( 2 )物件別不動産キャッシュ・フローの把握

不動産賃貸で重要なのは、つまるところ、物件からどれだけのキャッシュを生み出したのかということと思われます。 これを把握するために物件別の不動産キャッシュ・フローを作ります。制度上要求されているものではないので、どんな構成でもかまいませんが、私は経常的な収支と非経常的な収支に区分しています。

忘れがちなのは、所得税や消費税の納付(出金)を物件別に合理的に配分してこれを取り込むことです。これなくして、正確なキャッシュ・フローなどおぼつきません。

不動産所得とキャッシュ・フローとの違い

所得税の確定申告における不動産所得の金額の計算は当然のことながら所得税法の規定に従って行います。

そこでは、原則として発生主義会計的な処理が求められ、実際に入金や出金がなくても当年中に発生(実現)した収益や必要経費も不動産所得の計算に盛り込むことになります。 いっぽう、借入金の利子は必要経費となりますが、借入金の元本の返済額は損益とは無関係なので不動産所得を構成しません。

いっぽう、キャッシュ・フローはなんのルールの束縛も受けません。ただただ「この物件からいくら入金があったのか」「この物件でいくら出金があったのか」それだけです。

ですから、あくまで一定期間内の入金と出金のみになります。売掛金や未払金の入出金はその期間内のものだけが取り込まれます。 所得税法の規定では損益とならない借入金の元本返済額は当然取り込まれることになる一方、減価償却費は取り込まれません。減価償却費とは、一定の資産の取得に要した額(支出)は、その取得の時に全額が必要経費になるのではなく、その資産について定められた年数(法定耐用年数)にわたって必要経費となります。しかし、キャッシュ・フローでは、あくまで出金を認識します。一括払いならその時点で、分割払いならそれぞれの時点で出金となります。

また、不動産所得の計算には、消費税等の額の経理方法は、税込経理方式と税抜経理方式を選択できます。 いっぽう、不動産キャッシュ・フローは、入出金は当然のように消費税等の額を含んだ税込金額で行われますので、キャッシュ・フローも当然に税込金額で行います。

投下資本回収の判断基準になる初期投資額の把握

投資意思決定の際の判断基準のひとつとして、投資から生み出される収益(正味現金収入額)によって、投資に要した支出(初期投資額)が何年で回収できるかというものがあります。

ところが、実はこの初期投資の額でさえ、所得税法の規定というフィルターを通して考えてしまいがちです。 すなわち、固定資産の取得価額とした額のみをもって初期投資の額としてしまうのです。

そもそもルールはないのです。あるとすれば、「どれだけおカネが出たのか」「どれだけおカネが入ったのか」それだけです。

私の場合、所得税法の規定(いわゆる「取得価額に含めるもの含めなくてよいもの」)というフィルターは外し、以下の部分を初期投資すなわち物件の取得に係る支出ととらえ、この額を各年の不動産収支で回収できたのかどうかを把握するようにしています。

  • 事前調査費用
  • 購入代価
  • 仲介手数料
  • 固定資産税等の精算金
  • 借入金の融資手数料
  • 登記費用(登録免許税や司法書士報酬)
  • 不動産取得税
  • それぞれに係る振込手数料

この初期投資の額が、年々の(各)物件の賃貸からもたらされるキャッシュの純増分によって回収されていくことになります。最終的には、この物件を売却したときに得られるキャッシュの純増分を加算した額で初期投資の額を上回るキャッシュを得ていれば、その物件の不動産賃貸はいちおう成功といえます。

なお、初期投資の額を借入金で調達した場合には、次回で申し上げますが、物件に係る土地や建物(家屋)の相続税評価額と、(年々返済によって減少する)借入金残高のバランスを比較し、将来のバランスの変化を予測します。そして、物件を売却したときに得られるキャッシュの純増分から借入金の残高を返済(完済)したうえでキャッシュがどれだけ残っているかで、その物件の不動産賃貸の成否が決まるといえます。

