( 2 )年末調整と確定申告の関係
いわゆる年末調整についてコメントします。
年末調整とは何なのか?「年末調整すると税金が戻ってくる」とはどういうことか?年末調整してもらえないこととはどういうことか?年末調整ではできないこと(確定申告しなければならない)はなにか?年末調整しているかしていないのかチェックする方法は?・・・などについてコメントいたします。
ありがちなのが、源泉徴収票をもらっていたからといって、それが年末調整されたものではありません。
確定申告と年末調整
「確定申告」とは、前年1月1日から12月31日までの稼ぎや儲けとこれらに係る所得税等の額を「確定」し、3月15日までに税務署に「申告」し納税する作業です。
確定申告は、本来は所得のあった人が自ら行うものです。自分がやるのは面倒な場合には税理士に依頼するわけですが、この高度に情報化した現在でもなお、税理士でないと確定申告ができないと思っている方が少なくないのに驚きを禁じえません。自分でも確定申告はできるのです。また、税理士に依頼しても「誤った申告となるリスクが減る」にとどまり、税理士ならば誰でも完全無欠な申告ができるわけではありません。
ところで、収入はもっぱら勤務先からの収入のみの場合には、勤務先からの1月から12月までの給与や賞与などの支給額をもって収入や所得税等の額は「確定」していることになります。
実は、年末調整とは、勤務先の事業所が、従業員等の確定申告を代行しているようなものなのです。
従業員等は、勤務先に年末調整をしてもらえば、基本的に確定申告しなくてよいのです。
よって、年末調整は、サラリーパーソンにとって極めて有益なものですが、ルール上年末調整をしてもらえない場合(2,000万円超や年中に退職)もあります。
また、年末調整では反映されないものもあります。医療費やふるさと納税などです。年末調整をしてもらっていても、この部分は反映されていないので確定申告することになります。
そして、勤務先以外からの収入がある場合には、あらためて確定申告をしなければなりません。
所得税等は勤務先を通して毎月納付している
ここでひとつ疑問がわきます。
「収入については勤務先からの給料だけだから、勤務先が年収を把握しているのはわかるけど、なんで所得税等の額まで確定できるのかがイマイチ腑に落ちない。」
きわめて健全な疑問といえます。
所得税等の額は、本来は各個人がそれぞれ自分で納税するものですが、いっぽうで、勤務先等は、従業員等に給料や賞与を支払ったり、一定の個人事業主などに報酬を支払う場合には、支払の額に応じた所得税等を差し引いて支払っています。これが「源泉徴収」です。
つまり、経理や総務の人が「ゲンセンしてる」と言うのは、「給料の支払の時に支払金額に応じた所得税を天引きしている」という意味です。
源泉徴収される額は、国税庁サイトにも掲載されている「源泉徴収税額表」に基づいています。
具体的には、毎月の実際の給料額から、社会保険料(健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料、雇用保険料など)を控除した額に対して、扶養家族の人数を勘案した額が天引きされるのです。 この扶養家族の人数は、従業員等からの「扶養控除等異動申告書」によります。
そして、事業者は、給料や報酬の支払で従業員等から源泉徴収した所得税を、原則として翌月10日までに税務署に納付しなければなりません。
つまり、従業員等は、給料等の支払いを受ける都度、勤務先から所得税等の額を天引き(源泉徴収)され、勤務先を通じて所得税等の額を納付していることになります。
そもそも年末調整とは何なのか
もともと従業員等への給料等の支払いは、毎月の実際の給与等の額から扶養家族に応じた所得税等の額を天引き(源泉徴収)しています。本来ならばこれを1年間合計すればよいのですが、1年の間に扶養家族の増減があったりするものです。
そこで、1年分の給与額が確定する年末に従業員等から一定の情報(扶養控除等(異動)申告書、配偶者特別控除申告書、保険料控除申告書、(特定増改築等)住宅借入金等特別控除申告書)を得て所得税等の額を「調整」するのです。
つまり、この年間の源泉徴収した額の合計と上記の所得税等の額との大小によって、従業員等から徴収するか(不足の場合)、還付するか(超過の場合)のいずれかになります。
さて、各年分の所得税等の額は基本的に次のように計算されます。
- 収入金額-必要経費=所得金額
- 所得金額-所得金額から差し引かれる金額(所得控除額)=課税所得金額
- 課税所得金額×所得税の税率(5%~45%)=課税所得に対する税額
- 課税所得に対する税額-税額控除額=基準所得税額
- 基準所得税額×復興特別所得税(2.1%)=所得税等の額
年末調整にあたり、勤務先は従業員等から一定の情報(扶養控除等(異動)申告書、配偶者特別控除申告書、保険料控除申告書、(特定増改築等)住宅借入金等特別控除申告書)を入手します。
これらの情報から、上記の「所得から差し引かれる金額」(配偶者控除、配偶者特別控除、扶養控除、生命保険料控除、地震保険料控除、社会保険料控除など)が得られます。また、(特定増改築等)住宅借入金等特別控除申告書からは上記の税額控除額です。
つまり、年末調整によって、所得控除額や税額控除額が新たに加わるために、算定される所得税等の額は、年末調整前よりも小さくなります。このため、「年末調整で税金が戻ってくる」ということになります。
