なぜ経理部は交際費にうるさいのか

経理部から交際費についてうるさく言われることは多いと思います。

うるさく言うように指示した方も、うるさく言うように指示を受けた方も、うるさく聞く方も、どうしてうるさいのかについて知れば、それぞれのお立場がわかると思われます。

経理部がうるさい理由のあらまし

つまるところ、経理部が交際費にうるさい理由はふたつあります。

そもそも業務上のものなのか

会社の業務とまったく関係なく、学生時代の友達や気になっている女性と食事したり、贈答といいながら実は自分のために買ったなど、上司や経理部を欺いて会社からおカネを出させるような行為が社内的に横行してしまうと規律が乱れてしまいます。とくに経営陣が行うと会社の私物化につながりかねません。

刑事上の問題もさることながら、会社と関係ない支出だったと事後的に判明したら、本人が支払うべきおカネを会社が立て替えたわけですから本人に返還請求しなければなりません。 ところが、返還請求しないと、本人が負担すべき支出を会社が支払った、つまり、経済的利益を与えたということで、給料を支払ったことになります。本人の所得税や住民税が少なかったねというだけになりそうですが、会社は給料を支払うときには所得税等を源泉徴収して納付しなければならないため、会社は源泉徴収もれのペナルティが課されるのです。

税務調査で交際費が狙われる問題

そもそも税務調査は何を調査するのでしょうか。 国税当局は「会社がこれだけもうかりましたからこれだけ税金(法人税)を支払います」という申告の内容が正しかったどうかを事後的に調査します。 「これだけもうかりました」の内容は、「これだけ売上があってそこから経費を引いてこれだけもうかりました」というものです。

よって、税務調査の中心は「売上が少なくないか」「経費が多くないか」です。この経費のひとつが交際費ですが、ここでポイントなのが、交際費、とくに、1人あたり5,000円を超えた飲食費は、1/2が経費として認められません。逆に言えば、1人あたり5,000円以下ならば全額が経費として認められます。

このため、税務調査で、1人あたり5,000円を超えるのに5,000円以下の飲食費として申告していたことが判明すると、「それだけ税金少なく申告したから追徴課税します」となります。しかも、正しい申告をして期限までに税金を納めなければならなかったわけですから、不足していた税金のほかにペナルティが付きます(過少申告加算税や延滞税)。

さて、この1人あたり5,000円以下として申告した原因が問題となります。まったくの経理処理上や申告上のケアレスミスならばともかく、1人あたり5,000円以下になるように人数を水増ししたり領収証を分けたりしたものだとすると、仮装隠ぺいとしてさらにキビしいペナルティ(重加算税)が付きます。

しかし、企業の規模が大きければ大きいほど、飲食の詳細な内容を経理部がチェックすることは不可能です。このため、実際に接待を行う部署にルールを周知徹底させるためにワーワーうるさいのです。

経理での交際費

「落とす」の意味

ご存じのとおり、経理用語で「落とす」というのは、モノを落とすことでも、気を失わせることでも、まして色恋沙汰でもありません。

費用で処理する、より狭義には、「税務上の損金にできる」という意味です。

交際費と決算と税金の関係

損益計算書は、収益から費用を差し引いて当期純利益が計算されます。もちろん交際費は費用のひとつです。利益が出すぎてこのままなら税金払っちゃうのなら、交際費でバンバン使えばそれだけ費用が多くなりますから、当期純利益も減って法人税も減ることになりそうです。

しかし、必ずしもそうなりません。

法人税は、会社のもうけに対して課される税金ですが、必ずしも法人の会計的な純利益に対して課されるわけではありません。

各法人の会計処理はそれぞれ異なります。監査法人に指摘されていろんな費用や損失を計上しなければならなかったり、銀行との関係でいろいろなことをしなければならないことがあります。

このような各法人によって異なる会計処理の結果としての利益にそのまま法人税を課したのでは、課税の公平性を害する可能性があります。

会計上は収益から費用を差し引いて(税引前)当期純利益を計算しますが、法人税は基本的に益金から損金を差し引いて所得金額を計算します。収益と益金、費用と損金はほぼ一致しますが、一致しないものもあります。

そこで、法人税の申告は、法人の会計上の当期純利益から出発して、法人税法上の規定によってこれを加減算して当期純利益を所得金額に変換し、所得金額に法人税率を乗じます。

この、法人税法上の規定によって加減算するもののひとつに、「交際費等の損金不算入」というものがあります。 「交際費等の損金不算入」とは、経理上は費用であっても、税務上の損金とはならない(不算入)ということです。ですから、法人税の申告では、交際費等のうち損金とならない金額を会計上の当期純利益に加算することになります。つまり、損金不算入となるということは、その分は交際費がなかったものとして税金を計算するという意味です。

