譲渡制限株式の譲渡における会社法の「1株当たり純資産額」
会社法上によれば、譲渡制限株式の譲渡にあたり、会社が譲渡を承認せず、会社または指定買取人が買い取ることになった場合、1株当たり純資産額に対象株式数を乗じた額が関係してきます。
「いかなる場合に1株当たり純資産額を基礎とした額が出てくるのか」「1株当たり純資産額はどう計算するのか」についてご説明いたします。
「1株当たり純資産額」が登場する場面
会社または指定買取人が買い取ることになった場合の供託
譲渡承認請求者(株主)が、株式譲渡の承認請求に際して、株式譲渡を承認しない場合には会社または指定買取人が買い取るよう請求している場合、会社が譲渡を承認しないこととした場合には、会社または指定買取人が株式を買い取らなければなりません。
会社または指定買取人は、譲渡承認請求者(株主)に対して株式を買い取る旨を通知すると同時に、一定の金額を供託しなければなりません。
この一定の金額が、「1株当たり純資産額」に対象株式数を乗じた額です(会社法141条、142条)
譲渡承認請求者と会社または指定買取人の売買価格の交渉が不調の場合
譲渡承認の請求者と会社または指定買取人との協議が期限内に調わず、かつ、双方ともに裁判所に売買価格の決定の申し立てをしていない場合の売買価格は、「1株当たり純資産額」に対象株式数を乗じた額となります(144条5項)。
「1株当たり純資産額」
ここで、 1 株当たりの純資産額とは何でしょうか。いわゆる「 1 株当たり簿価純資産額」です。
 1 株当たりの純資産額 = (基準純資産額 ∕ 基準株式数) × 株式係数
基準純資産額
基準純資産額とは、基本的に、算定基準日(下記をご覧ください。)における貸借対照表の純資産の額となります。
基準純資産額 = 資本金の額 + 資本準備金の額 + 利益準備金の額 + 剰余金の額 + 評価・換算差額等に係る額 + 新株予約権の帳簿価額 − 自己株式及び自己新株予約権の帳簿価額の合計額
上記の剰余金の額とは、会社法 446 条の剰余金の額ですが、条文上は複雑ですが結論的に「資本剰余金のうち資本準備金を除く額」と「利益剰余金のうち利益準備金を除く額」の合計額です。
基準株式数
「基準株式数」とは、種類株式発行会社でない場合には発行済株式(自己株式を除きます。)の総数であり、種類株式発行会社である場合 株式会社が発行している各種類の株式(自己株式を除きます。)の数に当該種類の株式に係る株式係数を乗じて得た数の合計数です。ここで、種類株式発行会社とは内容の異なる 2 以上の種類の株式を発行する株式会社のことですが、譲渡制限株式は会社法上種類株式のひとつですが、株式会社が発行している株式がすべて普通株式で譲渡制限が付されているものだけである場合には、種類株式発行会社ではありません。
株式係数
「株式係数」とは、 1 です。ただし、種類株式発行会社において、定款である種類の株式について当該種類の株式1株を 1 とは異なる数の株式として取り扱うために1以外の数を定めた場合にあっては、その 1 以外の数をいいます。
算定基準日
「算定基準日」とは、次の日をいいます。
- 会社がみずから譲渡制限株式を買い取る場合は、会社が譲渡承認請求者等にその旨を通知する日
- 会社と譲渡承認請求者等との売買価格の協議が、会社が譲渡承認請求者等に譲渡制限株式を買い取る旨を通知した日から 20 日以内に調わなかった場合は、会社が通知した日
- 指定買取人が譲渡制限株式を買い取る場合は、指定買取人が譲渡承認請求者等にその旨を通知する日
- 指定買取人と譲渡承認請求者等との売買価格の協議が、指定買取人が譲渡承認請求者等に譲渡制限株式を買い取る旨を通知した日から 20 日以内に調わなかった場合は、指定買取人が通知した日
(おわり)