ムダのない医療費控除作業のご提案(2019年版)

医療費控除は10万円を超えていないとダメなのか」という大きな誤解があります。

たしかに、一般的に医療費控除を受けられる金額は、支払った医療費の額(から保険金等により補てんされる金額を差し引きます。)から10万円を差し引いた額となります。

しかし、総所得金額(収入金額ではありません!)が200万円未満の場合には、支払った医療費が10万円よりも小さくても医療費控除が受けられることがあります。

ちなみに、医療費控除の特例として創設されたセルフメディケーション税制では、特定一般用医薬品(スイッチOTC医薬品)の購入費が12,000円を超えていれば適用を受けられます(ただし、セルフメディケーション税制を選択すると、医療費控除は選択できません。)。

ところで、領収書をかき集めて集計したのに、けっきょく医療費控除の金額に達してなくてガックリくる方も少なくないのではないでしょうか。そんなことのないような作業方法をご提案いたします。

医療費は10万円超でないと医療費控除できないのか??

医療費控除ができる医療費の額は、「総所得金額の5%」または「10万円」のうち小さいほうの額を超えた額です

「総所得金額」とは、給料や事業などの所得金額の合計額です。退職所得や山林所得がある場合にはその所得金額を加算し、土地等や株式等の譲渡所得がある場合にはその所得金額(特別控除額を差し引く前の額)です。ザックリ申し上げれば、その年分の所得をすべて合計した額です。

ちなみに、所得税の額は、この所得金額から所得控除額(配偶者控除や扶養控除や生命保険料控除や医療費控除)を差し引いた額(課税所得金額)に税率を乗じて算定します。

これに5%を乗じた額と、医療費を比べてみましょう。超えていたら医療費控除が受けられます。

「総所得金額」とは、ザックリ申し上げれば、その年分の所得をすべて合計した額ですが、所得金額と収入金額は違います。 給与収入(いわゆる「年収」)と給与所得は異なります。

もし所得が給与収入だけの場合(複数でアルバイトをしている場合はそれぞれの源泉徴収票の数値を合計します。)、給与収入と給与所得の額の関係は次のようになります。

  • 給与収入103万円の場合は、給与所得は38万円
  • 給与収入200万円の場合は、給与所得は122万円
  • 給与収入300万円の場合は、給与所得は192万円
  • 給与収入311万5,999円の場合は、給与所得は199万8,400円
  • 給与収入311万6,000円の場合は、給与所得は200万1,200円
  • 給与収入400万円の場合は、給与所得は266万円
  • 給与収入500万円の場合は、給与所得は346万円
  • 給与収入600万円の場合は、給与所得は426万円

医療費控除の対象となる額は、支払った医療費から保険金等によって補てんされる額を差し引いた額から、さらに「総所得金額等の5%(円未満切り捨て)」と「10万円」のどちらか少ない金額を差し引いた額です。

この「総所得金額等の5%(円未満切り捨て)」と「10万円」のどちらか少ない金額の限界点は総所得金額200万円です。

所得が給料だけの場合、給与収入311万5,999円では給与所得は199万8,400円となり、給与収入311万6,000円の場合は、給与所得は200万1,200円となります。

この場合、給与収入311万5,999円以下のときは給与所得は200万円未満となるため、支払った医療費の額から差し引くのは10万円ではなく、総所得金額の5%の額(99,920円)となります。

所得が給料だけの場合、給与収入の額と医療費控除が可能な金額の下限の関係は次のとおりです。

  • 給与収入150万円の場合は、42,500円
  • 給与収入200万円の場合は、給与所得は61,000円
  • 給与収入300万円の場合は、給与所得は96,000円

たとえば、給料収入が150万円では給与所得は85万円となり、給与以外に所得がない場合には、総所得金額は85万円となります。 支払った医療費から差し引く額は、総所得金額の5%すなわち42,500円となります。つまり、42,500円を超える医療費だった場合には医療費控除を受けることができます。

年収103万円の場合

給料収入が103万円では給与所得は38万円となり、給与以外に所得がない場合には、総所得金額は38万円となります。 支払った医療費から差し引く額は、総所得金額の5%すなわち19,000円となります。つまり、19,000円を超える医療費だった場合には医療費控除を受けることができそうです。

ここで、所得税の計算は、所得金額から医療費控除などの所得控除額を差し引いた額(課税所得金額)に税率を乗じます。実はこの所得控除額にはすべての人に適用される基礎控除38万円があります。つまり、このため、医療費控除の額がなくとも、課税所得金額はゼロ(=給与所得金額38万円-基礎控除額38万円)となるため、そもそも所得税がありません。つまり、医療費控除をしてもムダということになりそうです。

