圧縮記帳の差益割合の端数処理はどう行うべきか

「圧縮記帳 差益割合  端数処理」「圧縮記帳 差益割合  小数点」などで検索しても、私のショボい検索能力のためでしょうか、規定の「てにおは」替えや、まるで簿記の試験のように差益割合がピッタリした数字になっているものばかりに思えます。

そこで、端数処理はどうすべきか、それより、そもそも計算はどうすべきかについて検討を行いました。

圧縮記帳の差益割合の端数処理

圧縮記帳の差益割合は、「割合」だけに割り算をすることになります。

さて、割り算といえば、割り切れなかったことによる端数の発生が避けられません。

丸まった数字である「設例」関係とは異なり、実務上は差益割合がピッタリ割り切れるほうがまれと考えられます。

では、差益割合の端数処理はどうすればよいでしょうか。

結論からすると、端数処理は行いません。つまり、「先に差益割合を算出して端数調整を行い、(端数処理後の)差益割合を乗じて限度額計算する」のではなく、「先に乗じてから除する」計算によってそもそも端数が発生しないようにして限度額を計算すべきです。

問題の所在

条文

税法では、通常は端数処理について明文で規定されています。

しかし、私の能力不足の問題で、法人税法や租税特別措置法の圧縮記帳の規定では、圧縮記帳の差益割合の計算で発生する端数の処理についての規定が見当たりません。

申し訳ございません、規定があるようでしたらご連絡いただけますと助かります。

国税庁による法人税申告書別表の記載の仕方

いっぽう、国税庁サイトによる、法人税申告書別表十三(四)(収用換地等に伴い取得した資産の圧縮額等の損金算入に関する明細書)の「記載の仕方」によれば・・・

「差益割合19」は、誤差のない程度に算出して記載する必要がありますが、一定の位で切り捨てることは差し支えありません

・・・との記述があります。

「一定の位って何???」という気がしないでもありません。おそらく「欄に書ききれる」ということだとは思いますが・・・

裁決や判例

圧縮記帳に関する裁決(平成21年12月17日)は差益割合は小数点以下8位まで表示してあり、判決(東京地判平成24年5月10日)では差益割合は小数点以下10位まで表示してあります。

首尾一貫していません。このことからも、「小数点以下○位未満を切り捨てる(切り上げる)」などの明確なルールがないものと思われます。

実務書の設例

実務書の定番ともいえる『圧縮記帳の法人税務 第11訂版』(成松洋一著、大蔵財務協会2014年8月)」(以下「法人税務」と言います。)の「換地処分等に伴い資産を取得した場合の圧縮記帳」の設例(P415)は、割りきれない差益割合が示されています。

  • 譲渡した土地の価額(時価)・・・8,000万円
  • 譲渡した土地の帳簿価額・・・4,000万円
  • 交換取得した土地の価額(時価)・・・5,000万円
  • 取得した補償金の額・・・3,000万円
  • 支出した譲渡経費の額・・・200万円

差益割合の計算

補償金の額

30,000,000円

補償金等の額に係る譲渡経費の額

2,000,000円 ×( 30,000,000円 /(30,000,000円+ 50,000,000円))= 750,000円

差引補償金の額

30,000,000円 − 750,000円= 29,250,000円

補償金の額に対応する帳簿価額

40,000,000円 ×( 30,000,000円 /(30,000,000円+ 50,000,000円))= 15,000,000円

差益割合

29,250,000円− 15,000,000円= 14,250,000円

14,250,000円 / 29,250,000円 ≒ 0.487179487179・・・

差益割合の端数調整

「法人税務」の設例では、この差益割合に基づいて圧縮特別勘定への繰入額の計算を行っていますが、割りきれない差益割合(0.487179487179・・・)を0.4871794として繰入限度額を計算しています。

29,250,000× 0.4871794= 14,249,997円

差益割合について、「小数点以下7位未満を切り捨てた」といえます。

「別表十三(四)の記載の仕方」の「一定の位で切り捨てることは差し支えありません」を意識しているものと思われます。

端数調整による限度額計算

では、端数処理の違いによって限度額がどう変化するのか確認しましょう。

小数点以下2位未満を切り捨て・・・0.48

29,250,000円× 0.48= 14,040,000円

小数点以下3位未満を切り捨て・・・0.487

29,250,000円× 0.487= 14,244,750円

小数点以下4位未満を切り捨て・・・0.4871

29,250,000円× 0.4871= 14,247,675円

小数点以下5位未満を切り捨て・・・0.48717

29,250,000円× 0.48717= 14,249,722円(小数点以下切り捨て)

小数点以下6位未満を切り捨て・・・0.487179

29,250,000円× 0.487179= 14,249,985円(小数点以下切り捨て)

小数点以下7位未満を切り捨て(設例)・・・0.4871794

14,249,997円(小数点以下切り捨て)

小数点以下8位未満を切り捨て・・・0.48717948

29,250,000円× 0.48717948= 14,249,999円(小数点以下切り捨て)

これによると、端数調整の位をどんどん多くすればするほど、圧縮限度額がどんどん大きくなります。

「割合を乗じる」か「乗じてから除する」か

「AにBのCに対する割合を乗じる」というと、A×(B/C)となります。

この日本語の表記に従うと、まずは割合(B/C)の計算が先行して、これにAを乗じるという計算になります。

しかし、電卓上またはExcel上では、先にA×Bを計算して、この値をCで除するべきです。

なぜなら、先に乗じてから除するほうが割り切れることがあるからです

ここで、端数調整をするとどうなるのか、設例で確認してみましょう。

圧縮特別勘定繰入限度額= 29,250,000円×(14,250,000円 / 29,250,000円)

先に掛け算から行います。

29,250,000円× 14,250,000円= 416,812,500,000,000円

続いて割り算を行います。

416,812,500,000,000円 / 29,250,000円= 14,250,000円

なんとドンピシャでキレイな数字となります。

当然のことながら、端数調整はまったくしておりません。

まとめ

「法人税の課税標準なんて千円単位(千円未満切り捨て)なんだから、そんなことにグダグダこだわるなんてバカじゃないの」という批判が聞こえてきます。

しかし、端数処理についての規定があいまいだと、たとえば小数点以下2位未満で切り捨ててしまうと限度額が小さくなってしまいます(上記の例でも21万円小さくなります)。「千円単位」にも影響を及ぼします。

いっぽう、納税者サイドで、端数処理を切り捨てでなく四捨五入や切り上げをしてしまうと限度額が大きくなってしまいます。この場合、申告漏れを指摘されるリスクが生じます。

「記載の仕方」はあくまで「記載」のお話で、計算とは別物と考えるべきと思われます。

よって、特段の端数調整に対するルールがないのであれば、いたずらに差益割合に端数調整をするのではなく「乗じてから除する」方式で、そもそも結果で端数が生じないようにする工夫が必要かなと思われます。

( おわり )