継続的な役務提供における会計上の収益計上時期と税務上の益金計上時期

いわゆる「保守契約」などの継続的役務提供契約を行う場合、事業者は一定期間に係る金額を前もって受け取ることがあります。

「金額は確定」「支払を受けた」さらには「(原則として)返還されない」となると、全額を収益(益金)に計上すべきではないかという疑問も生じえます。

そこで、会計上そして税務上の処理について検討します。

会計上の議論

たとえば、今後1年分の継続的役務提供契約を締結し、1年分の対価の支払を受けたとします。

このような場合、一般に公正妥当と認められる会計基準によれば、支払を受けた1年分の金額のうち、支払を受けた日の属する会計期間に対応する部分の額を売上高として計上し、翌会計期間以降の期間(未経過期間)に対応する部分の額は前受収益(貸借対照表の負債の部)として処理します(企業会計原則注解5)。

これに対して、支払を受けた1年分の金額を、未経過期間に対応する部分の金額も含めて、支払を受けた日(の属する事業年度)の収益とする処理を行っているところもあります。

その理由として、この会計基準について知らない場合、または、知っていても「今期の売上高が足りない」といったナマナマしい動機や、「これまでそう処理してきた」「その筋からも指摘を受けなかった」という主張、さらには継続性の原則を持ち出すこともあります。

ところで、有力な主張として「1年分の対価が確定しているんだから、税法では全額収益に計上しなければならない」というものがあります。

これに対しては、「会計の議論をしているときに税法の理論を持ち込むのはおかしい」とし、淡々と否定すべきです。

自分の経験や得意(専門)分野からものごとを捉えてしまう人は少なくありませんが、会計の議論をしているのに税法の議論を持ち込んでしまう人がいます。しかも、混同しているという認識すらないこともあります。

たしかに、実務で、とくに固定資産の会計処理は、税法の規定が事実上の会計基準となっています。しかし、処理の画一化と課税の公平をその主な目的とする税法の規定を、何から何まで拡張すべきではないと考えられます。何より、税法も、別段の定めがないかぎりは会計基準に従うよう定めています(後述)。

会計と税務とで差異がある場合には、法人税の申告において会計上の当期純利益の額を調整すればよいのです。

税務上の議論(大前提)

事業年度に係る法人税の額の計算する基礎となる所得の金額の計算について、法人税法22条が規定しています。

それによれば、内国法人の各事業年度の所得の金額は、当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額であり(1項)、益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資産の販売、有償または無償による資産の譲渡または役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額です(2項)。そして、その当該事業年度の収益の額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されます(3項)。

まず、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」のひとつである企業会計原則の注解5「経過勘定項目について」によれば、一定の契約に従い継続して役務の提供を行う場合、いまだ提供していない役務に対し支払を受けた対価は、時間の経過とともに次期以降の収益となるものであるから、これを当期の損益計算から除去するとともに貸借対照表の負債の部に「前受収益」として計上しなければなりません(5)。

また、法人税法22条2項の「別段の定め」ですが、このような継続的役務提供に関する益金の算入時期について正面から定めた規定はありません。

とすると、原則どおり「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に従うということになります。

つまり、企業会計原則注解5に従って、未経過期間に対応する部分の額は、翌事業年度以降の益金となります。

税法の規定の検討

継続的役務提供契約に係る益金の算入時期について、税法上(通達も含めて)正面から定めた規定はありません。

ここで、他の収益についての税法の益金算入時期の規定について分析検討します。

基本的には、会計と同様に「役務の提供」「金額の確定」した日(の属する事業年度)となります。ここから、「支払を受けた日」など若干の容認規定があります。

技術役務の提供に係る報酬の帰属の時期(法人税基本通達2-1-12)

この通達は、法人税基本通達の「第2章 収益並びに費用及び損失の計算」「第1節 収益等の計上に関する通則」「第1款 請負による収益」に位置付けられています。 契約期間に係る金額を前受けする継続的役務提供契約とは異なる形態です。

益金算入時期は、契約等による役務の全部の提供を完了した日(の属する事業年度)が原則です。

報酬の額が現地に派遣する技術者等の数及び滞在期間の日数等により算定され、かつ、一定の期間ごとにその金額を確定させて支払を受けることとなっている場合には、その支払を受けるべき報酬の額が確定する都度、その確定した金額をその確定した日の属する事業年度の益金の額に算入します。ただし、その支払を受けることが確定した金額のうち役務の全部の提供が完了するまで、または、1年を超える相当の期間が経過するまで支払を受けることができないこととされている部分の金額については、その完了する日とその支払を受ける日とのいずれか早い日まで収益計上を見合わせることができます。

