( 3 )具体的な仕訳例 Part2

共有不動産に係る不動産所得の会計処理について、主たる共有者で共有者全員の金額を計上しつつ、必要経費の発生と同時に他の共有者に対する債権(立替金)を、他の共有者では債務(未払金)を計上する方法をご説明いたします。

なお、借入金によって共有不動産を取得した場合の仕訳例は「第6回」をご覧ください。

また、預金口座は1人の共有者の単独名義であるものの、共有不動産の管理専用の口座であり実質共有口座として処理する(共有口座内の資金を共有として債権債務関係を発生させない)仕訳例は「第7回」をご覧ください。

なお、仕訳例は唯一絶対なものではなく、必ずこれによらなければならないものではありません。

設例

共有者(賃貸人)はAとBの2名、共有持分は50%ずつとします。

共有不動産に係る外部(賃借人や管理会社など)との取引は、すべてAの単独名義の口座で行うものとします。このAの口座はこの共有不動産に関連する専用口座ではなく、以外の入出金(給料振込やクレジットカードの口座振替など)にも利用されているものとします。

よって、共有者全員分の取引金額を計上する会計主体(主たる会計主体)はAとします。

なお、賃貸物件は居住用ではありません(事業用)。このため、賃貸料には消費税等が課されます(課税取引)。

モデル取引目次

( 2 )必要経費(一般)

共有不動産に係る必要経費についても、各共有者が共有割合に基づいてバラバラに支払うよりも、ある共有者が共有者全員分の額を支払うことが一般的と思われます。なぜなら、電力会社が共有者に共有持分ごとに請求することは考えにくいからです。

そこで、賃貸料収入と同じく、主たる共有者が共有者全員分の額を計上し、他の共有者に帰属する部分をマイナス処理することになります。

ただし、もっぱら主たる共有者のみが行う賃貸料の請求とちがって、逆に支払う側になると、必ずしも主たる共有者がすべて支払うわけではなく、ある支払いと別の支払いは異なる共有者が支払うこともよくあります。

これの例外となるのが、減価償却費と固定資産税です。減価償却費は、各共有者に配分された固定資産の額をベースに各共有者の固定資産台帳でそれぞれ金額を計算します。また、固定資産税については、年間分の必要経費となる金額をあらかじめ各共有者ごとに算定できることから、各共有者がそれぞれ未払額を計上することができます。

ここでは、減価償却費と固定資産税を除いた一般的なものについてコメントいたします。

必要経費の未払計上

(主たる共有者Aの処理)

(借) 必要経費 5,000 (貸) 未払金 5,500
仮払消費税等 500
(借) 立替金(B) 2,750 (貸) 必要経費 2,500
仮払消費税等 250

(他の共有者Bの処理)

(借) 必要経費 2,500 (貸) 未払金(A) 2,750
仮払消費税等 250

主たる共有者Aが、他の共有者Bが負担する分を含めて計上します。そして、収益の場合と同様に、費用発生と同じタイミングでBに対する債権(立替金)を認識します。

先ほども申し上げましたが、本来ならば、主たる共有者Aが他の共有者Bが負担する分も含めて支払いを行ったタイミングでBに対する債権が発生するのが理論的ですが、この会計の目的は「いかに正確に不動産所得を共有持分に従って分けるか」にあるため、Aが会計上の費用を認識したタイミングでBに対する債権(立替金)を認識し、BもAに対する債務(未払金)を認識します。

なお、ここでは、立替金a/cや預り金a/cを使っていますが、これらを使わなければならないということではありません。

主たる共有者が必要経費を常に支払うとは限りません。ある支払いについては他の共有者が支払うこともあります(下記参照)。

必要経費の支払い(主たる共有者が支払う場合)

(主たる共有者Aの処理)

(借) 未払金 5,500 (貸) 現預金 5,500

(他の共有者Bの処理)

仕訳なし

対外的な未払金5,500は、Aの支払いにより決済が終了します。Aには、Bに対する債権(立替金)2,750が残り、Bには、Aに対する債務(未払金)2,750が残ります。

必要経費の支払い(他の共有者が支払う場合)

