フリー・キャッシュ・フロー算定のための事業計画作成

「可能な限り信頼性の高い事業価値(企業価値、株式価値など)を算定したい。その基礎となるフリー・キャッシュ・フローをより正確に算定したい。そのために事業計画を作成する」というアプローチを採る場合、キャッシュ・フローの算定要素、すなわち、「(みなし)税引後営業利益」「設備投資額」「運転資本増減額」を確実に押さえるような事業計画を作成します。

そして、数値を調整した場合にも整合性を維持できることを重視しております。より実践的には、割引率も算定し、その都度DCFを算定しながら、事業計画にフィードバックしていくことになります。

( 1 )フリー・キャッシュ・フローの算定要素

フリー・キャッシュ・フローをより正確に算定するために事業計画を作成する場合には、キャッシュ・フローの算定要素、すなわち、「(みなし)税引後営業利益」「設備投資額」「運転資本増減額」をいかに正確に算定し、これを事業計画に反映させるかが重要です。

( 2 )比較的確実に予測できる数値の算定

事業計画は将来のことであるため、不確実、不確定なことも少なくなく、一定の予測や見積りが伴うことは避けられません。 しかし、既存の固定遺産の減価償却費、前払費用などの費用化、借入金の返済と利息の支払いは、あらかじめ正確な数値を算定することができます。

( 3 )ワークシート作成とその留意点

私の場合、「事業計画(予測損益計算書と予測貸借対照表)を作成するワークシート」「フリー・キャッシュ・フローを算定するワークシート」「割引率で割り引いてDCFを計算し、企業価値や株主価値を算定するワークシート」の3つのワークシートでコントロールしております。 また、ワークシートについては、すべて1円単位で作成・計算しております。なぜなら、最終的な価値の算定結果が1円単位、あるいは、何銭単位であるならば、その前提となる数値も1円単位で算定すべきと考えるからです。

( 4 )予測損益計算書の作成 Part1

フリー・キャッシュ・フロー算定のための予測損益計算書は、フリー・キャッシュ・フローの重要な算定要素が「税引後営業利益」であることから、営業損益項目を検証することと、法人税等の額を計算経済性を考慮しながら可能な限り厳密に計算します。このことは、各予測事業年度末における未払法人税等の額の精緻化を通じて、フリー・キャッシュ・フローの算定要素である「運転資本の増減額」の精度を高めます。

( 5 )予測損益計算書の作成 Part2

過去の実績から想定される予測値を出す場合には、まずは過去の実績の分析から始め、将来の損益予測を「過去の実績から想定したなりゆき」で行います。ここでは、近似曲線分析によって予測を行います。 まずは「なりゆき」の状況を把握し、そのうえで、「意思」を付け加えるか否か、付け加えるとしてどの程度かの検討をするのが順序的にはよいのかなと思われます。 既存の固定資産の減価償却費や既存の借入金の支払利息については、予定値を入れることになるため、それ以外の項目について検討することになります。 余裕があれば、予測貸借対照表の残高も考え、年次の予測損益計算書を四半期または月次に分割すべきかも考えます。

( 6 )設備投資計画と減価償却

減価償却費は、各予測事業年度の予測損益計算書に反映されます。よって、減価償却費をどれだけ発生させるか、つまり、減価償却の基礎となる固定資産を事業の用に供したタイミングがいつか、その前提として、その固定資産に係る設備投資をいつのタイミングで行うかによって、予測損益計算書の損益、そしてフリー・キャッシュ・フローはかなり変化することになります。

( 7 )予測貸借対照表の作成 Part1

フリー・キャッシュ・フローの算定要素に「運転資本増減額」があります。これは、営業用流動資産から営業用流動負債を控除した額(運転資本)の前予測事業年度末との増減額です。いずれも貸借対照表から導かれる数値です。このため、フリー・キャッシュ・フローをより適切に算定しようとするなら、予測貸借対照表の作成が欠かせません。

( 8 )予測貸借対照表の作成 Part2

フリー・キャッシュ・フロー算定にあたり、通常の貸借対照表の現預金残高を、通常の営業活動に必要な資金(営業用現預金)と営業用現預金を超える余剰現預金とに区分します。予測貸借対照表では、貸借差額としての現預金残高が営業用現預金を維持できるように資金調達を計画します。営業用現預金は運転資本(増減額)としてフリー・キャッシュ・フローを構成します。 いっぽう、余剰現預金とその他の非営業用資産は、各予測事業年度のフリー・キャッシュ・フロー及び継続価値の現在価値の和である事業価値に加算されて企業価値、株主価値そして株式価値を構成することになります。