( 1 )役員退職金を支給する法人のメリット

法人が退職した役員に支給した退職金(退職給与)は、会計上費用処理されて当期純利益を減少させますが、法人税の計算でも、益金から差し引く損金の額に算入されます。

法人は役員退職金を支給することで、当該事業年度の法人税等の負担を軽減することができます。

ただし、法人税法のルールでは、役員退職金の損金算入時期などが規定されているため、適用を誤らないことが必要です。

法人税等の負担を軽減

法人が退職した役員に支給した退職金(退職給与)は、会計上費用処理されて当期純利益を減少させますが、法人税の計算でも、益金から差し引く損金の額に算入されます。

つまり、法人が役員退職金を計上すると、当該法人の課税所得を減少させるため、法人税等の負担が軽減します。

とくに、死亡による退職の場合、法人が死亡保険金を受け取る場合、当該死亡保険金は利益(益金)となるため、これを打ち消すための死亡保険金を原資として役員退職金を支給することになります。

なお、地方税である法人事業税で外形標準課税が適用されている場合には、報酬給与額が増加するため付加価値割が増加します。

会計処理と税務上の処理との関係

役員退職金の支給が確定したとき、あるいは、支払いをしたとき、会計上は費用として処理され、当期純利益を(場合によっては大幅に)減少させます。

仕訳にすれば次のとおりです。

(借) 役員退職金 600 (貸) 現預金(or未払金) 600

ところで、役員退職金規定などの内規があるなど、会計上の引当金の要件を満たす場合には、各事業年度で役員退職慰労引当金を計上することになります。この場合には、実際の役員退職金を決議(支給)した事業年度でも、退任役員分に相当する引当金を取り崩すために、当期純利益に与えるインパクトは平準化されます。

引当金計上時

ある役員の役員退職金につき、ある事業年度分に対応させる部分を引当金として費用計上します。

(借) 役員退職慰労引当金繰入 100 (貸) 役員退職慰労引当金 100

退職金確定時

当該役員の退任時の引当金の残高は500であり、確定した実際支給額は600だとします。

(借) 役員退職慰労引当金
役員退職慰労金
500
600
(貸) 役員退職引当金戻入
未払金
500
600

この場合、当該役員退職金に係る当期純利益に対するインパクトは、引当金の残高と実支給額との差額の100ということになります。

なお、各事業年度で計上する役員退職慰労引当金繰入額は会計上は費用として当期純利益を減少させることになりますが、法人税の課税所得の金額の計算では、役員退職慰労引当金繰入額はその全額が損金に算入されません。つまり、法人税の計算上はこの費用がなかったものとされます。よって、各事業年度の引当金繰入額は法人税の申告書上、当期純利益の金額に加算されます(留保)。

たとえば、ある事業年度の役員退職慰労金繰入額が100、当期純利益は800だとすると、法人税の申告、100は損金の額に算入されないため、当期純利益に加算されます(800から900になります)。

そして、実際の役員退職金の決議時または支給時に損金算入されます(下記参照)が、このときに、引当金の残高は法人税の申告書上減算されることになります。

たとえば、ある事業年度に決議された役員退職金(費用)が600、取り崩した役員退職慰労引当金が500(収益)、当期純利益は900だとすると、会計上のインパクトは100(費用)ですが、法人税の申告書上では、過年度に加算されてきた500が当期純利益から減算されます(900から400)になります。会計上は費用は100ですが、法人税の申告では500が減算されているため、結果的に役員退職金の600が損金に算入されていることになります。

法人税法上の役員退職給与の損金算入時期

法人税法では、役員退職金の損金算入時期、すなわち、役員退職金の額がいつの事業年度の損金となるかについて規定しています。

原則(金額確定時)

役員退職金の損金算入時期は、原則として、株主総会の決議等によって退職金の額が具体的に確定した日の属する事業年度となります。ただし、その決議が退職手当を支給することだけを定めるにとどまり、具体的な支給金額を定めていない場合には、その金額が具体的に定められた日によります。

いわゆる債務確定主義によるものです。このため、3月決算の法人が、3月中に取締役会で役員退職金を内定してその事業年度で会計上費用計上しても当該事業年度の法人税の申告では損金の額に算入されません。当該事業年度の損金にするには3月中に臨時株主総会で決議して確定させなければなりません。また、3月中に臨時株主総会で役員退職金の上限額を決議して、具体的な金額は取締役会に一任したものの3月末までに確定できなかった場合も同様です。

もちろん、これはあくまで税務上の取扱いです。会計上は確定していない段階で費用計上しても、法人税の申告上でこの費用を否認(当期純利益に加算)すればよいのです。

ただし、確定していなくても税務上認められる場合もあります。合併の場合です。

合併して消滅する被合併法人の役員は合併により退職することになりますが、被合併法人の役員に支給する退職給与の額が合併承認総会等において確定していない場合でも、被合併法人が退職給与として支給すべき金額を合理的に計算し、合併の日の前日の属する事業年度において未払金として損金経理したときは、損金の額に算入されます(法人税基本通達9-2-34)。被合併法人の役員であると同時に合併法人の役員を兼ねている者または被合併法人の役員から合併法人の役員となった者に対して合併により支給する退職給与についても同様です。

容認(支払い時)

法人が退職金を実際に支払った事業年度において、損金経理をした場合は、その支払った事業年度において損金の額に算入することも認められます。

いわゆる現金主義です。ただし、損金経理、すなわち、支払った金額を費用として経理しなければなりません。会計上は費用処理をしないで(その分当期純利益は大きくなります。)、法人税の申告書上で当期純利益から減算する申告調整は認められません。

この規定は、役員退職給与の額が具体的に確定した事業年度で計上すると会計上の当期純利益が著しく低くなるため、諸般の事由でこれを回避せざるを得ない場合に利用できます。

また、資金繰り等の事情により、退職給与を分割払いするときにも、利用できます。

もちろん、会計理論上は妥当ではないと考えられます。全額を未払計上して、支払いのときは未払金を減額すべきです。

(参考)

なお、法人が退職年金制度を実施している場合に支給する退職年金は、その年金を支給すべき事業年度が損金算入時期となります。

このため、会計上、役員が退職した事業年度に年金の総額を計算して未払金に計上しても、当該事業年度中に支給される額だけが損金の額に算入されるため、法人税の申告上、翌事業年度以降に支給される分は否認して当期純利益に加算します。

( つづく )