小規模会社の議決権の過半数を握った後の会社支配

小規模な会社では、株主は1名あるいはごく少数、資本金も少なく、取締役は1名かせいぜい2名、つまり、取締役会のない会社(取締役会非設置会社)です。

このような会社の株主が、もろもろの事情により、株式(より正確には議決権)の過半数を他人に譲渡する、あるいは増資を行って増資後の議決権が過半数となるような出資を受け入れるとします。

そのとき、定款の内容が標準的(会社法のルールどおり)である場合には、議決権の過半数を握られたら事実上会社は乗っ取られたのも同然です。

「(特別決議が可決できる)2/3超を持たれなければ乗っ取られない」と安易に考えがちですが、会社の業務は特別決議を要する重要事項ばかりではありません。役員を変更されてたちどころに支配されることになります。

取締役会非設置会社

会社法施行以来、会社の機関設計が非常に自由になりました。

機関設計とは、会社の経営意思決定を行う機関(取締役や取締役会など)について、会社の規模等に合わせてどのようにするかということです。

小規模な会社では、株主は1名あるいはごく少数、資本金も少なく、取締役は1名かせいぜい2名、つまり、取締役会のない会社(取締役会非設置会社)という機関設計が一般的です。

さて、このような会社の株主が、もろもろの事情により、株式(より正確には議決権)の過半数を他人に譲渡する、あるいは増資を行って増資後の議決権が過半数となるような出資を受け入れるとします。

このとき、定款の内容が標準的(会社法のルールどおり)である場合には、議決権の過半数を握られたら事実上会社は乗っ取られたのも同然です。

と申しますのも、取締役会非設置会社では、株主総会は、会社法に規定する事項および株式会社の組織、運営、管理その他株式会社に関する一切の事項について決議をすることができるからです(会社法295条1項)。

たしかに、定款変更や合併など重要な議決については、株主総会において議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の2/3以上に当たる多数をもって行わなければなりません(特別決議、会社法309条2項)。

しかし、それ以外は、株主総会の決議は、定款に別段の定めがある場合を除き、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数をもって行います(普通決議、会社法309条1項)。

議決権の2/3超を持たれていないから重要な事項は議決できず、会社を自由に支配することができない(支配されない)と懸念(安心)しがちです。

しかし、会社の業務は常に株主総会の特別決議を要するわけではありません。

代表取締役を支配することが重要

会社の業務は常に株主総会の特別決議を要するような重要な意思決定ばかりしているわけではありません。

いっぽう、取締役会非設置会社における株主総会が会社に関する一切の事項について決議をすることができるとはいえ、常に株主総会を開催して業務を行っているわけではありません。

会社の日常的業務を執行するのは、代表取締役です。

代表取締役は、株式会社の業務に関する一切の裁判上または裁判外の行為をする権限があります(会社法349条4項)。意思決定機関(株主総会や取締役会)の決議に基づき、単独で会社を代表して契約等の行為を行うとともに、会社の業務、とくに日常業務は自ら決定も行い、執行します。

取締役が1人の場合には、その取締役は当然に株式会社を代表します(349条1項本文)。ただし、取締役が1人でも、定款で代表取締役について定めれば、取締役でもあり代表取締役となります(349条1項但書、349条3項)。

取締役会非設置会社において、取締役が2人以上いる場合には、取締役は、各自、株式会社を代表します(349条2項)が、定款、定款の定めに基づく取締役の互選または株主総会の決議によって、取締役の中から代表取締役を定めることができ、この場合は、代表取締役だけが会社を代表します(同条3項)。もっとも、取締役全員を代表取締役にすることは可能ですし、そのような会社も多数あります。

会社の通常業務を取り仕切るのは代表取締役であり、代表取締役を意のままにすることが会社支配の要となります。もっとも、このような認識がなくとも、圧倒的多数の株式会社では大株主が(代表)取締役を兼ねる「所有(株主)と経営(取締役)の一致」しているため、大株主が自ら会社を支配していることになります。

取締役会について

なお、株式会社の機関として、取締役会というものがあります。 取締役会は、すべての取締役で組織され(362条1項)、業務執行の決定、取締役の執行の監督、代表取締役の選定及び解職を行います(会社法362条2項)。

取締役会は取締役が3名いなければなりません(会社法331条5項)。このため、取締役が1人または2人のときは、取締役会を設置することはできません。

いっぽう、取締役が3名以上いたとしても、当然に取締役会を設置しなければならないわけではありません。それぞれの会社の機関設計によります。

取締役会非設置会社が新たに取締役会を設置したり、取締役会設置会社が取締役会をなくして取締役会非設置会社にするには、会社の定款を変更しなければなりません。

会社の定款の変更は、株主総会の特別決議を要します。このため、議決権の過半数を取得しただけでは定款の変更はできないため、取締役会を設置しようとしても、他の株主の協力なしには実現できません。

