( 1 )その必要性と会計情報の作成

不動産賃貸で重要なのは、つまるところ、物件からどれだけのキャッシュを生み出したのかということと思われます。

「この物件からどのくらいのキャッシュの流入があったのか」「その物件の取得に要した支払い(初期投資)をどれだけ回収できたのか(上回ったのか)」「借入金で物件を取得した場合、物件を売却したときに借入金を全額返済して手元にどれだけ残るのか」です。

さらに、相続税対策としての不動産賃貸の場合には、一定時点における物件の相続税評価額と借入金残高のバランスを把握し、将来を予測することが大切です。

物件別不動産キャッシュ・フローの必要性

不動産賃貸の管理というと、現実のテナントの管理や物件そのものの管理(修繕等)という実態的な側面と、所得税や消費税の確定申告の時期に不動産所得(不動産収入から必要経費を差し引いたもの)を計算して所得税等や消費税等を納付する経済的な側面があります。

ここでは、後者の経済的な側面について、個人による不動産賃貸を念頭に論じたいと思います。

不動産賃貸について、その収益性をより厳密に分析しようとする場合や、相続税対策としての不動産賃貸を行っている場合には、主として3つの管理が必要と考えられます。

  • 不動産賃貸に係る不動産所得の計算と所得税と消費税の確定申告
  • 不動産賃貸に係るキャッシュ・フローの分析
  • 不動産賃貸に係る財産や債務についての相続税法上の財産評価額とその将来予測

たいていは 1. のみで、「ああ今回の税金はこのくらいなのね」で終了してしまうことも少なくありません。

しかし、不動産賃貸の管理において、不動産所得の算定を通じた税金の計算そして納付はその要素のひとつにすぎません。 もっとも、「これでじゅうぶん」という方も多いので、そのことがただちに間違いではありません。

不動産賃貸で重要なのは、つまるところ、物件からどれだけのキャッシュを生み出したのかということと思われます。

  • この物件からどのくらいのキャッシュの流入があったのか
  • その物件の取得に要した支払い(初期投資)をどれだけ回収できたのか(上回ったのか)
  • 借入金で物件を取得した場合、物件を売却したときに借入金を全額返済して手元にどれだけ残るのか

さらに、相続税対策としての不動産賃貸の場合には、一定時点における物件の相続税評価額と借入金残高のバランスを把握し、将来を予測することが大切です。

物件別不動産キャッシュ・フローを把握するための会計情報の使い方

不動産賃貸の管理において、不動産所得の算定を通じた税金の計算そして納付はその要素のひとつにすぎません。 しかも、不動産所得の計算というのは、所得税法の計算方法に従って算定された結果です。

つまり、所得税法というフィルターがかかっています。

多くの専門家は自らの専門分野というフィルターからモノゴトを論じがちですが、純粋なキャッシュの増減をみるためには、余計なフィルターをとっぱらってしまうべきと考えます。

いっぽう、せっかく不動産所得の算定をしているのですから、不動産所得の算定情報は、物件別のキャッシュ・フローを把握するために利用しない手はありません。

会計ソフトはきわめて優秀です。しかし、なんでもかんでも会計ソフトでできるわけではありません。そんなときに、会計ソフトのせいにしてはいけません。会計ソフトから出力した(切り出した)データを加工して情報を作ればよいのです。

逆に言えば、会計ソフトでできることは可能な限り会計ソフト上で行うべきです。 つまり、会計ソフトでの入力情報をなるべく精緻化・可視化して、会計ソフトから出力した(切り出した)データをなるべく加工しなくて済ませることで作業効率が上がるのです。 会計ソフトでの入力情報の精緻化は、ケアレスミスの発見も容易にできます。

そのためのいくつかの方法についてコメントいたします。

物件をひとつの部門として設定

会計ソフトで物件をひとつの部門として登録します。

もともと部門を付してあることも少なくないと思われますが、それはあくまでも損益レベルの把握にすぎないことが多いと思われます。しかも、その部門も、経営管理上の部門別または地域別の部門であることも少なくないのではないでしょうか。 同じ地域に複数の物件がある場合、地域別の部門の中に物件別の子部門を設定するなどして、物件ごとに部門を設定します。