対外的な取引については帳簿上は主たる共有者ですべて計上するものの、決済は他の共有者が行うことも少なくありません。なぜなら、帳簿上で主たる共有者を誰にするかについては、賃貸料収入が入金する者としたに過ぎないからです。

未払額の計上は、主たる共有者Aが行っています。Aでは、外部に対する未払金5,500とBに対する立替金2,750が計上され、Bでは、Aに対する未払金2,750が計上されています。

ところが、その支払いは他の共有者Bが行っています。対外的な関係では、Bの支払いによって終了しています。残りはAの分も支払ったBとAとの内部的な処理です。

(主たる共有者Aの処理)

(借) 未払金 5,500 (貸) 立替金(B) 2,750
未払金(B) 2,750

(他の共有者Bの処理)

(借) 仮払金 5,500 (貸) 現預金 5,500
(借) 未払金(A) 2,750 (貸) 仮払金 5,500
立替金(A) 2,750

Aで計上した対外的な未払金5,500はBによって支払われたため、対外的な未払金はそっくりBに対する未払金5,500となります。しかし、Bに対しては立替金2,750があるため、この分を相殺して結果的にBに対する未払金は2,750となります。

Bは5,500を支払っていますが、この根拠となる未払金はAで計上しているためいったん仮払金で処理します。そして、このうち、Aに対する未払金2,750を相殺し、残額はAに対する立替金2,750となります。

( 3 )必要経費(固定資産税)

必要経費のうち固定資産税は、他の必要経費とは異なり、年間の額が賦課決定されて通知されるため、各共有者の年間の額を把握することができます。このため、主たる共有者が共有者全員の分をいったん計上してから他の共有者への部分をマイナスする必要がなく、共有者ごとにそれぞれ未払金を計上することが可能です。

各共有者別の固定資産税の算定

固定資産税は、不動産所得を生み出す土地や家屋に係る分も、それ以外の居住用の土地や家屋に係る分もまとめて、しかも、通常は共有者別ではなく代表となる共有者あてに通知されます。

固定資産税課税明細書によれば、個々の土地や家屋ごとに固定資産税(と都市計画税)の明細が1円単位で表示されています。 もっとも、実際に納付するのは1円単位ではなく、100円未満を切り捨てた額です。

不動産所得を生み出す土地や家屋に係る固定資産税等(必要経費となるもの)と居住用等の土地や家屋に係る固定資産税等(必要経費とならないもの)を分ける必要があります。

不動産所得の対象となる土地や家屋に係る固定資産税等の金額(1円単位)と、それ以外の居住用の土地や家屋に係る固定資産税等の金額(1円単位)をそれぞれ集計し、その比率を計算します。そして、その比率を実際に納付する額に乗じることで、実際に納付する額のうち、不動産所得の必要経費になる部分(租税公課)と不動産所得の必要経費とならない部分(事業主貸)とに区分します。これを共有持分で割り振ります。

納付すべき固定資産税の総額が800、うち、不動産所得の必要経費となる部分が500、必要経費とならない部分が300だとします。これを共有持分で分けると、各共有者が納付すべき固定資産税の総額は400、うち不動産所得の必要経費となる部分が250、必要経費とならない部分が150となります。

各共有者がそれぞれ行う処理

なお、以下の仕訳は、年間の固定資産税の計上額を一気に計上する方法ですが、月次決算を適正に行う場合には、固定資産税の賦課決定の通知の前月までは前年と同額として月割計上を行い、賦課決定の通知の月以降は確定額を月次に配分するような仕訳となります。

(借) 租税公課 250 (貸) 未払金 400
事業主貸 150

この方法によって、当年の不動産所得の計算上必要経費となる固定資産税の負担額が確定し、あとは税金の納付をいずれの共有者が負担しても、それは不動産所得には影響せず、共有者間の債権債務の発生と精算となります。

(税額を納付した共有者の処理)

(借) 未払金 100 (貸) 現預金 200
立替金(AまたはB) 100

(他の共有者の処理)