議決権の過半数を取ったら役員の入れ替え

さて、議決権の過半数が取得できれば、特別決議を要する会社の重要な事項を除けば自由に会社を運営できます。そこで、最初に手を付けるのが取締役の解任です。

取締役の解任による株主総会の決議は特別決議ではなく普通決議です。会社法341条は役員の選任及び解任の決議の特則ですが、定款で特に定めをしないかぎりは普通決議です。

取締役の地位を解任されると、取締役であることが前提である代表取締役の地位も当然に失います。

たとえば、取締役会非設置会社で、定款において「取締役の人数は1名以上」「代表取締役は複数の取締役での互選で選ぶ」としている場合で、取締役が2名(AとBだとします。)、代表取締役はAとします。

このとき、臨時株主総会で取締役Aを解任すると、Aは当然に代表取締役の地位を失います。

すると、取締役はBのみとなり、そのままだとBが自動的に代表取締役となってしまいます(この場合、登記申請では「代表権付与」となります。)。

これでは不十分あるいは不都合なら、AばかりでなくBも解任してしまい、Cを取締役として新たに選任します。これにより、Cが自動的に代表取締役になります。

Cが代表取締役になること、そして、取締役会がないために、株主総会で会社に関する一切の事項について決議をすることができる(会社法295条1項)ことで、特別決議事項に触れないようにしながらは会社の運営をほしいままにすることができます。

なお、会社の定款において「取締役の人数は1名以上」の場合なので、AとBを解任してCのみを取締役にすれば足りましたが、もし定款で「取締役の人数は2名以上」となっていれば、AとBを解任したらCだけではなくもう1人を取締役に選任しなければなりません。

議決権の過半数を取得しただけでは、特別決議を要する定款の変更は不可能だからです。

余談

実印確保

会社を支配するのは、法律面では議決権の数ではありますが、実務面で会社を支配するのは、会社の実印と銀行印です。

なお、Aが会社の実印を保管していることもあるため、実印も変えてしまいます。具体的には、登記申請では改印届も同時に行うことでAが実印でいろいろな契約等をすることを未然に防ぎます。 「裁判やれば勝つ」ではなく、未然にリスクの芽は摘んでいきましょう。

代表取締役の地位のみの解任

この点、お家騒動で、代表取締役の地位の解任をすることがありますが、取締役会で解任する場合には代表取締役の地位のみ解任であって取締役としてはまだとどまっています。つまり、完全に排除しきれていない手ぬるい処置ということになります。 よって、株主総会を開催できるなら(とくに取締役会非設置会社)、取締役の地位を解任すればよいことになります。

もっとも、取締役の地位も解任できるものの、それでは会社の運営に支障を来してしまう場合などには、あえて代表取締役の地位だけを解くということも考えられます。

損害賠償

取締役を解任された者は、その解任について正当な理由がある場合を除き、株式会社に対し、解任によって生じた損害の賠償を請求することができます(会社法339条2項)。

損害賠償を請求されることを避けたい場合には、解任する正当な理由を固める必要があります。いっぽう、おカネ(損害賠償)で決着できるなら一刻も早く解任したいということもあるでしょう。また、株式会社に対し解任によって生じた損害の賠償を請求するというのなら、(その事由があるなら)株式会社としても役員に対して損害賠償請求をする(会社法423条)として交渉するということもあります。

解任とは別の手段

たしかに、議決権の過半数を得れば、役員を解任することができます。しかし、解任された役員は、過半数を割ってはいても大株主であることが少なくありません。

定款変更など特別決議を要する事項の場合には、議決権の2/3を押さえなければならないため、他の株主の協力を得ないかぎりは通すことができません。

その役員に私怨はなく、役員の地位を退いてもらうのが目的ならば、解任という刺激的な方法はなるべく採りたくないという考えも出てきます。

何より、役員を解任すると登記簿謄本の原因欄に「解任」と記載されます。これは、本人の名誉にかかわることです。

解任に足る正当な理由を告げつつ、役員の名誉心に訴えて自ら辞任届を提出してもらうようにし、それがダメな場合は、株主総会で解任せざるをえないというシナリオもあります。

また、解任ではなく、辞任届提出でもなく、任期満了で再任(重任)しないという選択肢もあります。

逆の立場

これまで述べたことは、主として議決権の過半数を取得した側の立場でのお話でしたが、過半数を取得されようとする側の立場では、どうすればやりたい放題にされないかという防衛策が必要になります。

( おわり )