損益(収入と必要経費)だけではなく、資産負債についても部門登録します。

キャッシュ・フローというのは、つまるところ現金(資産)の増減です。 詳細は後述いたしますが、何の入金なのか、または、何の出金なのかを把握するためには、会計ソフトの日常的な取引の仕訳処理において、損益勘定のみならず、資金勘定(現金や預金)や資産勘定や負債勘定そのものに部門が付されているほうが情報の収集や集計が楽になります。

会計ソフトの設定について、勘定科目、補助科目、部門のバランスについては悩ましいところです。私の場合は、物件ごとに収益、必要経費、資産(債権)そして負債(債務)についてそれぞれ勘定科目を設定しています。そうしますと、全体の科目数は膨大になりますが、画面の表示を全部門ではなく特定部門(すなわち物件)を表示するようにすればよいのです。

また、補助科目を積極的に作っています。すべてのテナントごとに設定しています。数は相当にはなりますが、帳簿上の消し込みを容易にし、ケアレスミスをしたポイントを早急に特定するためです。

期首残高に対する部門設定

前期末(前年末)の資産負債についてはそのまま期首に繰り越されます。そこで、あらたに物件別で管理しようとする場合には、会計ソフト上の期首残高について、物件別に分けます。

未収金や未払金や借入金

たとえば、前年末の未収金a/cの残高100は、A物件のX社60とB物件のY社40からなるとします。すでに前年から補助科目としてX社とY社を設定しているものとします。

(借) 未収金(X社) (A部門) 60 (貸) 未収金(X社)(部門なし) 60
未収金(Y社) (B部門) 40 未収金(Y社)(部門なし) 40

固定資産(減価償却資産)

固定資産については、減価償却ソフトで管理していることもあるでしょう。 「減価償却ソフトでキチンと管理しているから会計ソフトなどどうでもいい」というご意見も間違いだとは思いません。 もともと顧客のニーズが「確定申告して税金が計算できればそれでいい」にとどまればそれまでです。

ただし、とくに減価償却ソフトで行っている部門管理における部門とは、まさに経営管理上の部門別または地域別であることが多く、同じ地域に複数の物件があってもひとくくりにしていることが多いのではないでしょうか。

そこで、減価償却ソフト上でも新たな部門(子部門)を設けるなどして、物件ごとに部門を付します。 なんでこのようなことが必要かと申しますと、減価償却ソフト上で固定資産を物件別に管理すれば、減価償却ソフトで物件ごとの減価償却費が計算されるため、これを会計ソフトで仕訳入力すればよいのです

これを、減価償却ソフトからデータを切り出してExcel上で物件別に直したりなどすると、余計な作業と時間がかかってしまいます。当然ケアレスミスも生じます。

ソフトでできるところはソフトを使いましょう。

実際の日常取引の仕訳入力

債権(未収入金など)と債務(未払金など)の勘定科目を通した仕訳入力をする

日常の仕訳入力についても、損益のみならず資産負債についても部門を付します。 物件ごとに専用の預金口座がある場合には、その預金口座の取引に係る仕訳は入金も出金も常に部門が付されることになります。

いっぽう、他の預金口座や現金からの支払いの場合には、若干検討を要します。なぜなら、ある物件の必要経費を現金で支払ったとき、現金勘定にもその物件に付した部門を仕訳に加えますと、この部門については現金勘定のマイナスでずっと残りつづけることになります。

たとえば次の仕訳です。

(借) 租税公課 (A部門) 100 (貸) 現金 (A部門) 100

租税公課などの損益に係る勘定科目の残高は最終的には(青色申告特別控除前)所得としてまとめられ翌年に繰り越されますが、現金などの資産または負債科目の残高はそのまま翌年に繰り越されます。

このため、上記の仕訳では、現金残高の内訳で、A部門についてマイナス(貸方)100が残ってしまいます。 これはあまり賢いとは思えません。 そこで、ひとつの物件に対する専用の預金口座以外の口座や現金を使った受け払いについては、いったん債権債務勘定を通すという考え方があります。