理論面のインパクト

収益10,000、費用6,000、税引前当期純利益4,000とします。収益=益金、費用=損金で実効税率が33%だとすると法人税等は1,320となります。よって(税引後)当期純利益は2,680となります。

収益10,000、交際費6,000、税引前当期純利益4,000とします。収益=益金ですが、交際費は損金不算入となると、税引前利益は10,000として法人税等は3,300となります。よって(税引後)当期純利益は700となります。

資金面のインパクト

手元にある10,000で事業用の消耗品を買うと、費用(消耗品費)が10,000増えて当期純利益が10,000減り、実効税率が33%だとすると3,300の税金を納付しなくて済みます。結局、6,700で購入したことになります。

手元にある10,000で贈答品を買うと、費用(交際費)が10,000増えて当期純利益が10,000減りますが、法人税の計算では交際費は損金とならないため、結局10,000の支出となります。

法人税法上の交際費等

「法人税法上の交際費等」とは、交際費、接待費、機密費その他の費用で、法人が、その得意先、仕入先その他事業に関係のある者等に対する接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為のために支出する費用をいいます。

経理上の勘定科目で「交際費」にしなければ済むというものではありません。会議費にしようが雑費にしようが関係ありません。 「法人税法上の交際費等」に該当すれば法人税の申告で調整しなければならないのです。 それどころか、接待の際の得意先の送迎のタクシー代を旅費交通費にしていると、法人税の申告の際に法人税法上の交際費等の金額からもれてしまう可能性もあります。

逆に、経理上「交際費」にしていても、法人税法上の交際費等には該当しないものもあります(後述)。

法人税法上の交際費等の取扱い

期末の資本金が1億円超の大法人

期末の資本金が1億円超の大法人は、法人税法上の交際費等のうち、得意先等に対する飲食その他これに類する行為のために要する費用(接待飲食費)については50%が損金として認められます。

得意先に対する接待飲食費以外の法人税法上の交際費等は、全額が損金となりません(損金不算入)。

期末の資本金が1億円以下の中小法人(資本金5億円以上の親会社の100%子会社である法人は除きます。)

期末の資本金が1億円以下の中小法人(資本金5億円以上の親会社の100%子会社である法人は除きます。)は、「得意先等に対する接待飲食費の50%相当額の損金算入」と「800万円(事業年度が1年未満の場合には月割りの額)の定額控除額までの損金算入」とのいずれか有利なほうを選択します。

得意先等に対する接待飲食費が1,600万円を超える場合には、その50%は800万円を超えるため、定額控除額800万円よりも有利なため「得意先等に対する接待飲食費の50%相当額の損金算入」を選択します。

得意先等に対する接待飲食費が1,600万円以下の場合には、その50%は800万円以下であることから、定額控除額800のほうが有利なため「定額控除額800万円までの損金算入」を選択します。

法人税法上の交際費等とならない接待飲食費

得意先等に対する接待飲食費のうち1人あたり5,000円以下のもので、一定の書類の記載・保存要件を満たしていれば、法人税法上の交際費等に該当しません。つまり、会計上は交際費としていても、法人税法上の交際費等とはなりません。

法人税法上の交際費等に該当しないということは、全額が損金となります。

得意先等に対する接待飲食費

法人税法上の交際費等でも、その半額が損金となり(半額だけが損金不算入)、さらに1人あたり5,000円以下ならばそもそも法人税等の交際費等とはならない「得意先等に対する接待飲食費」とはどのようなものでしょうか。

細かい点は、国税庁のパンフレットに詳しいのでここでは割愛しますが、概要は次の点です。

得意先等への接待飲食費に該当せず、通常の交際費等(全額損金不算入)となるもの

  • もっぱらその法人の役員若しくは従業員またはこれらの親族に対するもの
  • 得意先等を形式的に参加させたと認められるものや結果として参加していないもの
  • 飲食したのではなく、食事券を贈答したり他社等の飲食代を負担したもの
  • 接待飲食のあとのタクシー代など
  • ゴルフや観劇や旅行等での飲食代や、あまり飲食をしていない場合のカラオケボックス料金

法人税法上の交際費等とはならない1人あたり5,000円以下の得意先等への接待飲食費に該当しないもの

  • 消費税の経理を税込経理方式で行っている場合の1人あたり税抜5,000円(税込経理では5,400円となるため)
  • 1人5,500円のコースで会社負担が1人5,000円の場合や1人9,000円のコースを2社折半で1人4,500円で負担した場合

