( 3 )給与収入と給与所得金額

サラリーパーソンにとって、給与収入(いわゆる「額面」)の全額に所得税が課されるわけではありません。給与収入から、国が定めた一定の額(給与所得控除額)を差し引いた「給与所得金額」に所得税が課されます。この給与所得控除額は、いわばサラリーパーソンの必要経費といえます。

給与収入と給与所得金額の関係は、国税庁サイトの「令和〇年分年末調整のしかた」のなかにある「令和〇年分の年末調整等のための給与所得控除後の給与等の金額の表」から入手できます。「給与所得控除後の給与等の金額」が給与所得金額です。

給与所得金額は、配偶者(特別)控除や扶養控除、特定支出控除の適用の可否を判断する際にも使われますし、税負担のシミュレーションにも使えます。

なお、現在、給与収入1,000万円に対する給与所得控除額が220万円で頭打ちとなるため、1,000万円超の部分については全額所得金額となります(さらに令和2年からは給与収入850万円を超えると195万円で頭打ちとなり、実質増税となります。)。このため、オーナー会社の社長など、自ら給料を設計できる場合にはさまざまなシミュレーションが求められます。

給与収入と給与所得の違い

所得税を計算するには、まず所得を区分し(10種類あります。)、それぞれの所得の種類ごとに所得金額を計算します。

そして、各所得金額を合計し、所得控除の額(配偶者控除や扶養控除や生命保険料控除や医療費控除など)を控除した額(課税所得金額)に、税率を乗じます。税率は、課税所得金額の大きさによって5%から45%となります。

その所得金額の計算ですが、基本的に「所得金額=収入-必要経費」です。

ここで、サラリーパーソンの方からは「所得金額が収入から必要経費を差し引いた額といっても、個人事業主じゃないんだから必要経費なんてないだろ!」と思われる方もいるはずです。実は、給料にも必要経費はあります。

「所得金額=収入-必要経費」ですが、給与所得の場合、「給与所得金額=給与収入-給与所得控除額」です。

給与所得金額を得るためには

「給与所得控除額」はあらかじめ決められた額で、いわばお上が定めたサラリーパーソンの必要経費です。収入が大きくなるほど給与所得控除額は大きくなります。

給与収入に対する給与所得の額は「令和〇年分所得税及び復興特別所得税の確定申告の手引き」にも記載されています(国税庁サイトから入手できます。)が、ここに掲載されているのは数式です。シミュレーションには使えますがわかりずらいです。

同じく、国税庁サイトの「令和〇年分年末調整のしかた」のなかにある「令和〇年分の年末調整等のための給与所得控除後の給与等の金額の表」がわかりやすいです。

令和元年分の給与所得については、給与収入と給与所得金額(給与所得控除後の給与等の金額)、そして給与所得控除額の関係は次のとおりです。

  • 給料収入400万円の場合、給与所得金額は266万円、給与所得控除額は134万円(=400万円-266万円)です。
  • 給料収入500万円の場合、給与所得金額は346万円、給与所得控除額は154万円(=500万円-346万円)です。
  • 給料収入600万円の場合、給与所得金額は426万円、給与所得控除額は174万円(=600万円-426万円)です。
  • 給料収入700万円の場合、給与所得金額は510万円、給与所得控除額は190万円(=700万円-510万円)です。
  • 給料収入800万円の場合、給与所得金額は600万円、つまり、給与所得控除額は200万円(=800万円-600万円)です。
  • 給料収入900万円の場合、給与所得金額は690万円、つまり、給与所得控除額は210万円(=900万円-690万円)です。
  • 給料収入1,000万円の場合、給与所得金額は780万円、つまり、給与所得控除額は220万円(=1,000万円-780万円)です。

そして、平成29年分では給与収入が1,000万円を超えると220万円で打ち止めとなります。つまり、給与収入で1,000万円を超えた部分はそのまま給与所得となります。

給料収入2,000万円の場合、給与所得控除額は220万円なので、給与所得金額は1,780万円です。給料収入3,000万円の場合、給与所得控除額は220万円なので、給与所得金額は2,780万円です。

