( 1 )そもそも不動産投資の成否とは?

不動産賃貸で重要なのは、つまるところ、物件からどれだけのキャッシュを生み出したのかということと思われます。

「この物件からどのくらいのキャッシュの流入があったのか」「その物件の取得に要した支払い(初期投資)をどれだけ回収できたのか(上回ったのか)」「借入金で物件を取得した場合、物件を売却したときに借入金を全額返済して手元にどれだけ残るのか」です。

本稿は、この情報を普段の所得税の確定申告のために行う不動産所得の情報から出していこうとする試みです。

投資とその成功とは

投資の成功を、おカネを出して(資本投下)、出したおカネを引き上げたときに(投下資本回収)、当初出したおカネを上回っていることを言うものとします。インフレによる貨幣価値云々はとりあえず無視します。

株式投資の場合は、おカネを出して株式を買い、その株式を売却したときにおカネが増えているかどうかということになります。たとえ売却額が当初の購入額よりも安かった(売却損)としても、保有中に得ていた配当の累計額が売却損を上回っていれば、結果的におカネは増えたことになるので投資成功といえます。極めてシンプルな、単におカネの差し引きの話です。

不動産投資の場合も、ほぼ同じといえます。

ただ、不動産投資の場合誤解しやすいのは、税金(所得税)の計算で投資の成否を判断しがちです。保有中の賃貸料収入からの利益(所得)が出て所得税を納めれば「もうかっている」と思い、投資が成功しているかのように思いがちなことです

不動産業者もそれを前面に出して営業していることでしょう。それがお仕事なのですから。

しかし、投資を「おカネを出して(資本投下)、出したおカネを引き上げたときに(投下資本回収)、当初出したおカネを上回っていることを言うもの」とすると、不動産の保有中に所得が出ました税金納めましたというのも、税金というおカネの支出がありましたということにすぎません。

けっきょく不動産投資の成否も、その不動産を売却(投下資本回収)した後で当初からどれだけおカネが増えたのかどうかに尽きるということになります。

途中で不動産所得が発生して税金を払っていたとしても、売却した金額で投下した資本が回収できなかった場合は結果として投資は失敗ということになります。

しかも、、売却したときに譲渡所得が出てまた所得税を納めれば「譲渡所得が出たから投資は成功した」と考えがちです。不動産を売却して譲渡所得が出ましたといっても、建物については減価償却という税金計算のルールで売却原価(不動産所得の計算でいうところの取得費)が減少していたからということもありえます。

以上から、不動産投資の成否の判断は、所得税を計算するルールで行われた不動産の損益によってではなく、まさにキャッシュの増減で行われなければなりません

つまり、不動産保有中も損益ではなくキャッシュの増減で引き直すべきということになります。

そのことによって、当初はこれだけおカネを出した、途中でこれだけおカネが増えた、今いくらで売れれば投資は成功といえるのかという実践的な判断ができるのです。

少なくとも「正しい申告で正しい納税ができました」とか「節税しました」では解決されていないのです。

不動産投資の目的の多様性

不動産賃貸の管理というと、現実のテナントの管理や物件そのものの管理(修繕等)という実態的な側面と、所得税や消費税の確定申告の時期に不動産所得(不動産収入から必要経費を差し引いたもの)を計算して所得税等や消費税等を納付する経済的な側面があります。

ここでは、後者の経済的な側面について、個人による不動産賃貸を念頭に論じたいと思います。

不動産賃貸について、その収益性をより厳密に分析しようとする場合や、相続税対策としての不動産賃貸を行っている場合には、主として3つの管理が必要と考えられます。

  • 不動産賃貸に係る不動産所得の計算と所得税と消費税の確定申告
  • 不動産賃貸に係るキャッシュ・フローの分析
  • 不動産賃貸に係る財産や債務についての相続税法上の財産評価額とその将来予測

たいていは 1. のみで、「ああ今回の税金はこのくらいなのね」で終了してしまうことも少なくありません。

しかし、不動産賃貸の管理において、不動産所得の算定を通じた税金の計算そして納付はその要素のひとつにすぎません。 もっとも、「これでじゅうぶん」という方も多いので、そのことがただちに間違いではありません。

不動産賃貸で重要なのは、つまるところ、物件からどれだけのキャッシュを生み出したのかということと思われます。

  • この物件からどのくらいのキャッシュの流入があったのか
  • その物件の取得に要した支払い(初期投資)をどれだけ回収できたのか(上回ったのか)
  • 借入金で物件を取得した場合、物件を売却したときに借入金を全額返済して手元にどれだけ残るのか

さらに、相続税対策としての不動産賃貸の場合には、一定時点における物件の相続税評価額と借入金残高のバランスを把握し、将来を予測することが大切です。

(つづく)