個人が税理士に頼まずに起業する(した)場合の留意事項(1)確定申告しないことによるデメリット

利益を出すためには、必要でない経費はなるべく避けなければなりません。そのため、税理士コストは避けたいというのは極めて合理的なものです。今はソフトも安価で専門的知識も容易に入手できます。

ただし、全体像を理解したうえでの知識ではないため、初歩的あるいは基本的(または致命的)な誤解や誤りに気付かないままでいることも少なくありません。

とくに「起業したけど赤字だから確定申告はしなくていいんじゃないか」という方がいらっしゃいます。

極めて痛い間違いです。赤字かどうか、それは税務署にはわかりません。赤字だったからこそ、「赤字だった」と申告するのです。他の所得と通算(相殺)できないだけでなく、届出の状況によっては損失を繰り越すことができません。

必ずしも税理士に頼む必要はありません。

起業した場合には、副業でもないかぎり生活(人生)がかかっています。もうけ(利益)を出していかなくてはなりません。

「どんな仕事をしたいか」「どんな店を出したいか」は自分の夢の実現ですが、「どうすればもうかるか」は別問題です。

利益を出すためには、必要でない経費はなるべく避けなければなりません。

そのため、税理士コストは避けたいというのは極めて合理的なものです。

かつて、パソコンも会計ソフトも高価だった時代は、会計業務は会計事務所に頼まざるをえない状況にありました。しかし、今はソフトもあふれ、専門的情報もあふれ、必ずしも税理士に頼まなければならないわけではありません。

一部で誤解があるのは、「税理士でなければ税務申告ができない」というものです。けっしてそんなことはありません。

ただし、全体像を理解したうえでの知識ではないため、初歩的あるいは基本的(または致命的)な誤解や誤りに気付かないままでいることも少なくありません。

よって、専門家に頼むとすれば、自ら専門知識を得るための時間や作業する時間を節約するため、そして、間違いによるムダな出費のリスクを減らすためといえます。税金でいえば正しい申告と納税を定められた期限までにしなかったことによるペナルティとしての過少申告加算税や延滞税などを避けるということです。

起業した場合に提出する書類

法人を設立するのではなく、個人事業主として開業した場合には、個人事業の開業届出書を、原則として住所地を管轄する税務署に提出しなければなりません。

提出時期は、事業を開始した日から1月以内です。

税理士等の専門家に頼らず自分でやろうという場合、この事業開始届出書の提出を失念したり、あるいは、この手続そのものについて知らない人が多数います。

もっとも、この事業開始届出書それ自体の提出が遅れた、失念したことで税金をより多く負担することになるなどのデメリットはありません。

ただし、税務署等に提出する書類には、定められた日までに提出しないと税金を節約できなくなったり、あるいはムダに税金を払ってしまう書類がたくさんあります。専門家のアドバイスを受けないとミスしがちです。

さて、個人が事業によって稼いだ所得は、確定申告で税務署に申告し、申告で算定された所得等の額を納付します。

先ほど申し上げたとおり、本来ならば、事業開始届出書は、事業を開始した日から1月以内に提出しなければならないことになっていますが、遅くともこの確定申告書の提出のときに一緒に提出すべきです。

なお、確定申告書では「住民税に関する事項」に事業開始について記載する欄があります。こちらに記載しましょう。

個人事業主の所得の計算期間

個人事業主として起業した場合、一定の期間で生じた所得について確定申告を行います。

2月16日から3月15日までに、前年分の所得について申告を行います。

この点、申告する期間について、いわゆる年度(4月1日から3月31日まで)や、起業日から起算して1年間と誤解されている方がいます。

所得税の確定申告は暦年(1月1日から12月31日まで)であり、事業を開始した年分は、事業の開始した日から12月31日までとなります。

思い違いなどにより、確定申告をすべきなのに確定申告をしていないことになります。もし、納付すべき税額があった場合には、納付すべき税額に加え、無申告加算税や納期限(通常は3月15日)から納付日までの期間に係る延滞税がかかることがあります。

ちなみに、会社(法人)を設立して事業を行う場合、決算日は自由に定めることができるため、その決算日までが年度(事業年度)となります。ただし、原則として設立第1期目は設立日から決算日までとなります。

赤字だから確定申告をしなくてよいか

起業するためには、初期投資がかかることが一般的です。また、売上が計上される前に先行して費用がかかるものです。

たしかに、初期投資の金額がすべてその年分の必要経費になるわけではありません。事務所を借りる際の敷金や保証金はそもそも(収入金額から差し引かれる)必要経費にはなりませんし、設備などを取得した場合も全額が必要経費にならないことが原則です(減価償却費として一定の期間(法定耐用年数)にわたって必要経費となります)。また、材料を仕入れてモノを作田としても、モノが売れるまでは必要経費とはならず、材料やモノは在庫(棚卸資産)として処理されます。

とはいえ、起業した年分の所得はマイナスすなわち赤字になっていることが少なくありません。

先ほどの、確定申告の期間の誤解もありますが、それ以上に深刻なものは、「去年は赤字だから確定申告をしない」というものです。

これは、本当にイタい思い違いです。

赤字かどうか、申告しなければ税務署にはわかりません。

赤字だったからこそ、「赤字だった」と申告するのです。

確定申告は、もうかった場合だけにするわけではありません。

赤字で確定申告しなかったことによるデメリット

所得税は、所得をいくつかの種類(事業所得、不動産所得、給与所得、雑所得(年金がこれに該当)など)に分け、所得ごとに所得の金額を計算し、これらを合計したところで所得税を計算します(総合課税)。ただし、土地や株式等の譲渡による所得などは他の所得とは合計せずに所得税を計算します(分離課税)。

事業による所得は他の所得と合計されることになります。

このことは何を意味しているのでしょうか。

総合課税ということは、事業所得が赤字(マイナスの所得)のとき、他の所得(プラスの所得)と合計される、つまり、相殺されて課税される所得金額、そして所得税の額が減ることになります。

このため、事業所得が赤字だからと確定申告しないということは、大変なミスということになります。

百歩譲って、事業所得が赤字だった場合、申告期限(3月15日)よりも遅く確定申告書を提出したり、あるいは、申告期限までに提出した確定申告書で申告した所得金額と所得税の額が過大だったとして「更正の請求書」を提出すれば、リカバリーは可能です。

ただし、先ほど申し上げた通り、税務署等に提出する書類には、定められた日までに提出しないと税金を節約できなくなったり、あるいはムダに税金を払ってしまう書類がたくさんあります。

たとえば、事業所得が赤字で、他の所得と合計してもなお所得金額の合計額が赤字(マイナス)であった場合、開業から2ヶ月以内に「青色申告の承認申請書」を提出していないと、その赤字を翌年以降に繰り越すことができません。

そこで、このような場合、ダメージをいかに少なくするかが重要となります。

(つづく)