( 4 )土地建物一括取得の際の区分の検討 Part1

土地と建物を一括取得した場合の土地と建物の対価の区分については、固定資産税評価額の比率によるべきという採決例や判例が出ています。 しかし、その多くは、売買契約書等に土地の対価と建物の対価の区分の記載がない事案と考えられます。

売買契約書に土地と建物の対価が明記されている場合には、売買契約書に記載された額が土地と建物の取得価額を構成する購入代価になるとの判例があります。

売買交渉中の価格が、土地と建物の固定資産税評価額の合計額と大きく異なる場合にまで、当該評価額の比で按分するという基準に無条件で従わなければならないというのは妥当性を欠くと考えられます。

実務上の重要な誤解(のようなもの)

土地と家屋を一括取得した場合に、土地と家屋の対価をそれぞれいくらにするのが妥当かについての採決例や裁判例を見ると、「固定資産税評価額による比率で区分するのが妥当である」とされます。

ただ、これらのほとんどは、取得の基礎となる売買契約書等で土地と建物の対価が明らかになっていない(消費税等の額も明らかになっていないために家屋の対価を類推することすらできない)という事案です。

土地と建物の対価の区分が明らかになっていないということは、不動産所得の必要経費となる減価償却費の基礎となる建物の取得価額が明らかになっていないということになります。

このため、取得者(買主)が、一括取得した額を土地と建物に何らかの基準で区分し、これをもって建物の取得価額とし、これを基礎にして減価償却費を計算し、不動産所得の必要経費に算入することになります。

そして、取得者の区分の基準が税務当局とトラブルとなり、不服審判所裁決や裁判所判決となっているのです。

つまり、売買契約書でキチンと土地の対価と建物の対価(と消費税等)の額が明示され、これに従って資金の受け払いが行われているような事案ではないのです。

にもかかわらず、売買契約を結ぶ前の段階で、「土地と建物の区分は固定資産税評価額による区分せよというのが判例だから」となることもあるようです。

場面が異なるのではないでしょうか。

交渉での売買(予定)金額が、土地と家屋の固定資産税評価額の合計額と大きな乖離がないような場合でしたら、その区分も土地と家屋の固定資産税評価額の比率によるのは合理的と考えられます。しかし、売買(予定)金額が固定資産税評価額の合計金額よりもあまりにも異なる場合に、土地と家屋の対価を固定資産税評価額の比率で行うと、土地あるいは建物のどちらかにゆがみがことになります。

企業価値の評価では、ディスカウントキャッシュフローによって算定された株式価値と、資産負債を基礎に算定された株式価値では、評価額がまったく異なります。結局は合意された結果に落ち着くわけですが、この結果を当てはめる際には、この膨らんだ(しぼんだ)分は「のれん」となります、

しかし、土地や建物を一括取得するわけで、土地と建物に区分しなければなりません。土地と建物とのれんに区分することはできません(少なくとも現行では)。

相場や路線価・公示価格などの参考情報はありますが、取引の対価は最終的には売主と買主の合意で決定されるものです。どんなに相場などよりも高くなろうとも、買主が買いたいのであれば取引は成立するわけです。

ただ、売買契約書には土地の対価と建物の対価(とその消費税等)を記載することになりますから、何らかの基準で区分しなければならないことになります。

とくに、既に現実に賃貸の用に供している建物の場合は、現実に賃料収入があるわけです。交渉での売買(予定)金額が、当該土地建物に係る固定資産税評価額の合計金額を大きく上回っている場合には、その収益性も織り込まれていると考えられます。

さらに、建物が建築後相当期間経過している場合には、固定資産税評価額も低くなっていると考えられるところ、売買(予定)価格を固定資産税評価額の比で按分してしまうと、土地の対価が路線価を 80 % で除した額や固定資産税評価額を 70 % で除した額よりも著しく大きくなってしまいます。転売が目的ではなく、あくまで現在賃貸の用に供されている建物に着目して取得しようとする事情も考えれば、まったく無批判に「固定資産税評価額の比で」区分するのはいかがなものかと思われます。

この基準は、あくまで「売買契約書等において土地と建物の対価の区分が明らかでない場合に、適正な税務申告と納税を実現させるための基準」といえます。自由経済社会における私人間の取引交渉において拘束される基準ではないと考えられます。

まして、売買(予定)金額が固定資産税評価額の合計金額を参考にしているとはとても思えないほど乖離している場合はなおさらです。

売買契約書において土地と建物の対価が明らかになっているときの判例の考え方

土地と建物の対価の区分については、売買契約書等において土地の対価と建物の対価が明示されていない場合には固定資産税評価額による按分が妥当という採決例や判例が出ています。

では、売買契約書で土地の対価と建物の対価(と消費税等)が明記されている場合、課税庁や裁判所はどのようなスタンスを採っているでしょうか。

上告中で判決確定が確認できておりませんが、東京高裁平成24年(行コ)第25号所得税更正及び加算税賦課決定一部取消等請求控訴事件(平成24年5月31日判決)と、その原審である千葉地裁平成21年(行ウ)第41号所得税更正及び加算税賦課決定一部取消等請求事件(平成23年12月9日判決)が参考になります。

ここでは、売買契約書で土地の対価と建物の対価が明記されているものと、売買契約書では土地と建物の対価の区分が明らかになっていないものがあり、後者について、課税庁が固定資産税評価額による按分を行い、原審及び控訴審でもこれを支持したものです。

判決の要旨では「土地と建物を一括取得した場合の区分は固定資産税評価額により按分する」という点が前面に出てしまっていますが、これはあくまでも売買契約書で土地と建物の対価の区分が不明の場合であり、土地と建物の対価の区分が明らかになっている場合ではありません。

原審及び控訴審で原告(控訴人)は、売買契約書に建物等の購入代価の記載や消費税の金額の記載がある場合でも、その金額が合理的な金額でないかぎり減価償却資産の取得価額としては認められないと解すべきとしています。

原審で、被告(国)は、売買契約書で土地と建物等の売買代金のそれぞれが区分して明記されていれば、当該金額が建物の取得価格となるとしています。また、売買契約書に建物価格は明記されていなくても消費税等の額は記載されている場合には、消費税等の額から建物等の価格を算出した額がが同建物の取得価格になるとしています。判決も、所得税法施行令126条の「当該資産の購入代価」とは実際の売買代金額を採用すべきであるとしています。

控訴審の判決も、購入の代価とは、文理上、売買契約の当事者が合意し、購入者が実際にその資産の対価として支払うことになった金額をいうことが明らかだとしています。 そして、売買契約の当事者が契約書において合意した売買価額を明示した場合には、それとは異なる金額が実際には合意された金額であったことが控訴人によって主張・立証されたなど特段の事情のない限り、そこに記載された金額をもって購入の代価とするのが合理的とし、売買契約書に記載されている消費税の額を税率で割り返すことによって算出した額についても同様としています。

もっとも、当事者間の売買契約書に記載された金額であっても、土地と建物の区分が著しく不合理であるときは、課税の公平の見地から認められないことになります。

この点、売主が個人で買主が法人の土地と建物の一括売買取引での土地と建物の対価の区分が不合理である場合について、那覇地裁平成19年(行ウ)第15号法人税更正処分等取消請求事件(平成20年8月6日判決)があります。

詳しくは次回で検討しますが、本事件では、取引主体(買主)が専ら経済合理性に従って行動するとされる法人であり、必ずしもそうでない個人とは異なる点を考慮する必要があると思われます。

( つづく )