( 2 )問題の所在

共有財産の共有者間やグループ会社間の取引では、それぞれが独立した主体である一方、対外的な取引はひとつとの間で行われることが少なくありません。

独立した主体同士となると、主体間の取引は消費税込みの税込金額での取引となります。つまり、損益の配分とともに債権債務の配分を行うことになります。

いっぽう、グループ会社間や共有者間では、損益(税抜価格)の配分に伴う端数調整のみならず、債権債務(税込金額)の配分での端数調整が求められるのです。

主体の違い

主体がひとつの場合

一定の金額を社内的な部門(事業部)に配分(配賦)する場合の端数処理もそれなりに困難が伴います。

とはいえ、一つの主体として対外的な取引を行い、その金額について一定比率を社内的に配分(配賦)するという作業は、もっぱら内部的な問題です。

たしかに、部門(事業部)ごとにそれぞれ対外的な取引を行い、そのうち一部の取引がその部門(事業部)以外の部門(事業部)に帰すべきものである場合には、部門間の調整を行うことになります。

しかし、主体としてはひとつであり、内部的なものであることは変わりません。

主体が異なる場合

ところが、社内的な部門(事業部)ではなく、主体が異なる子会社や親会社等との関係や、共有財産については、それぞれの共有者がひとつの主体である一方、対外的な取引は共有者のうちのひとつとの間で行われることが少なくありません。

これは、社内的な部門(事業部)ではなく、グループ会社間との関係でも同じです。

この場合は、社内的な部門(事業部)とは異なり、それぞれが独立した主体となります。

つまり、社内的な部門(事業部)であれば、主として損益の配分ということになりますが、独立した主体どうしとなると、損益の配分ばかりでなく、債権債務の関係が生じ、債権債務の配分も必要になります。

しかも、グループ会社間や共有者間など、それぞれが独立した主体である場合、相互の取引は本体価格ではなく消費税込みで取引を行うことになります。

つまり、社内的な部門(事業部)であれば主として損益の配分となり、その損益の配分は税抜金額(本体価格)ベースでの配分となり、その端数調整で足りるわけです。いっぽう、グループ会社間や共有者間といった独立した主体どうしでは、損益(税抜価格)の配分に伴う端数調整のみならず、債権債務(税込金額)の配分での端数調整が求められるのです。

問題の所在

問題は、取引金額と経理処理のふたつに分けることができます。

取引金額の問題

共有割合(配分割合)がシンプルな1/2ずつであったとしても、次のような問題が生じます。

  • 税抜金額(本体価格)では端数が出ないのに税込金額では端数が出る場合がある
  • 税抜金額(本体価格)では端数が出るのに税込金額では端数が出ない場合がある
  • 税抜金額(本体価格)でも税込金額でも端数が出る場合がある

まず、税抜金額(本体価格)では端数が出ないのに税込金額では端数が出る場合があります。

たとえば、税抜金額(本体価格)100の取引があったとします。100を比率(持分)1/2で除すると50ずつとなるため、主体間の損益に端数による差額は生じません。 また、100に消費税率8%を乗じた値は108、比率(持分)1/2で除すると54円ずつとなるため、主体間の債権債務にも端数は生じません。

ところが、税抜金額(本体価格)134円の取引があったとします。 まず、134を比率(持分)1/2で除すると67ずつとなるため、主体間の損益に端数による差額は生じません。 いっぽう、134に消費税率8%を乗じた値は144.7、円未満四捨五入で145、これを比率(持分)1/2で除すると72.5となるため、72円と73円に分けなければなりません。

以上から、税抜金額(本体価格、134)では端数が出ない(67ずつ)のに税込金額(144.7)では端数が出ます(72と73)。 よって、同じ取引から主体間の損益(差額なし)と債権債務(差額あり)にズレが生じることになります。

つぎに、税抜金額(本体価格)では端数が出るのに税込金額では端数が出ない場合があります。

たとえば、税抜金額(本体価格)135の取引があったとします。 まず、135を比率(持分)1/2で除する67.5となるため、67と68に分けなければなりません。 よって、税抜金額(本体価格)の段階で主体間の損益に端数による差額が生じます。

いっぽう、135に消費税率8%を乗じた値は145.8、単位未満四捨五入で146、これを比率(持分)1/2で除すると73ずつとなるため、主体間の債権債務に端数による差額は生じません。

以上から、税抜金額(本体価格、135)では端数が出る(67と68)のに税込金額(146)では端数が出ません(73ずつ)。 よって、同じ取引から主体間の損益(差額あり)と債権債務(差額なし)にズレが生じることになります。

さらに、税抜金額(本体価格)からも税込金額からも端数が生じる場合があります。

たとえば、税抜金額(本体価格)145の取引があったとします。 まず、145を比率(持分)1/2で除する72.5となるため、72と73に分けなければなりません。 よって、税抜金額(本体価格)の段階で主体間の損益に端数による差額が生じます。

いっぽう、145に消費税率8%を乗じた値は156.6、円未満四捨五入で157、これを比率(持分)1/2で除すると78.5となるため、78と79に分けなければなりません。 よって、税込金額、すなわち主体間の債権債務にも端数による差額が生じます。

以上から、主体間の損益(税抜金額)、債権債務(税込金額)のいずれにも差額が生じることになります。

経理処理の問題

会計ソフトへの仕訳入力における消費税については、内税入力、すなわち、税込金額を入力すると会計ソフトが本体価格相当額と消費税相当額を自動区分する方法にし、そして、自動計算される消費税等の額について、1円未満の端数処理について四捨五入として設定するのが多いのではないでしょうか。

とすると、日常発生する取引について端数による差額が生じる場合、そのまま仕訳入力を続けると、ある主体に大きい値または小さい値ばかりが集計されてしまいます

このため、会計ソフトへの入力について、端数による差額について、ある月はこちらの主体を大きくして、別の月は小さくするような入力にして、プラスマイナスを連続させる方法も有効です。この方法によれば、合計値レベルでの差額も小さい状態で最終的な端数調整(再調整)に臨むことができます。

ただし、途中でヘタな調整はせずに、とりあえず日常処理はなりゆきに任せて入力し、最後にまとめて調整を行った方が効率的なこともあるので、取引の数や端数の差を勘案しながらの見極めが大切と考えられます。

( つづく )