( 1 )固定資産台帳の考え方

固定資産について、会計と税務(法人税法や償却資産税など)とで異なる処理となった場合には、目的ごとの固定資産データベースを作成すればよく、ひとつの台帳に固執する必要はまったくありません。

減価償却については、表計算ソフトによらず減価償却ソフトを用いるべきです。しかし、なんでもかんでも減価償却ソフトにこだわり、ムダなカスタマイズなどをするのではなく、あくまで償却費を計算させたり申告書を作成するツールとしてうまく使いこなすべきです。

税務が支配する数少ない会計領域

会計ビッグバンなる用語が死語化して久しいですが、今なお税務上の処理が会計実務に影響しているものが減価償却を中心とした固定資産会計です。

つまり、法人税法の規定による固定資産や減価償却の取扱いを、可能な限り会計上もそのまま適用しているのです。

会計における固定資産の意義が、その資産の効果が取得時のみならず将来(耐用年数)にわたって及ぶというのであれば、たとえ 100 円のものであったとしても固定資産にすべきなのが理論的です。しかし、現実にそれを徹底すると償却資産税の申告でも不利であることから、会計理論を徹底しているところはほぼ間違いなく少数派と思われます。

税法ベッタリでも会計とのズレが生じるとき

端的な話、会社等が作成する貸借対照表の固定資産の部の明細が固定資産台帳です。

そして、固定資産関係の勘定科目の残高と、固定資産台帳の各資産の金額がピタリ一致します。

当然といえば当然ですが、これが一般的な固定資産台帳のあり方です。

「取得価額も耐用年数も償却方法もすべて税法の基準どおりにやっている」場合でも、会計と税務で異なる場合があります。

たとえば、「中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例」により、取得価額30万円未満のものを取得時の事業年度で全額費用(損金)としていた場合、そもそも固定資産として処理していませんから、貸借対照表の固定資産の部に計上されるはずもありません。

しかし、償却資産の申告では、このような「資産」も償却資産税の申告の対象となります。よって、少なくとも償却資産の申告のために、「資産」として押さえておかなければならないのです。

また、会計上は建設仮勘定として計上され、本勘定(機械、器具備品など)に振り替えられていないものであっても、事業の用に供することができる資産については、償却資産の申告の対象となります。

これだけでも、会計上の固定資産台帳と償却資産税申告用の固定資産台帳は分けなければならないことになります。

複数のデータベースの必然性

中小事業者がごく普通に行うであろう処理についてすらこのような状況があるわけですから、まして、会計基準により忠実な処理をしようとすればどんどん会計と税務は異なることになります。

まして、会計上は正当な理由で費用処理していても(研究開発費など)、法人税法上は資産計上が要求されるものについては、法人税の申告のための固定資産台帳には「資産」登録されていなければなりません。

逆に、会計上は正当な理由で資産計上しても(資産除去債務に係る部分)、法人税法上はこの部分の償却費は損金として認められないことから、やはり別途で「資産」登録されていなければなりません。

耐用年数の違いや償却方法の違いでならばともかく、上記のように資産のありなしということになると、そもそも一つのデータベースですべて管理することが無理があるかもしれません。

また、会計上の減価償却方法が耐用年数や償却方法が法人税法と異なる場合には、会計上で計上される減価償却費と税務上での減価償却費(より正確には各事業年度の個々の資産の償却限度額)とは常に異なることになります。このため、税務上の償却限度額との差額を各事業年度に係る法人税の申告で反映させなければなりません。

だとすると、次の固定資産データベースが必要だと思われます。

  • 会計データベース
  • 税務データベース
  • 法人税申告用データベース
  • 償却資産税申告用データベース

会計データベースとは、会計上で計上される固定資産とその償却費を正しく算定するためのものです。ここでの償却額が会計上反映されることになりますし、資産の増加や減少も会計上と同一となります。まさに、一般的な固定資産台帳がこれに該当します。会計データベースで特に重要なのは、各資産について部門やセグメントごとに管理できているかということです。

税務データベースとは、法人税法上の固定資産(減価償却資産)について法定耐用年数と法定の償却方法によって各年の償却限度額を算定するためのものです。多くの場合、法人税法上の処理と会計帳簿上の処理が一致しているので、会計データベースと同一となります。しかし、計上する資産が会計と異なったり、耐用年数や償却方法が会計と異なったり、減少(除却や減損)で法人税法上は認められないものがある場合には、まったく異なる償却費(そして期末簿価)となります。 税務データベースで特に重要なのは、税務上の帳簿価額です。とくに、会計と税務で減価償却が異なる場合には、会計上の帳簿価額と税務上の帳簿価額が異なります。これが正確であるかということです。また、会計上は費用処理したものであっても、税務上は固定資産として処理しなければならないものを押さえていることです。

法人税申告用データベースとは、会計上の減価償却費と税務上の償却限度額の差額を把握するためのものです。具体的には、法人税法上のデータベースに、会計データベースで算定された償却費をドッキングさせたものです。これによって、法人税申告で必要な償却超過額や過去の超過額の認容というデータを把握できます。法人税申告用データベースで重要なのは、期首および期末おける会計上の帳簿価額と税務上の帳簿価額との差(償却超過額や償却不足額)が正確に算定されることです。

償却資産税申告用データベースは、償却資産税申告上の固定資産(償却資産)について各年の償却資産税の申告を行うためのものです。償却資産税申告用データベースで重要なのは、資産の場所別管理と、期中での資産の移動の情報です。

( つづく )