医療費控除(セルフメディケーション税制)の本質・・やはり健康第一
「今年(正確には「前年」ですが)は医療費が10万円超えなかった」と医療費控除を受けられないことを嘆く人がいます。
これほどおかしな嘆きはありません。
医療費控除とは、それを受けることによって所得税や住民税が還付される、あるいは、納税額が減ることになります。
ただ、その実質は、支払った医療費の現金支出の一部が、税金によってキャッシュバックされるということです。
医療費も、セルフメディケーション税制の対象の医薬品購入費も、税金も、すべてお財布から出るおカネとしては同じです。
それならば、そもそも医療費がかからないことが一番です。
医療費控除やセルフメディケーション税制の本質
医療費控除とは、それを受けることによって所得税や住民税が還付される、あるいは、納税額が減ることになります。
医療費控除の特例として平成29年分の所得税等の確定申告から摘要されるセルフメディケーション税制も同様です。
ただ、その実質は、支払った医療費の現金支出の一部が、税金によってキャッシュバックされるということです。
そこで、キャッシュバックとなる対象額、そしてキャッシュバック率について検討します。
キャッシュバック対象額
医療費の場合
支払った医療費のすべてがキャッシュバックされるわけではありません。
まず、医療費控除にあたっては、支払った医療費に対して保険金などで補てんされる金額は差し引かなければなりません。
さらに、一般的に言われているのが10万円を超える金額がキャッシュバックの対象となります。換言すれば、支払った医療費の額から10万円を差し引いた金額がキャッシュバックの対象となります。
この10万円ですが、厳密にいえば、「総所得金額等の5%(円未満切り捨て)」と「10万円」のどちらか少ない金額です。 総所得金額とは、給料や事業などの所得金額(収入金額ではありません。収入金額から必要経費を差し引いた額)の合計額です。退職所得や山林所得がある場合にはその所得金額を加算し、土地等や株式等の譲渡所得がある場合にはその所得金額(特別控除額を差し引く前の額)です。
「総所得金額等の5%(円未満切り捨て)」と「10万円」のどちらか少ない金額の限界点は総所得金額が200万円です。 所得が給与収入のみの場合、給与収入3,115,999円の給与所得金額は1,998,400円となり200万円を下回ります。この場合の医療費から差し引かれる金額は1,998,400円×5%=99,920円となります。これを上回る給与収入の場合には、医療費から差し引く額は10万円となり、給与収入3,115,999円以下の場合には給料所得金額の5%の額が医療費から差し引く額となります。
つまり、総所得金額が200万円以上の方は、医療費の額が10万円を超えないかぎり、医療費控除額はゼロです。
医療費の額が10万円を超えない場合(総所得金額が200万円以下の場合には総所得金額の5%を超えない場合)、そもそも医療費控除の適用は受けることができません。 換言すれば、医療費の額のうち10万円を超える部分(総所得金額が200万円以下の場合には総所得金額の5%を超える部分)がはじめてキャッシュバックの対象額となります。
なお、医療費控除のキャッシュバック対象額の上限は200万円です。つまり、支払った医療費210万円(保険金等で補てんされる額がないものとします。)から10万円を差し引いた額となります。
セルフメディケーション税制の場合
支払った特定一般用医薬品(スイッチOTC医薬品)の購入費のすべてがキャッシュバックされるわけではありません。
購入費に対して保険金などで補てんされる金額は差し引かなければなりません。そして、12,000円を超える金額がキャッシュバックの対象となります。換言すれば、支払った購入費から12,000円を差し引いた金額がキャッシュバックの対象となります。
なお、セルフメディケーション税制のキャッシュバック対象額の上限は88,000円です。つまり、支払った購入費10万円(保険金等で補てんされる額がないものとします。)から12,000円を差し引いた額となります。
キャッシュバック率
医療費控除またはセルフメディケーション税制のキャッシュバック率とは、所得税(復興特別所得税を含みます。)の税率と住民税の税率の合計です。
課税所得金額によって異なる所得税等の税率が5.105%から45.945%と住民税の税率は10%で、合計で15.105%から55.945%となります。
この課税所得金額とは、先ほどの総所得金額そのものではなく、そこから配偶者控除や扶養控除や基礎控除や医療費控除(またはその特例としてのセルフメディケーション税制)や寄付金控除などの所得控除額を差し引いた後の額です。
所得控除の額は各人によって異なるため、同じ総所得金額でも適用される税率は変わります。 (もっとも、実際の税額は課税所得金額に税率を乗じてから一定額を控除して求めるため、適用される税率が上がると税負担が急激に上がるわけではありません。)
