( 6 )過大役員退職給与をめぐる基本的な争い
過大役員退職給与をめぐる初歩的な争い、「自社の役員退職慰労金規程に基づいて支給したのだから過大な部分はない」「功労金や特別功労金は役員退職給与とは別個にとらえるべきである」「生命保険金を原資としたのだから過大な部分はない」「功績倍率が一般よりも低い」といった争いについて検討します。
主張一覧
- (1)自社の役員退職慰労金規程に従って支給したのだから過大な部分はない
- (2)功労金や特別功労金は退職金とは別であり、過大役員退職給与とは関係ない(Part1)
- (3)功労金や特別功労金は退職金とは別であり、過大役員退職給与とは関係ない(Part2)
- (4)受取保険金を原資としているのだから、過大役員退職給与とは関係ない
- (5)そもそも平均功績倍率法は法人税法に規定されていない
- (6)税務当局が算定した平均功績倍率は一般的に認められている値よりも低い
(1)自社の役員退職慰労金規程に従って支給したのだから過大な部分はない
国税不服審判所裁決(平成18年3月22日裁決、TAINSコードはF0-2-308)
請求人(納税者)の主張の要旨
- 本件役員退職給与は、請求人の「役員退職慰労金規程」に基づいて適正に支給されたものである。
裁決の要旨
- 法人税法の趣旨は、役員退職給与の損金性を決定する尺度たる当該役員の法人に対する貢献度を算数的正確さをもって客観的に測定する基準がないために、その判断が主観的に流れやすい上、個々具体的な退職給与金額には多分に利益処分としての性格を有する支出の含まれる事例が少なくないところから、役員退職給与の損金算入を認めるに当たっては、実体に即した適切な課税と租税負担の公平を期する見地に立って、法人の行為計算にとらわれることなく、一般に相当と認められる金額に限り損金算入を認め、その金額を超える部分については職務執行の対価たる性格を有しない過大な退職給与として損金算入を認めない、というものである。
- よって、法人の役員退職慰労金規程に基づいて支給された金額であればその全額が損金算入できるということではなく、同規程に基づくものであったとしても、一般に相当と認められる金額に限り損金算入が認められるのであるから、この点に関する請求人の主張は採用できない。
東京地方裁判所判決(平成29年10月13日判決、TAINSコードはZ288-2177)
原告(納税者)の主張の要旨
- そもそも、役員退職給与は、法人と退職役員との間で交わされた委任契約に基づく職務執行の対価であり、その金額は職務執行の対価としての合理性がある限り相当である。そして、職務対価としての合理性があるか否かについては私的自治が妥当し当該法人のみが判断することができる。租税法により役員退職給与の費用性を否定することはできない。
- あらかじめ就業規則等により定められた規定により支給された退職給与については、役員退職給与の支払に乗じて利益処分を行うものではないから、役員退職給与の額の相当性が推定されるというべきである。
(2)功労金や特別功労金は退職金とは別であり、過大役員退職給与とは関係ない(Part1)
国税不服審判所裁決(平成18年3月22日裁決、TAINSコードはF0-2-308)
請求人(納税者)の主張の要旨
- 本件功労金や特別功労金は、請求人の「役員退職慰労金規程」に基づいて適正に支給されたものである。
原処分庁の主張の要旨
- 役員退職所得とは、役員退職慰労金規程に基づいて支給されるものであるかどうかを問わず、また、その支出の名義のいかんにかかわらず、役員の退職により支給される一切の給与をいう。
- 具体的には、「退職すなわち勤務関係の終了という事実によって初めて給付されること」「従来の継続的な勤務に対する報償ないしその間の労務の対価の一部の後払の性格を有すること」「一時金として支払われること」の要件を備えていることが必要である。
- 請求人における功労金及び特別功労金はこれらの要件をすべて満たしている。
- したがって、法人税法に規定された役員退職給与における不相当に高額な部分があるか否かの判定においては、功労金、特別功労金を含めたところで判定を行うべきことになる。
裁決の要旨
- 所得税法30条1項によれば、退職所得とは、退職手当、一時恩給その他の退職により一時に受ける給与及びこれらの性質を有する給与に係る所得をいう。
- また、所得税基本通達30-1によれば、退職手当等とは、本来退職しなかったとしたならば支払われなかったもので、退職したことに基因して一時に支払われることとなった給与をいう。