基本設計に係る報酬の額と部分設計に係る報酬の額が区分されている場合のように、報酬の額が作業の段階ごとに区分され、かつ、それぞれの段階の作業が完了する都度その金額を確定させて支払を受けることとなっている場合にも、その支払を受けるべき報酬の額が確定する都度、その確定した金額をその確定した日の属する事業年度の益金の額に算入します。ただし、その支払を受けることが確定した金額のうち役務の全部の提供が完了するまで、または、1年を超える相当の期間が経過するまで支払を受けることができないこととされている部分の金額については、その完了する日とその支払を受ける日とのいずれか早い日まで収益計上を見合わせることができます。

つまり、「役務のすべての提供が完了」を原則としつつも、報酬額の決め方によっては「金額が確定」「支払を受ける」タイミングで益金算入となります。この点で、「金額が確定」し「支払を受け」ている継続的役務提供契約についても、そのタイミングで、すなわち、1年間相当額を全額益金に算入すべきであるようにも思えます。しかし、「金額が確定」したのは「役務の提供」が行なわれたためです。継続的役務提供契約については、事業年度終了日において未経過期間に対応する役務の提供は行われていません。

むしろ、この通達の(注)の規定が重要と思われます。つまり、技術役務の提供に係る契約に関連してその着手費用に充当する目的で相手方から収受する仕度金、着手金等の額は、後日精算して剰余金があれば返還することとなっているものを除き、その収受した日の属する事業年度の益金の額に算入するというものです。

つまり、「金額の確定」だけではなく「返還しないことが確定」が求められています。

賃貸借契約に基づく使用料等の帰属の時期(法人税基本通達2-1-29)

この通達は、法人税基本通達の「第2章 収益並びに費用及び損失の計算」「第1節 収益等の計上に関する通則」「第6款 利子、配当、使用料等に係る収益」に位置付けられています。

益金算入時期は、前受けに係る額を除き、当該契約または慣習によりその支払を受けるべき日(の属する事業年度)が原則です。

ただし、当該契約について係争(使用料等の額の増減に関するものを除きます。)があるためその支払を受けるべき使用料等の額が確定せず、当該事業年度においてその支払を受けていないときは、相手方が供託をしたかどうかにかかわらず、その係争が解決して当該使用料等の額が確定し、その支払を受けることとなるまでその収益計上を見合わせることができます。

技術役務の提供に係る契約に関連してその着手費用に充当する目的で相手方から収受する仕度金、着手金等の額は、後日精算して剰余金があれば返還することとなっているものを除き、その収受した日の属する事業年度の益金の額に算入するというものです。

一定期間における継続的契約である点で、継続的役務提供契約と類似する点があります。益金算入時期は、当該契約または慣習によりその支払を受けるべき日(の属する事業年度)が原則です。ただし「前受けに係る額を除き」という文言が重要です。「前受けに係る額」は益金とはならないのです。

保証金等のうち返還しないものの額の帰属の時期(法人税基本通達2-1-41)

この通達は、法人税基本通達の「第2章 収益並びに費用及び損失の計算」「第1節 収益等の計上に関する通則」「第7款 その他の収益等」に位置付けられています。

資産の賃貸借契約等に基づいて保証金、敷金等として受け入れた金額は、賃料未払いの担保等として賃借人から預かり、賃貸借契約終了時に返還することが一般的です。

もっとも、当事者間の契約において、保証金、敷金等の額の全部または一部について、期間の経過その他当該賃貸借契約等の終了前における一定の事由の発生により返還しないことと定めることがあります(「敷引」「償却」など)。

この返還しない部分の金額は、その返還しないこととなった日の属する事業年度の益金の額に算入します。

契約によっては、賃貸借契約締結の段階で、契約期間の満了を待たずに敷金の一部が返還されないこととなっているものもあります。この場合は、契約締結の段階で、当該一部の額は益金の額に算入されることになります。

逆にいえば、返還しないことが確定するまでは益金の額に算入されないということです。

まとめといくつかの検討

継続的役務提供契約に係る益金算入時期については、税法上は明文の規定がありません。

明文の規定がない、つまり、法人税法22条2項の「別段の定めがない」ため、原則どおり、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従います。

一般に公正妥当と認められる会計処理の基準(企業会計原則注解5)によれば、継続的役務提供契約の収益は期間の経過に伴って収益に計上するため、税務上も期間の経過に伴って益金に算入することになります。

ここで、念のため検討したい点があります。

「金額が確定」かつ「支払を受けた」のだから全額が益金になるのでは?