(借) 租税公課 (A部門) 100 (貸) 未払金 (A部門) 100
(借) 未払金 (A部門) 100 (貸) 現金 (部門なし) 100

現金勘定では部門なしになっていますが、その取引の相手勘定に部門が付されている(未払金(A部門))ため、その出金はA部門に対するものだということが帳簿上明確になるとともに、現金勘定にさきほどのような部門別の残高が残りません。

このことからしますと、「収益や費用の発生の相手方は直接資金科目(現金や預金など)ではなく、債権債務の勘定科目(未収金や未払金)を通すべき」ということになります。

この点、「入力が面倒だ」「入力が煩雑だ」というご指摘もあると思われます。しかし、とくに不動産賃貸については、ほぼ毎月同じ仕訳で数字が異なる程度です。つまり、大半の取引は前月の仕訳のコピペで対応できるのです。

必要経費の各物件への配分(固定資産税等の場合)

収益そして必要経費について物件ごとに付された部門を付して仕訳入力を行います。 収益については物件ごとにとらえるのは比較的容易ですが、必要経費となると物件ごとの把握は困難が生じるときがあります。

しかし、必要経費についても可能な限り合理的に物件ごとの額をとらえましょう。

固定資産税等(固定資産税および都市計画税)については、都税事務所や市町村から送られてくる課税明細書には、土地や家屋について地番や家屋番号ごとの固定資産税(相当)額や都市計画税(相当)額が記載されています。これは1円単位で表記されていますが、実際の納付額はこれらの合計額とは異なります(100円未満切り捨て)。

まず、物件ごとの地番や家屋番号を把握し、固定資産税(相当)額や都市計画税(相当)額をまず1円単位で集計して物件ごとの比率を算定します。そして、この比率を実際の納付額に乗じれば、物件ごとの固定資産税等が実際の納付額ベースで配分することができます。

次に、分納の場合の端数処理が問題となります。 分納の場合、各物件に配分した固定資産税等の額を、さらに分納の各納期に配分する作業が求められます。しかも、第1期の納付額は第2期、第3期および第4期の納付額は異なります。この配分の過程で生じた端数の処理で、物件ごとに配分した固定資産税等の額と、分納の納期ごとの固定資産税等の額の合計額に差額が生じないようにする必要があります。前者が優先されることは言うまでもありません。

消費税の処理は税抜経理方式で

日常の会計処理で重要なのは、まずは消費税等の処理を税抜経理方式で行うことです。

つい小規模零細事業者ですと会計事務所でさえ税込経理方式を行っていますが、より正確な不動産所得を算定するためには、税抜経理方式が必須です。

税込経理方式の場合、テナント等から預かった消費税等の額や支払った消費税等の額は、不動産所得の構成要素(収入金額または必要経費)となります。よって、納付した(すべき)消費税等の額も収入金額となり、還付される消費税等の額は雑収入となります。 しかし、消費税等の額は本来国に対する預り金でありもともと損益とは無関係のはずです。

この点、税抜経理方式は、預かった消費税等の額(仮受消費税等勘定で集計)と、支払った消費税等の額(仮払消費税等勘定で集計)は、不動産所得の構成要素とはならないため、不動産所得が本体価格(税別価格)ベースで計算されます。

また、会計ソフト上、税込経理方式における消費税等の額の把握は、結局のところ簿外での管理です。しかも、決算作業で突如として必要経費(租税公課、納付する消費税額)が現れます。

いっぽう、税抜経理方式は、預かった消費税等の額は仮受消費税等勘定で集計され、支払った消費税等の額は仮払消費税等勘定で集計されます。このため、各取引における消費税等の額を帳簿上で明確に把握できるため、ミスも発見しやすいのです。

「税抜経理方式は煩雑だ」など昔の話です。会計ソフトの消費税自動仕訳により負担はほとんどありません。

税抜経理方式は、実は物件別不動産キャッシュ・フローの把握に極めて重要な役割を果たします。

(つづく)