損金算入されるための帳簿の記載・保存要件

以下のすべての事項を記載した書類の保存が必要です。記載もれや記載ミスは損金不算入となります。

  • 飲食等の年月日
  • 参加した得意先名、得意先参加者の氏名、地位(関係)
  • 参加者数(1人あたり5,000円以下の接待飲食費としない場合は要しない)
  • 接待飲食費の額、飲食店名、住所
  • その他接待飲食費であることを明らかにする事項

交際費のトラブルが痛い理由

通常の税務上のトラブル

税務調査で、今期ではなく前期の売上とすべきと指摘された場合、前期の法人所得が少なかったことになり前期の法人税を修正申告して法人税を納付します。

しかし、売上計上もれなどの場合は、いわゆる期ズレで終わります。

たとえば、税務調査で、当期に計上した売上高100は前期の売上高だと税務調査で指摘され(売上計上もれ)、前期分の修正申告で益金を100加算して納税33をしたとします。このままでは当期で二重に課税されるため当期の法人税の申告では100減算することになります。結果として当期の法人税は33減ることになります(税率が同じだとしています)。

結局、法人のダメージは、適正に法人税の申告をしなかったことによるペナルティとしては過少申告加算税や延滞税にとどまります(仮装隠ぺいなどの不正の場合には過少申告加算税に代えて重加算税が課されます)。

交際費等の場合のトラブル

税務調査で交際費等を指摘されたとします。

交際費等の抽出がもれていたとか、得意先等との接待飲食費に該当しないのに50%を算入していたとか、そもそも1人あたり5,000円以下の得意先等の接待飲食費に該当しないのに法人税法上の交際費等から除外していたなどです。 この場合、損金不算入としなければならない額が増えて法人所得が増加し法人税が追徴課税されるのは変わりません。

しかし、売上計上もれなどとは異なり、翌事業年度以降の法人税の申告で法人税の負担が減るようなことはありません。いわゆる取られっぱなしです。

本税が取られっぱなし、もれなく過少申告加算税や延滞税のペナルティがついてくることになります。しかも、交際費関係は意図的なインチキやゴマカシが多いため、仮装隠ぺいのペナルティとして重加算税が課されることになります。

法人税の申告で、得意先等との接待飲食費に該当しない贈答などが含まれていないかどうかをチェックするのは経理部門の問題ですが、飲食接待そのものの妥当性のチェックまでは限界があります。

このため、税務調査でも、資料だけの調査ではなく、実際に接待飲食した従業員等が直接インタビューされることがあります。とくに、接待飲食の事実は本当にあったのか、得意先との接待飲食費だったのに実は身内だけのものではないか、人数を水増しして1人あたり5,000円以下にしていないかに疑問を抱きながら質問が行われます。

とくに、調査官が、飲食した店に接待の内容や人数を確認して(反面調査)ウラ取りしていると、今度はその「誤り」の理由に論点が移ります。

実際に接待した従業員の報告ミスなのか、その報告を承認した部門長のミスなのか、経理部の処理ミスなのか、それとも・・・ 当然のことですが、調査官は責任がどこにあるのかというより、会社として仮装隠ぺいがあったのかどうかに関心があります。

反面調査で客観的事実がすでに違っているのに、正当な根拠もなくがんばりすぎてしまうと、他の飲食あるいは交際費以外のすべてについて色眼鏡で見られてしまうおそれがあります。

インタビューを受けたときは、調査官がどういう意図で質問しているのかその趣旨を知り、無益な誤解を与え、お互いに時間やエネルギーのムダ使いしないことが重要です。

さらに痛いパターン

身内だけの接待飲食費を会計上は福利厚生費として処理している場合で、法人税の申告でこれを交際費等として全額損金不算入として処理していればいいのですが、交際費として処理していなかったばかりにうっかり交際費等に含めるのを失念すると、法人税が追徴課税されます。

しかも、この身内だけというのが、実は役員だけの、しかも法人の業務とはなんの関連性もないといことになれば、最悪の場合、これは役員が個人的に支払うべきものを会社が負担した、つまり、役員に経済的利益を供与したとして役員に対する給与だと認定されます。役員に対する給与は、法人税法上は通常の場合毎月定額でなければならず(定期同額給与)、イレギュラーな部分は損金不算入となります。

これならば、交際費の場合と変わらないです。しかし、役員給与となると、法人は所得税および復興特別所得税の源泉徴収がもれているということになります。

そして、役員給与となる額は、税込みの金額です。つまり、飲食の支出に消費税がかかっている場合には、この消費税等の額を消費税の申告では仮受消費税等の額から確実に控除しています。つまり、消費税の過少申告となります。

いずれも、本税のみならずペナルティが課されることになります。

(おわり)