( 4 )具体的な調整

具体的な調整は、取引金額である税込レベルでまず行い、その後で税抜レベルで行います。取引金額をまず固めれば、あとは本体価格と消費税との調整となるからです。

まず、端数による差額を個々のレベルで最小限(ゼロまたは1円)にし、その後に全体的なレベルでの差額をなくすように再調整していきます。 勘定科目レベルでは差が生じていなくても、その内訳の補助科目レベルで、さらに補助科目レベルでも月次レベルではものすごい差がプラスマイナスでたまたま補助科目全体の残高としては差額が小さいこともあるからです。

個々のレベルでの調整結果(部分最適)が必ずしも全体最適にならないときには、再調整を行います。

優先順位

端数は必ず生じ、端数処理をしても完全にはなりません。どこかにシワ寄せせざるをえません。

その前に、あらかじめ優先順位を決める必要があります。

各共有者やグループ会社はそれぞれが独立した主体なので、外部公表用の決算数値、すなわち、各当事者固有の部分は除いたところの利益が比率に応じた額とするのが最重要のポイントと思われます。

そのために、「収益ではどちらかが1円大きくて、費用はどちらかが1円小さくなるように調整」 「ある収益(費用)科目はどうしても1円差が出るため、どれかを1円大きくして、他の収益(費用)科目で同様にどうしても1円差が出るものについては1円小さくなるように調整」していきます。

それでも収まらない差額については、優先順位によって決まります。

とくに、最終的に外部に公表される勘定科目の残高(合計額)ベースでは調整できても、その内訳ともいえる個々の補助科目ベースでは解消できないこともあります。より正確には、勘定科目の残高(合計額)を合わせるために、補助科目の金額を犠牲にしたり、部門的な内訳を犠牲にしたりせざるを得ないということです。

個々の内訳(補助科目)レベルで調整することが、勘定科目としての調整への近道ですが、一方で、勘定科目での調整のためには、個々の補助科目レベルにシワ寄せさせざるをえないこともあります。

端数調整の前に・・・

端数調整を行う前に、まずは仕訳ミスを確認します。

「そもそも金額ぜんぜん違うじゃん」ではお話になりません。

配分前の金額について、他の主体に帰する部分についての比率に間違いがないか、そして、他の主体に帰する部分として処理した金額が、当該他の主体でまったく同じ金額で処理されているかを確かめます。

勘定科目を間違えていたり、補助科目が間違えて入力していることがままあります。

この点、それぞれの主体ごとに、債権債務の勘定科目と損益の勘定科目について、それぞれを構成する補助科目の構成を統一することは違っているポイントをいち早く発見できます。

1円調整の基本的ルール

基本的には、調整しようとする取引(仕訳)について、他の主体に配分する金額を1円増やしたり1円減らしたりします。

仕訳をダイレクトに修正できれば理想ですが、修正仕訳によって行う場合には、あらかじめExcel等で入念な調整を行ってから伝票を入れるべきです。

この場合の修正仕訳は、オリジナルの仕訳の金額をすべてマイナスにしてから新たな金額を入力した伝票を作ることをオススメします。よくありがちな貸借の勘定科目を反対にした仕訳は会計ソフト上の制約でマイナス金額の入力ができない場合にすべきです。

当然のことですが、一方が1円増えるということは、他方が1円減るということになります。

つまり、差額が2円出ている場合には、そのうちひとつを調整すればゼロになるということになります。また、どちらかが1円大きい場合には、調整することで1円小さくなります。つまり、差額が反転することになります。

ここで絶対に守らなければならないのは次の2点です。

端数が出ているところを調整する

端数が生じている取引で調整し、そもそも端数が出ない取引で調整は行わないようにします。たとえば、比率1/2で配分前の取引金額の下1ケタの数値が偶数の場合には端数は生じません。

しかし、より上のレベルでの差額をなくすためには、端数が生じていない取引でも微調整せざるをえないこともあります。

ところが、さらに上のレベルでの差額をなくすために、端数の再調整を行うことがあります。このときは、原則に戻ってこの取引を元に戻すことを優先すべきです。

調整したら他の主体も調整する

ある主体で端数調整したら、必ず他の主体でも同じ処理を行います。

どこの仕訳で調整を行ったのかを確実にとらえていないと、それを見つけるのに時間とエネルギーを浪費することになります。

具体的な調整ルール

まず、端数による差額を個々のレベルで最小限(ゼロまたは1円)にし、その後に全体的なレベルでの差額をなくすように再調整していきます。

勘定科目レベルでは差が生じていなくても、その内訳の補助科目レベルで、さらに補助科目レベルでも月次レベルではものすごい差がプラスマイナスでたまたま補助科目全体の残高としては差額が小さいこともあるからです。

なお、日々の個別的な取引レベルでも差が出ることにはなりますが、他の共有者はグループ会社などに損益や債権債務を配分するのは通常は月次の合計額をベースにすることになるため、チェックは月次レベルまでにとどめるべきであり、これ以上深みにはまるのは費用対効果の点で合理的でありません。

ブレイクダウンによる調整(差額をゼロまたは1円にする調整)

  • 各主体ごとに残高試算表のデータを出します。
  • 比率で配分した理論値より2円以上の差を生じている勘定科目について調整を行い、どこかを1円大きくしたらどこかを1円小さくするように調整し、差をゼロまたは1円にします。
  • そのためには、勘定科目の内訳である補助科目ごとに差額がどう生じているのかを把握し、比率で配分した理論値より2円以上の差を生じている補助科目について差額の調整を行います。
  • 具体的には、当該補助科目について月次レベルの差額の発生状況を把握して、ある月を1円大きくしたら他の月を1円小さくするように調整し、差をゼロまたは1円にします。

