( 2 )役員退職金を受け取る個人のメリット

オーナー経営者は、自分で自分の退職金の額を決められることにあります。

所得税法上、退職金は退職所得となります。退職所得に対する所得税は、所得(退職所得の金額)の算定方法、適用される税率の点で、極めて有利です。

とくに、近年の税制改正による給与所得における給与所得控除額の上限の設定により、給与所得に対する課税よりさらに有利となります。

また、死亡退職金等についても、相続税の非課税枠が設定されています。

役員退職金を受け取る者のメリットとデメリット

自分で退職金の額を決めることができる

オーナー経営者(所有と経営がほぼ一致するいわゆる同族会社の社長)の退職金のメリットは、自分で自分の退職金の額を決められることにあります。

なぜなら、会社法361条によれば、取締役の退職金(「職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益」)の額やその算定方法を定款で定めていないときは、株主総会の決議で定めるとしています。

会社法が役員退職金の額等の決定に株主総会の決議を要求した趣旨は、株式会社の所有者たる株主がその経営を経営の専門家である取締役に委任するという株式会社制度では、取締役が自らの報酬や退職金を決めると「お手盛り」となることから、会社の所有者たる株主の承認(株主総会決議)が必要としたものです。

この点、所有(株主)と経営(取締役)が一致するいわゆる同族会社は、オーナー社長が自らの役員退職金について、オーナー(株主)の立場で決定できるのです。

近年の税制改正による給与所得の増税

近年の所得税法の改正によって、給与所得控除額の上限額が設けられるようになりました。

給料や賞与などの給与所得に対する所得税の課税は、給料等の収入金額に課されるのではなく、収入金額に応じて一定の額(給与所得控除額)が差し引かれた後の残額に課されます。給与所得控除額は、いわゆるサラリーパーソンの必要経費ともいわれるものです。

給与所得控除額は、給与収入の額の増加に応じて増加します。ところが、近年の税制改正によって、一定の給与収入の額を超えると「打ち止め」となります。

平成25年分からは年間給与収入の額が1,500万円、平成28年分は1,200万円、平成29年分以降は1,000万円を超えると、給与所得控除額は増えなくなります。

このことは何を意味しているのでしょうか。

給与所得の額は、給与収入の額から給与所得控除額を差し引いた額です。給与所得控除額が打ち止めになるということは、年間給与収入の額が一定の額を超えると、超えた分にまるまる所得税(より正確には所得税と復興特別所得税と住民税)が課されることになります。

平成27年分から所得税の最高税率が40%から45%に上がりますが、「所得が4,000万円超だから自分には関係ない」と思う方も、実は、年収は変わらないのにいきなり増税ということになるのです。

退職給与の所得税法上のメリット

退職金に係る所得税の課税は、所得(退職所得の金額)の算定方法、適用される税率の点で、極めて有利です。

退職所得の金額の算定方法

所得税が課される退職所得の金額(課税退職所得金額)は、退職金から勤続年数に応じた退職所得控除額を差し引き、さらにこれを1/2にした額なのです。

まず、退職所得控除額は勤続年数が多いほど有利となります。勤続年数が20年以下の場合は1年あたり40万円(80万円に満たない場合には80万円)、20年超の場合は20年を超える期間1年あたり70万円です。

勤続年数が長ければ長いほど退職所得控除額が増えるため、課税される退職所得金額が減り、受け取る側からすると手取り額が増えます。

さらに、退職給与控除額を超える額に1/2を乗じた額が課税退職所得金額となります。

ただし、法人役員等としての勤続年数が5年以下に該当する場合(特定役員等に対する退職金)は1/2を乗じません。

退職所得に適用される税率

所得税の額は、1年間の数種類の所得を合計した(課税)所得金額に、所得金額に応じた所得税率を乗じます(総合課税)。

いっぽう、退職金(退職所得)については、他の所得のように合算しません(分離課税)。

この課税退職所得金額について、総合課税の場合と同じ累進超過税率が適用されます。

つまり、退職所得の課税は分離課税ですが、土地や株式を譲渡した場合の分離課税が独自の税率が適用されるのに対して、退職所得の場合は、あたかも年間の所得が退職所得だけであるとして累進超過税率を適用するようなイメージとなります。

なお、住民税10%も別途課税されますが、通常は退職金の支給の際に住民税分も含めて正確な金額が源泉徴収されるため、確定申告を要しません。

ただし、勤務先に「退職所得の受給に関する申告書」の提出をしていない場合には、退職所得の額にかかわらず20.42%の源泉徴収を行います。そして、退職金を受け取った人は確定申告をして精算を行うことになります。

通常の場合、勤務先の税務調査で「退職所得の受給に関する申告書」がないことで源泉徴収モレを指摘されることが多いのですが、課税所得金額が695万円を超えている場合には、20.42%よりも高い税率が適用されるため、確定申告をしていないと追加納付ということもあります。

ところで、課税退職所得金額の計算で、法人役員等としての勤続年数が5年以下に該当する場合(特定役員等に対する退職金)は1/2を乗じません。退職金から退職所得控除額を差し引いた額が課税退職所得金額になります。

この点で、特定役員等に対する退職金に該当してしまうと、税負担は倍以上(累進超過税率のため)になってしまうことになります。

死亡退職金の場合

オーナー経営者が役員のまま死亡した場合には、オーナー経営者(被相続人)に相続が発生します。

被相続人が、法定相続人の数による基礎控除額を超える相続財産がある場合には、相続税が課されます。

被相続人が保有していた会社の株式も相続(税)の対象となります。

そして、役員のまま死亡すると死亡退職となるため、会社は死亡退職金や弔慰金を支給することが一般的です。

(各)相続人が被相続人が保有していた会社の株式を相続して会社の支配権を獲得すると、株主総会で議決できるため、(各)相続人はみずから受け取る被相続人の死亡退職金の額や弔慰金の額を決めることができます。

さて、相続人が受け取る死亡退職金や弔慰金については、相続人の所得税ではなく相続税の課税対象となりえます。

弔慰金と相続税

被相続人の死亡によって受ける弔慰金や花輪代、葬祭料などについては、一定の額までは相続税の課税対象になることはありません。

具体的には、被相続人の死亡が業務上の死亡であるときは被相続人の死亡当時の役員給与の3年分に相当する額、被相続人の死亡が業務上の死亡でないときは被相続人の死亡当時の役員給与の半年分に相当する額までは相続税は課されません。

ただし、弔慰金などの名目であっても、実質的に死亡退職金に該当すると認められる部分は、相続税の課税対象となります。

死亡退職金と相続税

被相続人の死亡によって、被相続人に支給されるべきであった退職金、功労金その他これらに準ずる給与で、被相続人の死亡後3年以内に支給が確定したものは、相続財産とみなされて相続税の課税対象となります。

また、上記の弔慰金のうち一定の額を超えた部分や、弔慰金のうち実質的に死亡退職金に該当すると認められる部分も相続税の対象となります。

もっとも、法定相続人の数に500万円を乗じた額までは非課税で、これを超える部分について相続税の課税対象となります。なお、相続人以外の人が取得した退職手当金等には、非課税の適用はありません。また、法定相続人の数には、相続放棄した人も算入し、養子については実子がいる場合には1人、実子がいない場合は2人まで算入します。

( つづく )