( 3 )固定資産データベースの運用

固定資産管理ソフト(減価償却ソフト)は償却費を計算させるツールとして考え、データベースでデータを管理し、これを固定資産管理ソフト(減価償却ソフト)に読み込ませることで償却費を計算させます。

この方法によれば、期中に生じた会計と税務が分離するような事態でも、データベースを変更することで対応できますし、四半期の償却費をより精緻に算定することができます。

基本的な流れ

固定資産管理ソフト(減価償却ソフト)の中だけでいろいろやろうとすると、入力が複雑になったりして、ついソフトの使い勝手やポテンシャルのせいにしたりしがちです。

そこで、発想を変えて、ソフトは償却費を計算させるツールとしてとらえ、データベース上で資産を管理して、それをソフトに読み込ませて償却費を計算させ、それをまたデータとして切り出して利用する方法も有効と考えられます。

そうすることで、期中に会計と税務が乖離するような処理(減損や資産除却債務)が行われても、データベース自体を変更してソフトに読み込ませればよいのです。

また、ソフトでの計算結果をデータとして落とすことで、データを加工してさまざまな目的に利用でき、もし処理を誤った場合でも復旧ができるのです。

期中処理

期中のデータベースの運用は、基本的には会計データベースを軸に行うことになります。会計データベースで算定された減価償却費が月次の減価償却費等の計上の基礎となるためです。

そこで、減価償却について法人税法の規定にとらわれない方針を採っている場合には、取得した資産について、取得時期(償却開始時期)、償却方法、残存価額、耐用年数を設定します。

しかし、固定資産の取得等を行った場合には、税務のための基礎情報も把握しておく必要があります。会計と税務で異なる減価償却をしている場合でも、法人税の申告での償却限度額の算定は、法人税法の規定どおりに行わなければならないからです。そこで、法定耐用年数を押さえておくことになります。

とくに、税務上は減価償却資産としなければならないものを会計上は費用処理した場合には、注意深くチェックしなければなりません。

また、イレギュラーではありますが、諸事情の関係で会計上と税務上で取得価額の範囲や償却開始時期でズレが生じてしまう、生じざるをえないこともあります。

会計上の減価償却費を固定資産管理ソフト(減価償却ソフト)で自動計算すべきか

会計データベースは、すでに申し上げたとおり、会計上の減価償却費を、税務上の償却限度額と完全に一致するように計上する場合には、そもそも必要ありません。税務データベースですべて管理できるからです。

よって、会計データベースは、会計上の減価償却費が、税務上の償却限度額と異なる場合に作ります。以下のいずれか、あるいは、複数が当てはまる場合です。

  • 会計上の減価償却費は法人税法の償却方法で算定するが、法定耐用年数とは異なる耐用年数を用いる場合
  • 会計上の減価償却費は法人税法の償却方法で算定するが、会計上と法人税申告で償却方法が異なる場合(会計は定額法で法人税法では定率法など)
  • 会計上の減価償却費は法人税法の償却方法にはよらず、残存価額、耐用年数などすべて独自の数値を用いる場合

なお、これらとはまったく別の問題として、会計上は費用処理して固定資産となっていないが税務上は固定資産として管理しなければならないときは、税務データベースで固定資産として管理することになります。このような場合、税務データベースのみで会計データも管理しようとすると、会計上は固定資産となっていないため、帳簿上の残高と異なってしまいます。これを避けるためには、会計データベースは別途必要だということになります。

固定資産管理ソフト(減価償却ソフト)の自動計算を利用する場合

上記の 1. または 2. 、すなわち、償却方法は法人税法の規定による場合には、固定資産管理ソフト(減価償却ソフト)で減価償却費を自動計算させます。

まず、データベースの期首の取得価額(の合計額)、期首の減価償却累計額(の合計額)が会計帳簿の各資産勘定の残高と完全に一致していることを確認します。

そして、データベースの情報を、固定資産管理ソフト(減価償却ソフト)に読み込ませるためのデータを作ります。法人税申告とは異なる償却方法を入力したり、法定耐用年数と異なる耐用年数を入力します。