- したがって、当該通達の定める退職所得とは、弔慰金に該当するものを除き、慰労金、功労金、特別功労金等の名目に関わらず退職に基因して支払われたすべての給与である。
補足
弔慰金等が過大役員退職給与の判定の際に役員退職給与に含まれるかどうかについては、同裁決では次のような趣旨でコメントされています。
- 相続税法基本通達3-20によれば、被相続人の死亡により相続人その他の者が受ける弔慰金、花輪代、葬祭料等(以下「弔慰金等」という。)については、被相続人の死亡が業務上の死亡でないときは、死亡当時における普通給与の半年分に相当する金額については、弔慰金に相当する金額として取り扱い、当該金額を超える部分に相当する金額は、退職手当金等に該当するものとして取り扱う旨規定されている。
- したがって、当該通達の定めに該当する部分の弔慰金は、社会通念上相当な弔慰金の額として、損金算入を認めるのが相当である。
つまり、相続税法基本通達に定める部分までの金額は法人税法上も損金算入が可能であり、これを超える部分については、役員退職給与に含めて、過大役員退職給与の算定にかかわらせることになります。
(3)功労金や特別功労金は退職金とは別であり、過大役員退職給与とは関係ない(Part2)
大分地方裁判所判決(平成18年(行ウ)第8号、平成21年2月26日判決、TAINSコードはZ259-11147)
原告(納税者)の主張の要旨
- 功労金等は、法人税法上の退職給与に該当するものである。
- しかし、死亡退職役員は、役員としての在職中の顕著な功績のほか、会社創業者として会社発展の功績があることや役員報酬を本来よりも低額に抑えて会社に利益を留保することで会社経営を軌道に乗せるなど役員退職金のみでは評価し尽くされない会社創業者としての貢献がある。
- したがって、功績倍率によって算定した役員退職金とは別に、その30%を限度として功労金等を支給する役員退職慰労金規程は合理的であり、死亡退職役員に支給された功労金等は損金算入されるべきである。
被告(国)の主張の要旨
- 役員の退職により支給される一切の給与は退職給与であり、功労金等も役員退職給与に該当する。
- 死亡退職役員に対する退職慰労金(功労金等を含む。)の総額は、生命保険会社から受け取った死亡保険金とほぼ同額であり、功労金等は恣意的に算出したものである。
- 仮に功労金等が過去からの貢献に対する報酬であり、役員報酬を低額に抑えて会社に留保した利益から支出したものであれば、いわゆる役員賞与(定期同額給与に該当しない役員給与)に該当し、全額損金不算入となる。
判決の要旨
- 功労金等も、役員の退職により支給された給与であるから、法人税法上の役員退職給与に該当する。
- 死亡退職役員に支給された役員退職給与のうち、同業類似法人の平均功績倍率及び死亡退職役員の創業者としての功績等固有の事情を踏まえた功績倍率で算出される範囲内の役員退職給与であれば相当であると認められる。
- しかし、相当と認められる額をを超えた部分については名目の如何にかかわらず、過大な役員退職給与として損金算入を認めることはできない。
- 退職慰労金とは別に支給しても合理的であるとの原告の主張は採用できない。
(4)受取保険金を原資としているのだから、過大役員退職給与とは関係ない
国税不服審判所裁決(熊裁(法)平22-6、平成22年11月12日裁決、TAINSコードはF0-2-409)
国税不服審判所裁決(関裁(法・諸)平22-47等、平成23年1月24日裁決、TAINSコードはF0-2-510等)ほか
請求人(納税者)の主張の要旨
- 本件役員退職給与計上額及び本件弔慰金は、役員の死亡退職に伴い受け取った保険金を原資として支払ったものであるから、不相当に高額とはいえない。(平成23年1月24日裁決(F0-2-510)等)
- 本件退職金は、受け取った生命保険金の額の範囲内において支給しており、その額を超えて支給したものではないことから、請求人に損害を与えたものではない。(平成22年11月12日裁決(F0-2-409))
- 保険金の使途として、1/2は会社の経営のために、残りの1/2は家族のために役立てて欲しい旨の死亡退職役員の生前の遺志を尊重したものであるから妥当な金額である。(平成22年11月12日裁決(F0-2-409))
裁決の要旨
- 役員退職給与相当額は、法人税法施行令の規定によることとされているところ、退職給与の原資が受け取った保険金であれば不相当に高額とはならない旨の規定はない。(平成23年1月24日裁決(F0-2-510)等)