しかし、必ずしも年末調整によって「税金が戻ってくる」とは限りません。年間の給与所得に対する年税額を計算してみたら、年間源泉徴収してきた金額よりも大きいこともあります。この場合は、追加して徴収されることになります。
たとえば、毎月源泉徴収される所得税等について、その額の基礎となる扶養家族の人数よりも年末の扶養家族の人数が減った場合などには、年末調整の結果、年中に源泉徴収された額に不足が生じ、還付どころか追加徴収されることもあります。
また、年収のうち、ボーナス(賞与)の額の占める比率が高い場合には、賞与に係る源泉徴収の額は少ないため年末調整で不足額が生じることがあります。余談ですが、通常の給料もボーナスも、所得税の計算では「給与所得」に変わりなく、年末には一緒にされてしまうということなのです。
従業員等に対する年末調整の反映の方法
従業員等に対する年末調整の精算の方としてはいくつかあります。
- 12月の給料等の源泉徴収額をいつもどおり計算し、年末調整で還付・追加徴収される額を浮き彫りにして支給または徴収するような形にする。
- 12月に賞与の支給がある場合、賞与のときの源泉徴収額をゼロにして、最終の12月支給の給料の源泉徴収のときに年末調整して不足が生じる額を源泉徴収する。
- 12月の最後の給料等は通常通りに行い、年末調整の還付額を年明けにお年玉的に支給する。
年末調整されているかどうかのチェック
「給与所得の源泉徴収票」をもられば、それはすべて年末調整が終わっていると誤解している人が実は少なくありません。
源泉徴収票は、「この人にいくら給料を支払って、いくら源泉徴収しました」というのを勤務先が証明するものですが、源泉徴収票があるからといって、年末調整されているとは限りません。そこで、年末調整をしてもらっているかどうかをチェックします。
源泉徴収票の摘要欄に「年調未済」と記載してあれば確実に年末調整されていませんが、そのほかに「給与所得控除後の額」や「所得控除の合計額」の欄に金額が記載されていない場合(「支払金額」と「源泉徴収税額」しか数字が記入されていない。)には、年末調整されていません。
年末調整してもらえない場合(確定申告の必要あり)
「どうせ確定申告するんだから」と年末調整をしないでほしいという人もいます。 いっぽう、年末調整をしてもらえるはずなのに、「自分で確定申告してください」となぜか年末調整をしてくれない事業所もあります。
これらはともかくとして、ルール上、勤務先が年末調整できない場合があります。この場合には、確定申告するほかありません。
- その職場での1年間の給料等の支給額が2,000万円を超える場合には、年末調整はしてもらえません。職場から交付された源泉徴収票(年末調整していない)で確定申告することになります。
- 年の途中で退職した人は、その退職した会社からは源泉徴収票はもらえても、年末調整はしてもらえません。年末調整は、年末に在籍している職場で、または年末で退職した人でなければしてもられません。よって、確定申告することになります。
- 年の途中で前の職場Aを退職し、年の途中から別の職場Bに転職して年末に在籍していた人は、職場Aの源泉徴収票を年末調整時期までに職場Bに提出していれば職場Bで年末調整してもらえますが、職場Aの源泉徴収票の提出が間に合わない場合には、職場Bから職場Bで支払われた給料等に係る源泉徴収票の交付は受けられますが、年末調整はされていません。よって、確定申告で、職場Aの源泉徴収票と職場Bの源泉徴収票に記載されている事項を合計して申告することになります。
- 2ヶ所以上から給料等をもらっている場合、従たる職場からの給与等の職場からは源泉徴収票の交付は受けても年末調整はされていません。ここで従たる職場とは、扶養控除等異動申告書を提出していない職場のことで、給料が少ないほうではありません。もっとも、主たる職場では年末調整してもらえます(上記の場合を除きます。)。 ちなみに、扶養控除等異動申告書は1ヶ所にしか提出できません。
ルール上、年末調整では不可(確定申告の必要あり)
年末調整では、一定の情報を勤務先に提出し、勤務先が年税額を計算して、超過額の還付や不足額の徴収を行います。
しかし、ルール上、年末調整では反映させることができないものもあります。この場合は確定申告によることになります。
- 年末調整の後、年末までに扶養家族等の増減があったり、実は扶養家族に一定の収入があって扶養家族とならないことが判明したり、保険料控除証明書の提出が遅れて職場で年末調整の再計算をしてもらえなかった。
- その年中に転職をし、前職分の給料に係る源泉徴収票を年末に在籍している職場に提出していないのに、職場がミスして年末調整をしてしまった。
- 副業がある(不動産賃貸など)。
- 2ヶ所以上から給料をもらっている。
- 土地や家屋を譲渡した。
- 上場株式等の売買を特定口座で行っていない。
- けっこうな医療費があった。
- 通勤費、転居費、研修費、資格取得費、帰宅旅費、勤務必要費があり、特定支出控除を受けたい。
- ふるさと納税をやったり、赤十字や公益の団体に寄附をした。
- 住宅ローン控除などをその年から始めて受ける(確定申告が必要です。翌年からは年末調整で対応できます)。
( つづく )