( 3 )貸借対照表と損益計算書との関連を理解します

企業は途切れることなく活動していますが、そのうち一定の時点での断面を表したものが貸借対照表です。そして、ふたつの時点のあいだの期間における企業活動を表したものが損益計算書です。損益計算書で表される一定期間の損益は、その期間の末日の貸借対照表の純資産額を増減させることになります。

貸借対照表と損益計算書の関係

貸借対照表は一定時点の企業の財政状態を表わし、損益計算書は一定期間の企業の経営成績を表わします。この点で、ある時点を明らかにする貸借対照表はストック、一定の期間の状況を明らかにする損益計算書はフローといわれます。

企業は貸借対照表から始まる

企業は元入れによって誕生(設立)します。仕訳的には「(左側)資産(右側)資本金」です。資産は圧倒的に預金が多いのですが、土地や有価証券であることもあります(現物出資)。

これを、貸借対照表でイメージします。貸借対照表というのは「バランスシート」とも言われます。何と何がバランスしているかといいますと、「左側」の資産の合計額と、「右側」の負債及び純資産の合計額が一致(バランス)しているのです。

つまり、普通に生まれた企業は、負債がなく、資産と純資産(資本金)がバランスしている貸借対照表から出発するのです。

預金 100 負債 0
資本金 100
土地 100 負債 0
資本金 100
有価証券 100 負債 0
資本金 100

毎日貸借対照表は存在する

ところで、貸借対照表は決算日しか作成されないようなイメージがあります。しかし、貸借対照表は常に存在し、仕訳のたびに各科目が増減するのです。

極端な話、1日の始まりに貸借対照表があり、1日の終わりに貸借対照表があるのです。そして、日中の活動状況(経営成績)を示すのが損益計算書なのです。

日中の経営成績は損益計算書で表されますが、ここで出た利益または損失は、貸借対照表と無関係ではありません。実は、損益計算書で計算された利益や損失は貸借対照表の「右側」の純資産を増減させるのです。

設立日の貸借対照表が次のとおりとします。

現金 100 負債 0
資本金 100

翌日は、仕入を30して、売上は50でした。仕入たものはすべて売り上げたものとします。つまり、この日の損益は利益20ということになります。損益計算書は次のとおりです。

仕入 30 売上 50
利益 20

その日の営業終了後の貸借対照表は次のとおりです。売上での利益20だけ現金が増加しています。いっぽう、利益は純資産の剰余金が増えます。

現金 120 負債 0
資本金 100
剰余金 20

これがまさに複式簿記のすばらしいところなのです。

ということは、次の日の始まりの貸借対照表の「右側」の純資産には前日(まで)の損益が含まれていることになります。そして、再び1日の活動による損益は損益計算書で表されます。その日の終わりの貸借対照表は朝と比べれば「左側」の資産も「右側」の負債も増えたり減ったりしていますが、「右側」の純資産にその日の利益または損失が加減算されるのです。そして、「左側」の資産の合計額と、「右側」の負債及び純資産の合計額が一致(バランス)するのです。

1日を1年に展開

ここで、3月決算の企業、つまり、4月1日から3月31日までの活動を考えてみましょう。

まず、期首すなわち4月1日の貸借対照表が存在します。内容は前期末すなわち3月31日と同じです。「左側」の資産の合計額と、「右側」の負債及び純資産の合計額が一致(バランス)しています。さきほどの1日の考え方でいきますと、「右側」の純資産には、会社の元入れ金である資本金のほかに、会社が生まれてからの利益や損失の蓄積があることになります(ただし、株主に配当をしている場合などはその分減っています)。

そして、4月1日から3月31日までの企業の経営成績が損益計算書で表されます。

そして、期末日すなわち3月31日をむかえます。期首(4月1日)の貸借対照表と期末(3月31日)の貸借対照表は、企業の活動によって「左側」の資産も「右側」の負債も増えたり減ったりしますが、重要なのは、1年間の利益は貸借対照表の「右側」の純資産を増加させ、1年間の損失は純資産を減少させるのです。そして「左側」の資産の合計額と、「右側」の負債及び純資産の合計額が一致(バランス)するのです。

1日を1年間に大展開しましたが、上場企業は途中の四半期(3ヶ月)ごとに決算を報告していますし、企業内では月次レベルで決算をしています。どれだけ損益を厳密に計算するか(仕訳を入れるか)によって異なりますが、基本的には、1日であろうが1ヶ月であろうが四半期であろうが半年であろうが1年であろうがまったく同じなのです。

根本的な疑問

ここで、こんな疑問が生まれます。「なんでこの科目が貸借対照表になってこの科目が損益計算書になるの??

私は即答します。「そういうもんなんです

実は、これをアカデミックに理論的に説明すると、まさに「財務諸表論」のお話になります。ほとんどの簿記の教科書やテキストがここに踏み込んでしまい、ここが消化不良で簿記の勉強を投げ出してしまう方は少なくないと思います。もったいないと言わざるをえません。

ここを理解するには、やはりある程度のストックがアタマの中になければなりません。素直に「そういうものなんだ」と理解することが早道だと思われます。

ただ、経営上重要なイメージとしては以下のとおりです。

  • 同じ「左側」(借方)ならば、本来なら貸借対照表の「左側」の資産にすべきところを、損益計算書の「左側」の費用にすることができれば、損益計算書は費用が増えるから利益が減ることになるし、利益が減るから貸借対照表の「右側」の純資産も減る。
  • 同じ「左側」(借方)ならば、本来なら損益計算書の「左側」の費用にすべきところを、貸借対照表の「左側」の資産にすることができれば、損益計算書は費用が減るから利益が増えることになるし、利益が増えるから貸借対照表の「右側」の純資産も増える。
  • 同じ「右側」(貸方)ならば、本来なら貸借対照表の「右側」の負債にすべきところを、損益計算書の「右側」の収益にすることができれば、損益計算書は収益が増えるから利益が増えることになるし、利益が増えるから貸借対照表の「右側」の純資産も増える。
  • 同じ「右側」(貸方)ならば、本来なら損益計算書の「右側」の収益にすべきところを、貸借対照表の「右側」の負債にすることができれば、損益計算書は収益が減るから利益が減ることになるし、利益が減るから貸借対照表の「右側」の純資産も減る。

( つづく )