年金をお受取りの方が確定申告の計算を試みたほうがよい場合
「公的年金等の源泉徴収票」の「源泉徴収税額」がゼロでない場合、年金のほかに給与所得があり「給与所得の源泉徴収票」の「源泉徴収税額」がゼロでない場合には、確定申告で税金の還付を受けられる可能性がありますので、所得税の計算を試みてください。
単純に所得税が還付されるだけではありません。住民税や健康保険料が大きく減ることになります。
公的年金等に係る確定申告不要制度
その年において公的年金等に係る雑所得を有する居住者で、その年中の公的年金等の収入金額が400万円以下であり、かつ、その年分の公的年金等に係る雑所得以外の所得金額が20万円以下である場合には所得税の確定申告の必要はありません。
しかし、「確定申告の必要はない」ことと「確定申告をしてはいけない」ことは異なります。
ちなみに、雑所得以外の所得金額が20万円以下である場合には、所得税の確定申告の必要はありませんが、住民税の確定申告は必要です。
なぜ所得税が還付になるのか
所得税は、「所得金額」から「所得から差し引かれる金額」を差し引いた「課税される所得金額」に税率を乗じて、「所得税及び復興特別所得税」の額が計算されます。
そして、給料や年金の支払いを受けるときに天引きされていた「源泉徴収された所得税及び復興特別所得税」の額との差額を、納税したり還付を受けることになります。
つまり、還付を受けるということは、「所得税及び復興特別所得税」の額よりも、「源泉徴収された所得税及び復興特別所得税」の額のほうが大きいからです。
逆にいえば、「源泉徴収された所得税及び復興特別所得税」の額がゼロの場合、確定申告によって申告(納税)額はあっても、還付を受けるということはありえません。
さて、なぜ還付かと申しますと、「所得から差し引かれる金額」つまり「所得控除」の額が大きいため、「課税される所得金額」がゼロになり、年金の受取りのときに天引き(源泉徴収)されていた所得税と復興特別所得税が還付されるのです。
(ケース1)公的年金等の源泉徴収票の「源泉徴収税額」がゼロでない場合
公的年金等の源泉徴収票の「源泉徴収税額」がゼロでない場合、医療費や生命保険料控除がなくても税金が還付されることがあります。
その理由は、年金機構等に提出したご本人やご家族の状況についての「扶養親族等申告書」の内容が12月31日の状況と異なっていることがあるからです。
「公的年金等の源泉徴収票」には、年金の支払金額や差し引かれた源泉徴収税額や社会保険料の金額のほか、次の情報が記載されています。
- 本人情報(特別障害者、その他障害者、特別寡婦、寡婦寡夫)
- 控除対象配偶者の有無(老人控除対象配偶者の有無)
- 控除対象扶養親族の数(特定、老人、その他)
- 本人以外の障害者の数(特別、その他)
これらの情報が実際と異なっている場合、国税庁サイトの確定申告ソフトなどで、ご本人やご家族の12月31日における正確な情報を入力しただけで、全額還付になることがあります。
障害者控除の検討
納税者自身(ご本人)が、所得税法上の一般の障害者に当てはまる場合には27万円を、特別障害者に該当する場合には40万円を障害者控除として差し引きます。
- 納税者自身(ご本人)が一般の障害者に当たる場合・・・27万円
- 納税者自身(ご本人)が特別障害者に当たる場合・・・40万円
配偶者控除の検討
一般的には、「配偶者の所得金額が38万円以下(給与所得だけならば給与収入103万円以下)なら配偶者控除ですが、所得金額が38万円を超える(給与所得だけならば給与収入103万円超)ならば、配偶者控除に代えて配偶者特別控除が適用され、配偶者の所得金額が大きくなるに従い配偶者特別控除の額も段階的に小さくなり、配偶者の所得金額が76万円(給与所得だけならば給与収入141万円)で配偶者特別控除はゼロになります。」という話です。
その検討とは別に、その年12月31日現在の年齢が70歳以上の人は、老人控除対象配偶者として、配偶者控除は38万円ではなく48万円となります。
そして、配偶者控除(38万円または48万円)に加え、配偶者が所得税法上の一般の障害者に当たる場合には27万円が、特別障害者に当たる場合には40万円が、さらに特別障害者の場合で同居している場合には75万円が加算されます。
- 配偶者控除・・・38万円
- 配偶者が12月末で70歳以上の場合の配偶者控除・・・48万円
その他の検討事項
ご本人やご家族の情報を正確にしただけで、すでに所得金額を上回る所得控除の金額となり、課税所得金額はゼロとなり、所得税はゼロとなるため、源泉徴収税額はすでに全額還付になっている可能性は高いと考えられます。
ただ、所得税の計算と、住民税や健康保険料の計算は異なります。
たとえば、所得税の基礎控除は38万円ですが、住民税の基礎控除は33万円です。このため、所得税はゼロでも住民税(の所得割)はゼロではないことがあります。
このため、源泉徴収税額の全額還付だけに甘んじることなく、住民税や健康保険料のことも考えて徹底的に所得控除額を検討して申告しましょう。
具体的には、生命保険料控除や地震保険料控除などです。
(ケース2)年金のほかに給与所得があり「給与所得の源泉徴収票」の「源泉徴収税額」欄がゼロでない場合
年金の受取りのほかに、給与所得がある方も少なくありません。
「でも、「公的年金等の源泉徴収票」の「源泉徴収税額」欄がゼロだし、しかも年末調整してもらっちゃってるし、医療費も少ないから、確定申告する必要ないよね」
ただ、「給与所得の源泉徴収票」の「源泉徴収税額」欄がゼロでないときはチェックしていただきたいことがあります。
年末調整のときに勤務先に提出した「給与所得者の保険料控除申告書兼給与所得者の配偶者特別控除申告書」に公的年金の受取りの際に差し引かれた社会保険料の金額を勤務先に申告していないことがあります。
年内最後の年金の振込みが12月上旬であることや、勤務先への「給与所得者の保険料控除申告書兼給与所得者の配偶者特別控除申告書」の提出の締めきりの関係、何より、年金の振込通知書や改定通知書と実際の振込み額をチェックしなければならず煩わしいのでそのままにしている方も少なくないのではないでしょうか。
ちなみに、「給与所得の源泉徴収票」の摘要欄に「年調未済」と記載されているか、「給与所得控除後の金額」「所得控除の額の合計額」が空欄になっていたら、そもそも年末調整はされていません。
このような場合、国税庁サイトの確定申告ソフトなどで、「社会保険料控除」の欄に「公的年金等の源泉徴収票」の「社会保険料の金額」を入力しただけで、確実に税金が還付になります。
(おわり)