これによって、減価償却費はソフトで自動計算されます。

ところで、ソフトの性質上、各資産の減価償却費は、選択された法人税法の規定による償却方法で選択された耐用年数で「償却限度額に相当する額」が自動計算され、これに一致する額が「当期償却額」になります。このため、この計算結果での「償却限度額」は、法人税が規定する償却方法であっても法人税の申告で適用する方法ではなく、または、法定耐用年数で算定しているわけではありません。よって、まったく意味のない数値です。

固定資産管理ソフト(減価償却ソフト)の自動計算を利用しない場合

ところで、前回述べましたが、固定資産管理ソフト(減価償却ソフト)は、基本的に法人税法の規定による償却限度額の計算方法に準拠しています。会社独自のルールで減価償却を行う場合には、あえてソフトで計算させないほうがよいと思われます(とくに定率法の場合)。

この場合は、あえてソフトにわざわざデータを読み込ませる必要もないと思われます。

減損や資産除去債務などの場合

さて、減価償却について、法人税法の規定による計算結果を会計にそのまま利用している場合であっても、会計と税務で乖離が生じざるをえないものがあります。

会計上は費用計上しているが、税務上は固定資産(より正確には減価償却資産)として処理しなければならないものや、減損損失を計上したり、資産除去債務相当額を取得価額に加える場合です。

とくに、既存の、すなわち、期首に存在した固定資産について、期中にこのような変化が生じたときは、固定資産管理ソフト(減価償却ソフト)の運用上の問題が発生することもあります。すなわち、固定資産管理ソフト(減価償却ソフト)で前事業年度のデータを繰越処理したものをそのままソフトのなかで処理しようとすると、入力上や計算上の問題などが起こることがあります。

固定資産管理ソフト(減価償却ソフト)の中だけでいろいろやろうとすると、入力が複雑になったりして、ついソフトの使い勝手やポテンシャルのせいにしたりしがちです。

そこで、発想を転換します。

繰越処理をしても、ソフト上のデータはいったんすべて削除して、それぞれのデータベースを読み込ませることによって償却費を計算させるのです。

ソフトを単なる計算上のツールと考えれば、減損の場合には減損損失として対応する簿価に相当する取得価額と減価償却累計額を期首の時点から2つの資産として管理すれば、減損部分も適切に処理することができ、減損されない部分の償却費も適切に算定することができます。

資産除去債務の場合にも取得価額を構成する資産除去債務相当額は通常の取得価額の部分とは分けて2つの資産として管理することで、資産除去債務の見積りの変更という事情にも対応できるのです。

また、これらの処理は、法人税の申告における償却超過額の管理にも極めて有効ですし、ブーメラン的に、それを基礎にした会計上の税効果額の処理にも有効となるのです。

(余談)定率法の償却

定率法の償却では、減価償却費は期間の経過につれて逓減していくことになります。

ということは、理論的には、各事業年度単位ではなく、 1 事業年度として考えても同じと考えられます。つまり、期首付近よりも期末付近のほうが償却費は小さくなるということです。

よって、少なくとも定率法の償却額について、理論的な数値を追求すると年間償却額の何ヶ月分という形で計上するのは妥当なのかどうかという考え方も出てくると思われます。

法人税法上の償却限度額の計算でも、事業年度が 1 年未満の場合には、年間の償却額を月割りするような計算ではなく、事業年度の短さを反映した償却率を調整する方法を採っています。

このため、たとえば四半期ベースでの減価償却費を算定する場合にも、まずは事業年度が 3 ヶ月というバーチャルなテーブルをソフト上で作り、これにデータベースを読み込ませることで償却費を計算させれば、会計上の償却費も、そして税務上の償却限度額もより妥当な算定結果となり、税効果の額もより精度が上がると思われます。

( つづく )