契約により1年分の金額を前受けしている場合、「金額が確定」かつ「支払を受けた」ことから、どちらかの日の属する事業年度において(少なくとも税務上は)1年分の金額を益金に算入すべきではないのかということです。

「税法に別段の定めがない」「よって一般に公正妥当と認められる会計基準に従う」「一般に公正妥当と認められる会計基準ではそのような処理は行わない」という流れで否定されると考えられます。

また、実質的に検討しても、このような継続的役務提供契約の場合には、収益の認識について「時の経過」が重要な要素となっています。この点が「入会金」や「申込金」などとは根本的に異なるものです。

つまり、「金額が確定」「支払を受けた」としても、「時が経過」しなければ、収益として認識されない、つまり、益金にならないのだという構成も可能といえます。

上記の法人税基本通達2-1-29においても、賃貸借契約に基づく使用料等の益金算入時期は、当該契約または慣習によりその支払を受けるべき日(の属する事業年度)が原則ですが、「前受けに係る額を除」くとあります。

時が経過せず、収益として認識できない部分は、まさしく「前受け」といえるのです。

「返還を受けないことが確定している」場合はどうなる?

たしかに、法人税基本通達2-1-12の(注)や、2-1-41では、「支払を受けた金額のうち、返還しないことになる部分」は、益金に算入されると規定しています。

まず、法人税基本通達2-1-12(注)によれば、技術役務の提供に係る契約に関連してその着手費用に充当する目的で相手方から収受する仕度金、着手金等の額は、後日精算して剰余金があれば返還することとなっているものを除き、その収受した日の属する事業年度の益金の額に算入します。つまり、本来の技術役務の提供そのものではなく、その着手費用に充当する目的で相手方から収受する仕度金、着手金等の額です。

また、法人税基本通達2-1-41によれば、資産の賃貸借契約等に基づいて保証金、敷金等として受け入れた金額であっても、当該金額のうち期間の経過その他当該賃貸借契約等の終了前における一定の事由の発生により返還しないこととなる部分の金額は、その返還しないこととなった日の属する事業年度の益金の額に算入します。

しかし、この2本の通達で示されている「返還しないことになる部分」は、本来の役務提供の対価ではない部分です。

つまり、収益の核をなす「技術役務に係る対価」「賃貸借契約に係る対価」そのものではなく、事前の仮払いとその精算もしくは費用弁償だったり、または、返還すべき預り金であって、本来ならば収益を構成しないものといえます。

なにより、もともと「技術的役務の提供」「資産の賃貸借」であって、継続的役務提供とは類似点はありますが性質を異にします。

このため、これらの通達を類推適用するのは若干無理があると考えられます。

類推適用ではなく、そもそも「別段の定め」をすべきであって、「別段の定め」がないことこそ重要だといえます。

とはいえ、いちおう無理やり(?)類推適用して検討してみましょう。

継続的役務提供契約で、たとえば役務提供者側の事情で役務提供が不能となった場合には未経過期間に対応する部分の金額の返還が受けられる条項があるとします。

この場合には、契約期間中は(可能性は低いとはいえ)「未経過期間に対応する部分の金額を返還する可能性はゼロではない」、すなわち、返還しないことが確実になっていないといえます。よって、未経過期間分を含めて全額を益金にする必要はないと考えられます。

実際上も、契約条項では「返還しない」という規定は、「役務提供を受ける側の責に帰すべき事由」「両当事者の責に帰すことができない事由」による場合であり、役務提供者側の責に帰すべき事由による契約の終了では返還されるのが通常です。

もし、契約上「役務提供者側の責に帰す事由で契約が終了した場合であっても未経過期間に対応する金額は一切返還しない」ことになっている場合はどうなるでしょうか。

「そもそもこのような契約内容が公序良俗などに反して無効ではないか」という議論はとりあえずスルーして、このような場合は支払を受けた金額は一切返還しないことが確定しているため、契約の時点で1年分の金額を全額益金に算入しなければならないのではないかとも思えます。

そこで、原則に戻って検討します。

すなわち、形式的には「継続的役務提供契約の益金算入時期については税法上別段の定めがない」「よって、一般に公正妥当と認められる会計処理の原則に従う(企業会計原則注解5)」となります。

実質的には「継続的役務提供契約の収益の認識にあたっては「時の経過」が重要な要素であり、未経過期間に対応する部分の金額については収益を認識できないため、益金とはならない」ことになります。

また、存続期間のある点で継続的役務提供契約と類似する資産の賃貸借契約に基づく使用料等の益金算入時期について、法人税基本通達2-1-29は、当該契約または慣習によりその支払を受けるべき日(の属する事業年度)が原則としていますが、「前受けに係る額を除」くとしています。

よって、「金額が確定」「支払を受けた」「返還しないことが確定」であっても、未経過期間に対応する部分については「前受け」として益金とはならないと考えられます。

この点が、入会金や申込金のように、入会させたり申込を受領したという「役務の提供が完了して収益が実現している」ケースと異なるのです。

そして、個別の契約の内容が課税上の弊害をもたらすようなものであるときは、まさに個別的に対応すれば足りると考えられます。

( おわり )