(借) 未払金 100 (貸) 未払金(BまたはA) 100

市役所等に対する未払金が、他の共有者の納付によって他の共有者に対する未払金に振り替わります。

( 4 )敷金の処理

( 1 )敷金受入れ

賃借人から受け入れた敷金は6,000とします。

(主たる共有者Aの処理)

(借) 預金等 6,000 (貸) 敷金保証金 6,000
(借) 敷金保証金 3,000 (貸) 預り金(B) 3,000

(他の共有者Bの処理)

(借) 未収金(A) 3,000 (貸) 敷金保証金 3,000

主たる共有者Aが賃借人から受け入れた敷金は6,000なので、他の共有者Bに帰属する部分は3,000となります。AはBの分も受け取ったために預り金を認識します。

Bが受け取るべき敷金3,000はAが受け取っているため、Aに対する未収金を認識します。

( 2 )敷金返還

賃貸借終了によって敷金の返還が生じます。このとき原状回復費(清掃代など)がつきものです。通常の場合は、原状回復費は賃借人が負担するため、賃貸人は原状回復費を差し引いて(相殺して)敷金を返還します。

賃貸借終了に伴う原状回復費が1,500あり、全額賃借人の負担とするものとします(賃貸人がいったん立替払い)。共有者全員(AとB)が預かっている敷金は6,000なので、1,500を差し引いた4,500を賃借人に返金します。

2名合計の仕訳は次のとおりです。

(借) 仮払金 1,500 (貸) 預金等 1,500
(借) 敷金 6,000 (貸) 仮払金 1,500
未払金 4,500
(借) 未払金 4,500 (貸) 預金等 4,500

(主たる共有者Aの処理)

賃借人負担の原状回復費を主たる共有者Aが全額支払い、また、敷金の返還もAが行ったとします。

(借) 仮払金 1,500 (貸) 預金等 1,500
(借) 立替金(B) 750 (貸) 仮払金 750
(借) 敷金保証金 3,000 (貸) 未払金 2,250
仮払金 750
(借) 未払金 2,250 (貸) 預金等 4,500
立替金(B) 2,250

まず、Aが原状回復費1,500を支払った段階ではBが負担する分750を立て替えているため立替金を計上します。つぎに、敷金6,000のうちAに帰属する分3,000から原状回復費750を差し引いた2,250がAが賃借人に返還する額となります。

いっぽう、賃借人が返還を受ける額は、敷金6,000から原状回復費1,500を差し引いた4,500です。これをAが支払うと、Bが負担する分2,250を立て替えていることになります。

最終的に、Bに対する立替金は3,000(=750+2,250)となり、敷金6,000のBの負担分と一致することになります。

(他の共有者Bの処理)

(借) 仮払金 750 (貸) 未払金(A) 750
(借) 敷金保証金 3,000 (貸) 未払金 2,250
仮払金 750
(借) 未払金 2,250 (貸) 未払金(A) 2,250

まず、Aが原状回復費1,500を支払った段階で、Aが立て替えたBの分750に対してAに対する未払金を認識します。つぎに、原状回復費を差し引いて賃借人に返還する敷金のうちBが負担すべき2,250を認識します。そして、Aが立て替えた敷金の返還分についてAに対する未払金を認識します。

最終的に、Aに対する未払金は3,000(=750+2,250)となり、敷金6,000のBの負担分と一致することになります。

( 3 )敷金返還を要しなくなった場合

契約内容等により、敷金の一部または全部の返還を要しなくなった場合には、実際の返還のタイミングではなく、返還を要しなくなったタイミングで収益を計上します。

共有者全員として考えると次のとおりです。

(借) 敷金保証金 6,000 (貸) 未払金 4,000
その他の収入 2,000

AとBはそれぞれ次の処理をします。

(借) 敷金保証金 3,000 (貸) 未払金 2,000
その他の収入 1,000

そして、敷金の返還をAがした場合の処理は次のとおりです。

(主たる共有者Aの処理)

(借) 未払金 2,000 (貸) 預金等 4,000
立替金(B) 2,000

(他の共有者Bの処理)

(借) 未払金 2,000 (貸) 未払金(A) 2,000

( つづく )