ビルドアップによる再調整(最終損益をゼロまたは1円にする調整)

  • ある勘定科目が複数の補助科目から構成される場合で、2以上の補助科目で差が1円出ている場合には、ある補助科目で1円大きかったら、別の補助科目で1円小さくして再調整します。
  • ある損益区分(売上高、売上原価、販売費及び一般管理費、営業外収益、営業外費用など)で、その内訳である2以上の勘定科目で差額が1円以上出ている場合には、ある勘定科目で1円大きかったら、別の勘定科目で1円小さくして再調整します。
  • この結果、最終損益レベルで2円以上の差額が生じている場合には、優先順位によって、どこかの損益区分のさらにどこかの勘定科目のさらにどこかの補助科目について行った1円の調整を逆にします。つまり、どこかを1円大きくして別のところを1円小さくしたものを、逆に1円小さくして1円大きくするのです。これによって、大小が反転します。

調整の順序(税込金額から税抜金額へ)

さて、消費税の経理について税抜経理方式を採用している場合、損益の額は税抜金額となります。

いっぽう、ひとつの主体の中での部門(事業部)等と異なり、各共有者間やグループ会社間では独立した主体ごとの取引となるため、その取引は原則として消費税の課税対象となります。つまり、取引自体は税込金額となります。

このことは、端数は損益(税抜価格)の配分で生じるだけではなく、その取引に伴う債権債務(税込金額)の配分でも生じることを意味します。

しかも、債権債務(税込金額)の配分のレベルでは端数が生じなくても、損益(税抜価格)の配分のレベルでは端数が生じることがあります。

そこで、損益(税抜金額)を調整する前に、まず債権債務(税込金額)を調整することになります。

損益は税抜金額であるのだから、税込経理の調整など一見無意味に思われます。

しかし、外堀をまず固めておけば、あとは内部(本体価格と消費税額の間)の調整となるのです。

税込金額レベルでの調整

税抜経理方式でも、取引は税込金額で行われることから、債権債務の金額(残高)は税込金額となっています。

とはいえ、損益も税込としてデータ取りができるのであれば、調整しやすくなります。通常の会計ソフトは、税抜経理方式であっても表示金額を税込にしたり税抜にしたりできます。そこで、税込金額でデータをエクスポートしてチェックします。

この段階での1円調整の注意点

基本的には、調整しようとする仕訳について、他の主体に配分する債権債務(税込金額)の取引金額を1円増やしたり1円減らしたりします。

この段階で非常に重要なのは、税込金額を1円増やしたら、本体金額も1円増えているか確認することです。

会計ソフトへの仕訳入力における消費税については、内税入力、すなわち、税込金額を入力すると会計ソフトが本体価格相当額と消費税相当額を自動区分する方法が多いかと思います。

このとき、入力金額(税込金額)を1円増やしても(減らしても)、会計ソフトが自動計算する消費税相当額も確実に1円増える(減る)保証はありません。

この場合、自動計算される消費税相当額が変わらなければ、単にその取引から仮受消費税や仮払消費税の額が1円増えた(減った)だけになってしまいます。

税込金額につづく税抜金額の調整をより確実にするためにも、この段階では取引金額の増減がそのまま本体価格の増減になるようにすべきです。

確実に1円増えていることを確認しましょう。

税抜金額レベルでの調整

税込金額、すなわち、取引金額レベルでの調整を終えれば、あとは、本体価格と消費税額の間の調整ということになります。

この段階での1円調整の注意点

すでに取引金額自体は固めているので、調整は本体価格と消費税額の間の調整ということになります。

具体的には自動計算された消費税等の額を、手入力で1加える(本体価格である損益の額が減ります)、あるいは、1減らす(本体価格である損益の額が増えます)ことになります。

この場合、特定の取引については、「この取引の本体価格はこの金額にしたい」とあらかじめわかっている場合には、わざわざ税込金額を入力する内税入力ではなく、外税入力、すなわち、税抜金額を入力すると会計ソフトが消費税相当額を自動的に計算する方法で入力するという方法も有効です。

さて、税抜金額と税込金額でどちらも端数が生じている場合、たとえば、取引金額(税込金額)レベルでは1大きく配分したのに、損益(税抜金額)レベルでは1小さく配分するという「股裂き状態」になることがあります。

しかし、他の取引には端数が生じていなかったり、どうしても全体で数値を合わせていかなければならない(全体最適)のためには、むしろこれを積極的に利用して端数調整を行うことも少なくありません。

まとめ

今回提案させていただいた方法は、ひとつの主体での損益の部門間配賦や原価計算でも応用できるものです。

あるいは「誤差あるいは差額をどう発見するか」「誤差あるいは差額をどこにシワ寄せするか」ということにも応用できるものです。

共有者間やグループ会社間での取引は、それぞれが独立した主体であるので、損益(税抜金額)ばかりでなく債権債務(税込金額)での調整が必要となる点で、より難易度が増します。

大切なのは、「最優先すべき点は何か」をキチンと定めることと、「費用対効果」をおさえること、そして何より、前さばき、つまり、ミスなどがすぐに判明するような科目体系の整理や仕訳入力の工夫と考えられます。

やはり、事後的な調整が多いのは、それだけ時間とエネルギーを要するものだからです。

( おわり )