キャッシュ・フローの構成

キャッシュ・フローそのものは、制度上作成義務はなく、まして開示が要求されているわけでもありません。 まったく自由なフォーマットで作ればよいと考えられます。

制度上のキャッシュ・フロー計算書となりますと、営業キャッシュ・フロー、投資キャッシュ・フローおよび財務キャッシュ・フローに分け、しかも、いわゆる間接法的に作成することが一般的です。 しかし、ここでのキャッシュ・フローの目的は、「いったいこの物件からいくらもうかったか(超過現金収入があったか)」ということに尽きます。だとすると、直接法すなわち現金や預金の入金や出金から作り込めばよいのです。

私の場合は、経常的な収支と非経常的な収支に分けて把握しています。 経常的な収支には、賃貸料収入、管理手数料、税金、経常的な修繕費などを入れますが、私の場合には借入金元本返済、借入金利息も含めます。 非経常的な収支には、更新料収入、いわゆる礼金や敷引、敷金受入れ、敷金返還、臨時的な修繕費や設備投資などを含めています。

私が経常的な収支と非経常的な収支とに分ける理由は主に二つあります。

ひとつは、資金を回収すべきターゲットとなる初期投資の額は、賃料収入がほぼ一定だからといって年々順調に回収できるわけではなく、実際には想定外の支出(修繕費や設備投資等)が発生するためです。この修繕費や設備投資(固定資産)もまた、不動産所得の計算上は所得税法のルール(その年で全額が必要経費になるのか、固定資産となって耐用年数にわたって必要経費になるのか)に従いますが、所得税法のルールの影響を受けないキャッシュ・フローでは修繕費だろうが固定資産だろうが非経常的な支出という点で同じになります。

もうひとつは、次回に申し上げる相続税対策で将来の財産と債務の状況のシミュレーションをするときに有用な情報となるためです。将来の財産について、所得によるキャッシュ純増分をつい失念したところで判断しがちですが、これを織り込まなければ正確とはいえません。この場合、非経常的な収支を含めてしまうと、キャッシュ純増分の予測値が過大あるいは過少になるため、予測が適切に行えないおそれがあるためです。

キャッシュ・フローのまとめ方

物件別不動産キャッシュ・フローの把握は、会計ソフトからの情報をベースに行います。

前回申し上げましたが、その作業が容易となるように、会計ソフトの仕訳入力の段階で部門(物件ごとに付します)をキチンと取り込んで行います。

いわゆる制度上のキャッシュ・フロー計算書のように、2期間の財務諸表から組替表などで作り込むような、いわゆる間接法のようなことはせず、物件ごとに専用の預金口座があるならばその口座の補助元帳を会計ソフトからExcelに切り出して算定します。

なお、若干脱線しますが、会計ソフトにExcelへ直接切り出す機能がないからといって会計ソフトを批判してはいけません。いくつか方法はあるはずです。たとえば、エクスポートによっていったんテキストファイルで切り出し、Excelの外部データからの取り込むことによってもできます。また、「印刷」で「ファイルに出力」が選択できればそれでも対応できます。

また、物件ごとの専用の預金口座とは別のところから、たとえば、その物件に係るものを含む固定資産税の納付(出金)をほかの預金口座や現金から行った場合には、それを追加していくのです。

この専用口座以外の入出金をもれなく取り込んで拾いモレのないように、会計ソフト上で部門を付しておくことが大切なのです。

キャッシュ・フロー作成に係る各論

それでは、個々の各論について申し上げます。

借入金の元本返済額

借入金の利子しか取り込まない不動産所得の計算と異なり、借入金の元本返済額はキャッシュ・フローの重要な構成要素です。

所得とキャッシュ・フローでもっとも差が生じる要因のひとつといえます。

私は、借入金の元本返済額と利息の支払額はどちらも物件別不動産キャッシュ・フローの経常的支出として把握しています。

不動産所得の計算上、借入金利子は必要経費になるため、会計ソフトでの入力でも物件ごとに設定した部門を付すことになりますが、あわせて借入金元本とその元本返済額についても部門を付せば、キャッシュ・フローを作り込むときに作業が容易になります。