重要なのは、税率が低いということは税負担が減ることになりますが、一方で、医療費控除(またはその特例としてのセルフメディケーション税制)によるキャッシュバック額も減ることになります。
つまり、所得が大きい人ほど医療費またはスイッチOTC医薬品購入費のキャッシュバックが大きく、そうでない人はキャッシュバックが小さいことになります。
もっとも医療費控除等を受けられるケース
医療費控除
医療費控除の上限は200万円です。つまり、支払った医療費210万円(保険金等で補てんされる額がないものとします。)から10万円を差し引いた額となります。
医療費控除の最大限の恩恵を受けられるのは、所得税等の最高税率が適用される高所得者です。所得税等の税率が45.945%、住民税が10%の合計55.945%です。200万円×55.945%=1,118,900円となります。
高所得の場合には、税負担が50%を超えるため、実際の負担額は半額以下となります。つまり、210万円の医療費を支出すると1,118,900円のキャッシュバックとなり、実際の負担額は981,100円となります。
210万円を超える医療費については、1,118,900円で打ち止めのため、210万円を超える額はそのまま自己負担になります。
セルフメディケーション税制
セルフメディケーションの上限は88,000円です。つまり、支払ったOTC医薬品購入費10万円(保険金等で補てんされる額がないものとします。)から12,000円を差し引いた額となります。
セルフメディケーション税制の最大限の恩恵を受けられるのは、所得税等の最高税率が適用される高所得者です。所得税等の税率が45.945%、住民税が10%の合計55.945%です。88,000円×55.945%=49,231円となります。
高所得の場合には、税負担が50%を超えるため、実際の負担額は半額以下となります。つまり、10万円の購入費では49,231円のキャッシュバックとなり、実際の負担額は50,769円となります。
10万円を超えるOTC医薬品購入費については、49,231円で打ち止めのためこれを超える額がそのまま自己負担になります。
結局何がトクなのか
医療費控除にしても、その特例であるセルフメディケーション税制にしても、10万円(より正確には総所得金額の5%と10万円のいずれか小さい額)または12,000円を超える部分がキャッシュバックの対象額となります。
いっぽう、実際のキャッシュバック額(医療費控除による税軽減額)は、所得税等の税率(キャッシュバック率)が高い高所得者ほど大きくなります。
逆に、高所得でないほど適用される所得税等の税率(キャッシュバック率)が下がるため、キャッシュバックの額(医療費控除による税軽減額)は小さくなります。
ここで、医療費控除額が最大となる210万円ではなく、現実的(?)な15万円としましょう。
差し引かれる10万円を差し引くとキャッシュバック対象額は5万円となります。
所得税等と住民税で55.945%の最高税率の場合には、キャッシュバック額は27,972円、正味自己負担額は15万円-27,972円=122,028円となります。
いっぽう、所得税等と住民税で30.42%の税率の場合には、キャッシュバック額は15,710円、正味自己負担額は15万円-15,710円=134,790円となります。
つまり、高所得でない人ほど、キャッシュバック率(所得税等の税率)が低いため、医療費控除のメリットは減ります。
やはり健康が第一
ついつい、「税金が戻ってくる」とか狭い視点でものごとを捉えてしまいます。
しかし、税金にしても、医療費にしても、医薬品の購入費にしても、自分のお財布からおカネが出ていく点では同じなのです。
そもそも医療費控除の対象となる医療費とは、基本的に「治療に要した」ものです。治療はほぼ非自発的または不本意ながら行うもので、通常満面に笑みを浮かべて喜んで支払うものではありません。
医療費控除により税金を節約できても、そもそも医療費がかからないほうがおカネが残っているわけです。
だとすれば、そもそも医療費を支払わないで済むことが一番なのです。
「医療費が10万円超えなかった」と医療費控除を受けられない嘆きがいかに愚かなものかおわかりいただけるかと思います。
職業上、多くの方の医療費に係る領収書をチェックする機会があります。
それらを見ると、ご高齢の方ほど、日常生活のなかで、どれだけ通院や入院、あるいは介護で占められているか感じます。
医療費という金銭的・経済的負担だけではありません。精神的負担や時間的な負担も大きなものがあります。
価値観が多様化し絶えず変化する現代にあってもなお普遍的なものが「ヒトは必ず老いて病んで死ぬ」「時間は万人に平等に与えられる」です。
つまり、健康と体力があればあるほど精神的に余裕を持ち、穏やかな時間を過ごすことができると思われます。
ニンゲンである前にドーブツ、やはり、健康第一ということになります。
( おわり )