( 1 )時間と労力と紙のムダ
デジタル化している現代において、ほとんどすべての事業所では何らかの電子データで管理をしています。 電子データは流用したり加工することが容易です。
経理のためだとか営業のためだとか総務や労務のためだとか、目的などどうでもよく、いかにいったん入力され作られた情報を加工してその他の目的に流用できるかどうかが重要です。
あらゆる会計事実に対して適切な消費税処理をキチンとできるのは当たり前、それに忠実な仕訳処理ができるのが当たり前として、今度はいかに電子データを加工して会計データとして会計ソフトにインポートできるか、インポートするための会計データを作ることができるか、会計データを作るためにいろいろな電子データをいかに加工できるかが問われてきているように思われます。
酷いサプライチェーン
新規のクライアントに対して、前任の会計事務所がどのような処理を行っていたのかを質問したところ、通帳や当座預金照合表、取引先別の売掛金(売上)データや、買掛金や未払金(仕入や経費など)データ、給与台帳、総合振込みの明細などを紙で会計事務所に郵送していたと聞いて戦慄を覚えました。
会計事務所はおそらく、いや、確実にそれらの紙データをもとにして会計ソフトに入力をしていたのでしょう。なにしろネタが紙なわけですから、コピペもしていないと思います。 なるほど、確かに引き継いだ会計データには大量の補助科目、大量の摘要辞書、大量の伝票リストが登録されていました。
おそらく入力金額を間違えたりして銀行の口座残高と一致しないときも、プリントアウトして蛍光ペンで消し込んでいたのでしょう。
やや脱線しましたが、私が戦慄を覚えたのは、前任の会計事務所に送った資料は、ほぼすべてがソフトファイルによるデータが存在していたということです。
銀行口座もネットで処理を行っており、売上に伴う請求書を発行するためのデータもあり、資金繰りや支払管理の関係で支払先ごとの支払金額をまとめているデータもあったのです。給与台帳もExcel(CSV)にダウンロードできたのです。
つまり、会社担当者はプリントアウトして会計事務所に郵送していたのです。しかも、これらのデータは社内的なもので体裁が悪いからと、わざわざ丁寧にExcelにまとめて会計事務所用の資料を作成していたのです。
せっかく誰かが入力したデータや数値が存在するのに、会計事務所はプリントアウトされたものを目で見てあらためて手入力しちゃうというのは、あまりにももったいないと思われます。
サプライチェーン的には最悪な状況といえます。
いったん作られた情報をいかに貪欲に流用できるか
支払うべき時にキチンと支払いができるか(=支払うべき時におカネがあるか)、そのために請求した金額がキチンと入金しているか把握するのはビジネスの基本中の基本です。
経理の知識はまったくなくても、どこにいくらで請求するのか、請求したところからちゃんと入金しているのか、どこにいくらいつまでに支払うのか、ちゃんと支払ったかについては、たとえ手書きのノートだったとしても管理しているものなのです。
デジタル化している現代において、ほとんどすべての事業所では何らかの電子データで管理をしています。
電子データは流用したり加工することが容易です。
経理のためだとか営業のためだとか総務や労務のためだとか、目的などどうでもよく、いかにいったん入力され作られた情報を加工してその他の目的に流用できるかどうかが重要です。
金融機関(銀行やクレジット会社)の情報などだけでなく、外部の取引先からもExcelベースで情報が得られているのなら、それを加工・流用することができます。
社内的には、「売掛金の消し込みを販売管理または請求管理システムでしておきながらそれを経理データに流用できていない」あるいは逆に「経理データをうまく総務や経営管理に流用できていない」ということもあるかもしれません。
こういう状況になると、すぐシステム導入だソフト導入だと短絡的に考える方も少なくありませんし、またそれを販売する事業者は声高にそれを煽りますが、ある程度までは工夫できるところは工夫していく姿勢もこれまた大切なのではないかと思われます。
入力ではなくインポート
紙の請求書と通帳を見ながら悶々と経理処理を行わざるを得ない時代もありました。
しかし、オリジナルの電子データがあるのならば、最低でもデータを会計ソフトにコピペ(コピー&ペースト)すべきです。
頻繁に左手で「Ctrl」キーと「C」キーを押しまくったり、右手でダブルクリックをしまくるとはいえ、それでも目視よりはマシです。
さらに一歩進んで、会計ソフト上でコツコツと仕訳入力するのではなく、オリジナルの電子データを加工して、会計ソフトに読み込ませるための情報を作成して、これを会計ソフトにインポートするのです。
何千行だろうが何万行の仕訳だろうが一挙に作成することができるのです。
しかも、手入力で都度都度ひとつひとつ補助科目などの登録をしなくても、インポートのときに会計ソフトが補助科目を生成してくれるのです。
さらに、近年のめざましいIT技術の発達により、銀行の口座記録などをそのまま仕訳に取り込める時代です。これを利用しない手はありません。
あらゆる会計事実に対して適切な消費税処理をキチンとできるのは当たり前、それに忠実な仕訳処理ができるのが当たり前として、今度はいかに電子データを加工して会計仕訳データとして会計ソフトにインポートできるか、インポートするための会計データを作ることができるか、会計仕訳データを作るためにいろいろなデータをいかに加工できるかというスキルがあるのかどうかが問われてきているように思われます。
余談
「人生は有限」「万人等しく1日24時間」という、この価値観多様な時代でさえなお普遍的なことに直面したとき、もしこの時間を他のことに使っていたら得られていたはずのことが犠牲になっているかもしれない、何かもっと効率的なことはないかという考え方も出てくるかもしれません。
ところが、そういう考え方は出るけれども、組織レベルあるいは個人レベルで新しいことをすることがおっくうで(これぞ老いの証)、結局ブーブー不満を言いながらも今までのやり方のまま続けてしまっていることは多々あると思われます。
もっとも、実はブーブー不満を言っているほうが、地味にただひたすらコツコツと入力する営みそれ自体に悦びを感じるよりも改革はしやすいのかもしれません。
( つづく )