たとえば、調達した借入金の使用状況によって元本と利息を分割する必要があります。たとえば、20億円の資金を調達し、このうちA物件に15億円、B物件に3億円、C物件に1億円、事業外で1億円に充てたとすると、月々の借入金元本の返済や借入金利息も、この割合で集計し、会計ソフトでの入力でもそれぞれの部門を付して仕訳処理を行います。

税金の各物件への配分

物件別不動産キャッシュ・フローをより正確に把握しようとするときに、ストンと抜け落ちてしまいがちなのは税金の納付です。

物件ごとにキャッシュ・フローを把握しても、実際はこれに対する税金(預かった消費税等の額の納税や、その物件の不動産所得に係る所得税などの納税)をキチンと取り込まなければなりません。

これらを無視して、ただ消費税込みの金額での入金や出金だけ把握してキャッシュ・フローを分析検討したり、物件に帰することのできる所得税等の額を織り込んでいなかったら、個々の物件の不動産キャッシュ・フローは過大になってしまいます。

所得税等、住民税、事業税

これらのうち、事業税については不動産所得の計算上必要経費に算入されますが、所得税等(所得税および復興特別所得税)と住民税は必要経費とならないため、不動産所得の計算とは無関係ですが、いずれも納付(出金)であり、キャッシュ・フローの要素となります。これをどう物件別に配分するかが重要なのです。

所得税等の額は、10種類からなる各所得について所得金額を計算し、そこから所得控除額(基礎控除や扶養控除など)を差し引いた課税所得金額に税率を乗じて算定されます。ここから、税額控除額や予定納税による納付額や源泉徴収された税額などを差し引いて納付すべき税額が算定されます。

この納付した所得税等の額は、不動産所得その他いくつかの種類の所得金額の比率を算定することで、各所得に配分することができます。さらに、不動産所得に配分された所得税等の額も、会計ソフトにキチンと入力が行われていれば物件ごとの所得金額が算定されているため、所得税等の額を物件ごとに配分することができます。

予定納税額は、前年分の所得税等の額をベースに算定されます。よって、前年分の所得税の確定申告書から所得税等の額について各所得金額の比率によって不動産所得に対応する所得税等の額を算定し、さらに物件ごとの所得税等の額を計算することができます。なお、予定納税額は2回に分かれているため端数の調整に注意します。

また、住民税の額も前年の所得をベースに算定されるため、予定納税額と同様の方法で物件ごとの住民税の額を計算することができます。そして、住民税の額も分納の場合には端数の調整に注意します。

また、事業税は前年の不動産所得をベースに算定されます。そこで、前年の不動産所得について物件ごとの比率を算定すれば、事業税の額を各物件に配分することができます。

消費税等の額

ここで活きてくるのが会計ソフトで消費税の経理を税抜経理方式で行うことです。

実際の消費税の申告そして納付額は物件全体をまとめたものですが、物件ごとに集計された仮受消費税等の額と仮払消費税等の額との差額によって、納税額を物件ごとに分割することができます。

そうしますと、キャッシュ・フロー上も、消費税等の額を含めた税込金額で入出金をとらえつつも、この消費税等の額の納付(還付)のときには、物件ごとに管理した消費税等の額が出金(入金)されるため、キャッシュ・フローを正確に把握することができます。

複数の物件から不動産所得が発生する場合に、物件ごとの消費税等の受け払い状況が正確に把握できます。消費税の申告ではすべてをまとめたうえで行うわけですが、物件ごとで捉えればこの物件は消費税等は還付の状況だったとか、簡易課税方式のために納付しなくて済んだ(益税)額はどのくらいだったとかを帳簿上で明確に把握することができ、これを物件別不動産キャッシュ・フローに取り込んでいくことになります。

(つづく)