しかし、ムダというわけではありません。

と申しますのも、住民税の計算に適用される基礎控除は33万円なので、住民税の課税所得金額は5万円(=給与所得金額38万円-基礎控除額33万円)となり、住民税の計算では医療費控除の適用ができます。

そもそも医療費控除のための作業をする必要があるか

医療費控除をしようと医療費のレシートをかき集め、エクセルで「治療を受けた人」「病院・薬局の支払先の名称」「医療費の区分(「診療・治療」「介護保険サービス」「医薬品購入」「その他医療費」)」と「金額」をバカバカ入力したあげく、「あれ?結局医療費控除ないじゃん」となるとガックリくるのではないでしょうか。

このようなムダが生じないようにする必要があります。

そもそも医療費の金額を集計する作業が必要なのかのチェック

給与所得のほかに所得がない場合には「給与所得の源泉徴収票」をご覧ください。 「源泉徴収税額」がゼロだったら、基本的にその後の作業はする必要はありません。

なぜなら、源泉徴収税額がゼロの場合、もはや医療費の額を集計したところで税金が戻ってくることはありません。ただし、複数でバイトをしている場合や他に所得がある場合には、確定申告をすると他の所得と合計して所得税が発生することがあります。このときは、医療費控除ができることがあります。

公的年金等のほかに所得がない場合には「公的年金等の源泉徴収票」をご覧ください。 「源泉徴収税額」がゼロだったら、基本的にその後の作業はする必要はありません。

医療費の金額のみ入力

まずはエクセルに医療費の金額だけバカバカ入力して、支払った医療費の合計額を出します。

保険金などで補填される金額がないか確かめます。

医療費控除の作業

総所得金額のチェック

医療費控除の額は、支払った医療費(保険金などで補填される金額を差し引きます)から、「10万円」または「総所得金額の5%」のどちらか少ないほうを差し引きます。

そこで、総所得金額をチェックします。

  • 事業所得や不動産所得の方は青色申告特別控除額を差し引いた額です。
  • 給与所得の方は「給与所得の源泉徴収票」の「給与所得控除後の金額」が所得金額となります。
  • 公的年金の方は、「公的年金等の源泉徴収票」の「支払金額」をチェックしてください。そして、「確定申告の手引き」や国税庁の確定申告サイトに金額を入力するなどによって公的年金等(雑所得)の所得金額を知りましょう。
  • 複数の所得の方は所得金額を合計します。

総所得金額が200万円以上の場合

この所得金額が200万円以上であれば、支払った医療費(保険金等の控除後)から差し引く額は10万円です。つまり、先ほど計算した支払った医療費(保険金等の控除後)が10万円以下であれば医療費控除は受けられないので、医療費控除関係の作業は終わりにしましょう。

総所得金額が200万円未満の場合

総所得金額が200万円未満であれば、ここであらためてチェックしたいことがあります。

退職所得や山林所得、土地・家屋や株式などの譲渡所得(特別控除額を差し引いている場合は特別控除額がないものとした額)などの申告分離課税の対象となる所得がある場合には加算します

その結果が200万円以上であれば、支払った医療費(保険金等の控除後)から差し引く額は10万円です。つまり、先ほど計算した支払った医療費(保険金等の控除後)が10万円以下であれば医療費控除は受けられないので、医療費控除関係の作業は終わりにしましょう。

そのような所得はなく、総所得金額が200万円未満であれば、支払った医療費の額から差し引く額は「総所得金額の5%」です。つまり、先ほど計算した支払った医療費(保険金等の控除後)が「所得金額の5%」以下であれば医療費控除は受けられないので、医療費控除関係の作業は終わりにしましょう。

詳細データの入力

総所得金額が200万円以上であれば10万円、総所得金額が200万円未満であれば「所得金額の5%」の額を超える医療費がある場合には、確定申告で医療費控除ができます。 税金が少なくなったり、源泉徴収されていた税金が還付されます。

ようやくここで真剣に医療費控除の作業を開始します。

エクセルにはすでに「医療費の額」だけは入力してあります。

ここに、「治療を受けた人」「病院・薬局の支払先の名称」「医療費の区分(「診療・治療」「介護保険サービス」「医薬品購入」「その他医療費」)」の情報を加えて集計して医療費控除の額を申告することになります。

この際に、あらためて領収書等を見るのでダブルチェックがかかることになります。

ちなみに、医療費は同じ金額の領収書が多いことも少なくないため、私は日付も入力するようにしています。

(おわり)