号)。即時抗告は執行停止の効力があります(会社法873条)。

    売買価格が確定した場合、会社または指定買取人は供託した金銭に相当する額を限度として、売買代金の全部または一部を支払ったものとみなされます(会社法144条6項、7項)

    供託額が売買価格に満たない場合には、会社または指定買取人はその差額を支払わなければなりません。支払いを怠った場合には、会社または指定買取人の債務不履行となります。譲渡等承認請求者は、相当な期間を定めて催告し、売買契約を解除することもできます(民法541条)。売買契約が解除された場合は、譲渡等の承認があったものとみなされます(会社法145条3号、会社法施行規則26条3号)。

    協議が調わず、裁判所への申立てもない場合

    会社もしくは指定買取人または譲渡等承認請求者は、会社または指定買取人からの買い取りの通知があった日から20日以内に、裁判所に対して売買価格の申立てをすることができます(会社法144条2項)が、どちらからも裁判所への申立てがなく、しかも、協議が調わず売買価格が確定しなかった場合には、1株当たり純資産額に対象株式の数を乗じて得た額が対象株式の売買価格となります(会社法141条5項、7項)。

    この額は、会社または指定買取人が供託した金額と一致するため、会社または指定買取人は売買代金の全部を支払ったものとみなされます(会社法144条6項、7項)

    ( 6 )株主名簿の名簿書換えなど

    譲渡等承認請求(会社法136条、137条)を会社が承認した場合、あるいは、譲渡が承認されたとみなされる場合(会社法145条、会社法施行規則26条)には、株式取得者は株主名簿の名義書換請求を行い、名義書換え後に株式取得者は株主となります。

    譲渡等承認請求で「会社が承認をしない旨の決定をする場合に会社または指定買取人が株式を買い取ること」(会社法138条1号ハ、2号ハ)を請求した場合で、会社が承認をしない旨の決定をし、会社または指定買取人が買い取ることとなり、譲渡が行われたときは、会社が買い取った場合は自己株式の取得による名義書換えを行い(会社法132条1項2号)、指定買取人が買い取った場合は指定買取人が単独で株主名簿の名義書換請求を行うことができます(会社法133条2項、会社法134条3号、会社法施行規則22条1項3号または22条2項1号)。

    ( つづく )