- 本件退職金の原資が生命保険金であり、保険金の範囲内で前代表者の遺志に基づいて支給したもので、請求人に損害を与えていないとしても、請求人の収益の額としての保険金収入と損金の額としての退職金の支給とは別個の問題であるから、これらの点に関する請求人の主張は採用することはできない。(平成22年11月12日裁決(F0-2-409))
- 異議審理庁が、役員退職給与相当額を算出する上で用いた平均功績倍率法は、法人税法に規定されているものではないから、請求人がこれによらなければならない理由はない。
- 異議審理庁は、平均功績倍率法を採用したことの妥当性について言及していない。
- 法人税法34条2項が、不相当に高額な役員退職給与の損金不算入を定めているのは、その損金性を決定する尺度たる当該役員の会社に対する貢献度を客観的に測定する基準がないため、その判断が主観的に流れやすい上、個々具体的な役員退職給与の金額には多分に利益処分としての性格を有する支出の含まれる事例が少なくないことから、役員退職給与の損金算入を認めるに当たっては、実態に即した適切な租税負担の公平を期する見地に立って、法人の行為計算にとらわれることなく、一般に相当と認められる金額に限り、収益を得るために必要な経費として損金算入を認め、その金額を超える部分は利益処分として損金の額に算入することを認めないものとした趣旨と解される。
- そして、損金の額に算入しない金額は、法人税法施行令70条2項によれば、役員退職給与の額が、退職役員のその法人の業務に従事した期間、その退職の事情、その法人の同業類似法人の役員に対する退職給与の支給状況等に照らし、その退職した役員に対する退職給与として相当であると認められる金額(役員退職給与相当額)を超える場合に、その超える部分とする旨規定している。
- そうすると、役員退職給与相当額は、役員退職給与の支給がある同業類似法人を合理的な基準によって選定し、その同業類似法人の退職した役員の勤続年数、役員退職給与の額及び適正報酬月額等の数値を求め、これらの数値から合理的と認められる方法によって算出するのが相当と認められる。
- 役員退職給与相当額の具体的な算出方法としては、一般的に、同業類似法人における退職役員の最終報酬月額に勤続年数を乗じた額で役員退職給与の額を除した倍率である功績倍率の平均値に、その退職した役員の最終報酬月額及び勤続年数を乗じて算出する平均功績倍率法及び同業類似法人における役員退職給与の額を勤続年数で除した額の平均額に、その退職した役員の勤続年数を乗じて算出する1年当たり平均額法が用いられており、法の趣旨に合致した合理的な方法であると解される。
- そして、役員退職給与相当額の算出に当たり、上記のいずれの方法によるかは、退職役員の退職の事情等に応じて、最も適すると認められる方法を個別に判断するのが相当であるが、役員退職給与の額は、通常、その退職役員の当該法人に対する功績が最も反映される勤続年数及び最終報酬月額を基礎として算出されていると認められるから、勤続年数及び最終報酬月額をその計算の基礎とする平均功績倍率法が一般的には役員退職給与相当額の算出方法として最も妥当なものであると解される。
- しかしながら、最終報酬月額が著しく低いなど退職役員の在職期間を通じての当該法人に対する功績を適正に反映したものでない場合には、検討対象となる役員退職給与の功績倍率は同業類似法人における功績倍率の平均値に比べ著しく高率となるから、比較そのものが不合理なものとならざるを得ない。よって、このような特段の事情がある場合には、平均功績倍率法は妥当ではなく、1年当たり平均額法を用いるべきである。
- そして、このような特段の事情がない場合には、最終報酬月額を基礎とする功績倍率を用いて算出する平均功績倍率法がより合理的な方法と認められる。
- 裁判事例や裁決事例でも功績倍率が3.3倍から3.6倍というのは定着していることなどからすると、退職役員の功績倍率もこの範囲にすべきである。
- 本件に関する具体的事情を考慮せず、裁判事例や裁決事例と異なるというだけで、平均功績倍率が社会通念上不相当に低率であるということもできない。
(5)そもそも平均功績倍率法は法人税法に規定されていない
国税不服審判所裁決(平成23年1月24日裁決、TAINSコードはF0-2-511)
請求人(納税者)の主張の要旨
裁決の要旨
他の裁決や判例も同様の趣旨となっています。
(6)税務当局が算定した平均功績倍率は一般的に認められている値よりも低い
国税不服審判所裁決(平成19年11月15日裁決、TAINSコードはJ74-3-13)
請求人(納税者)の主張の要旨
裁決の要旨
( つづく )