給与所得金額の活用・・・シミュレーション

シミュレーションで、給与収入に対して税率を乗じるかのようなイメージを持つ方が少なくありませんが、それは誤りです。給与収入(いわゆる「額面」の額)から給与所得控除額を差し引いた額(給与所得控除後の給与等の金額=給与所得金額)からさらに所得控除の額や税額控除の額を差し引いた金額(課税所得金額)に対して税率を乗じるのです。これを誤解したシミュレーションから得られるのは有害な情報となります。キチンと給与収入ではなく給与所得金額(給与所得控除後の給与等の金額)でシミュレーションをしましょう。

給与所得金額の活用・・・配偶者や扶養家族の判定

年末調整で勤務先に提出する「扶養控除等(異動)申告書」に配偶者や扶養家族の「所得の見積額」を記載する箇所があります。

この箇所に記載するのは、「収入金額(の見積額)」ではなく「所得金額(の見積額)」です。一般に扶養家族の収入はパートやアルバイトと考えられます。この場合の給与所得の見積もりについては、給与収入の見積額から「平成〇年分の年末調整等のための給与所得控除後の給与等の金額の表」で所得金額の見積額を算定することになります。なお、所得の見積額は38万円を超える場合には、扶養控除はできません。

また、同じく年末調整で勤務先に提出する「給与所得者の配偶者特別控除申告書」でも、配偶者の「所得の見積額」を記載する箇所があります。ここでも、給与所得金額の記載が必要になりますので、給与収入の見積額を「平成〇年分の年末調整等のための給与所得控除後の給与等の金額の表」にあてはめて特定します。

給与所得金額の活用・・・特定支出控除

給与収入の額と給与所得金額との差額である給与所得控除額は、いわゆる「特定支出控除」の適用を受けることができるかどうかの判定にも使います。

特定支出控除とは、給与所得者本人が次の支出を自らの負担で行い、かつ、いずれも給与の支払者が証明した場合には、一定の額が給与所得控除額に加算されます。つまり、給与所得金額が減ることになります。税額へのインパクトとしては所得控除と同じです。

  • 一般の通勤者として通常必要であると認められる支出
  • 転勤に伴う転居のために通常必要であると認められる支出
  • 職務に直接必要な技術や知識を得ることを目的として研修を受けるための支出
  • 職務に直接必要な資格を取得するための支出
  • 単身赴任などの場合で、その者の勤務地又は居所と自宅の間の旅行のために通常必要な支出
  • 図書費、衣服費、交際費等での職務の遂行に直接必要なもの

特定支出控除は、医療費控除と同じく年末調整ではできず、確定申告によって行います。

ところで、特定支出控除は、給与所得者が特定支出をし、その合計額がその年中の給与所得控除額の1/2を超えるときに適用があります。

年末調整をしてもらっている場合には、源泉徴収票に「給与所得控除後の額」が記載されている場合には、「収入金額」との差額が給与所得控除額となりますが、年末調整してもらっていない場合には、給与所得控除額がわかりません。また、複数の勤務先から給与の支払を受けている場合には、その合計額で給与所得控除額を計算しなければなりません。

勤務先からの証明をもらう前に、金額的に特定支出控除を受けられるのか判断する必要があります。

給与所得金額の活用・・・オーナー会社社長の給料設計

そして、平成29年分では給与収入が1,000万円を超えると220万円で打ち止めとなります。つまり、給与収入で1,000万円を超えた部分はそのまま給与所得となります。

考え方を変えると、自分の給料を自分で決めることができるオーナー会社の社長の場合、年間1,000万円を超える役員報酬(役員給与)をもらおうとする場合、給与所得控除額は打ち止めなので、1,000万円を超える部分はそのまま課税所得金額となります。とすると、「給料でもらおうが配当でもらおうが一緒だよね」「個人と法人の税負担との比較にもよるが、会社の株価対策をするのなら配当でもらったほうがいいかもしれない」という判断が出てくることになります。

給与所得金額の活用・・・「103万円ならば所得税ゼロ」の説明

また、よくありがちな「給与収入103万円までなら所得税はかからない」も、容易に納得できます。給与収入103万円に対する給与所得控除後の給与等の金額は38万円です。いっぽう、所得控除のうちすべての人に適用される基礎控除の額は38万円です。よって、「課税所得金額=給与所得金額(給与所得控除後の給与等の金額)-所得控除の額」は「0円=38万円-38万円」となります。ちなみに、住民税の基礎控除額は33万円なので、所得税はかからなくても住民税はかかります(住民税の税率は一律10%です)。

( つづく )