当事者の違い(個人か法人か)による貸付金(借入金)利息の取扱い

税法は、主体によって課税を変えています。「それはそうだろ、法人税法と所得税法があるじゃないか」というと話が終わりかねませんが・・・

貸付金の利息を素材にして、個人と法人の課税の非対称性を検討してみたいと思います。

個人と法人との課税の違い

税法は、主体によって課税を変えています。「それはそうだろ、法人税法と所得税法があるじゃないか」というと話が終わりかねませんが・・・

個人と法人の違いを申し上げます。

個人とは、生身のカラダをもち、理性のみならず感情も持ち合わせた自然人です。このため、個人の行動は必ずしも経済合理的ではなく、常に営利を追求しているたけではありません。

いっぽう、法人とは、まさに法によって人格を付与されたバーチャルな存在で、もっぱら経済合理性に従ってひたすら営利を追求する存在です。

この違いが課税のされ方に影響するのです。つまり、法人と個人では課税関係に対称性がないことになります。

では、借入金(貸付金)を素材に検討したいと思います。

もともと貸付金(借入金)の返済方法をどうするか、利息を付けるかどうかは当事者間が自由に決めることができます(契約自由の原則)。

いっぽうで、課税の取扱いは当事者(貸し手と借り手)によって異なります。

貸し手=法人 借り手=法人

金銭消費貸借契約を結ぶ場合、利息を付すか、付すとして利率はどのくらいかは原則として自由です(契約自由の原則)。

貸し手

ところが、法人税法では、法人とはもっぱら営利を追求し経済合理性に従って行動する存在であるため、貸し手である法人は、当事者間の契約にかかわらず、適正利率による貸付金利息を収益(益金)としなければなりません。

すなわち、貸付けが無利息あるいは低い利率で行われている場合には、適正利率による利息額との差額を追加的に益金として認識します。

いっぽう、借り手に対して無利息あるいは低い利率であるということは、借り手に(無償の)経済的利益を供与したことになります。つまり、借り手に対する寄附金ということになります。

受取利息は益金となりますが、寄附金については法人税法上損金に算入される額は制限されており(寄附金の損金不算入)、全額が損金不算入の場合は、適正利率による利息額との差額にそのまま法人税等が課されることになります。

ここで、税務上の仕訳は次のとおりです。税務上の仕訳と申しますのも、当事者間の契約では無利息あるいは低利率であり、適正利率との差額が実際に入金することはないため、会計上で仕訳入力することはないからです。

(借) 寄附金 100 (貸) 受取利息 100

法人税申告書の別表での処理は、別表四で認定利息を加算します。なお、「留保」ではなく「流出」です。

借り手

借り手である法人にとって、借入金に対する支払利息は法人税の計算上も損金となります。

さて、無利息あるいは低い利率によって貸付けを行った貸し手である法人には適正利率との差額が益金となりますが、貸し手である法人には、反射的効果としてこの差額分を損金としてよいのか、すなわち、適正利率による支払利息相当額(との差額)で法人税等が減額されるのかは微妙なところです。

と申しますのも、借り手からみれば、そもそも当事者間の契約では無利息あるいは低い利率ということになっているわけです。 借り手もまた営利を追求しもっぱら経済的合理性に従って行動する主体である法人であり、無利息あるいは低い利率ということはある意味経済合理性にかなうわけです。

また、後述するとおり、同族会社において同族関係者が法人に対して金銭を貸し付けることはよくありますが、金銭消費貸借契約上で無利息であったとしても、適正利率による支払利息相当額が損金として認定されることはありません。

アカデミックには、「適正」利息との差額を支払利息とし(認定損)、同時にその額を免除されたことによる利益(益金)を認定し、これらが相殺されて、結果的に課税所得に影響はないという構成ということでしょうか。

貸し手=法人 借り手=個人

この典型的な例は、法人が自社の役員や従業員に金銭を貸付けることです。

貸し手

法人税法では、法人とはもっぱら営利を追求し経済合理性に従って行動する存在であるため、貸し手である法人は、当事者間の契約にかかわらず、適正利率による貸付金利息を収益(益金)としなければなりません。

適正利率は、直近では2016年は1.8%、2017年は年1.7%、2018年は年1.6%です。法人が他から借り入れた資金で貸付けを行う(実質的に転貸)場合は、他から借り入れた借入金の利率となります。

すなわち、貸付けが無利息あるいは低い利率で行われている場合には、適正利率による利息額との差額を追加的に益金として認識します。

いっぽう、借り手に対して無利息あるいは低い利率であるということは、借り手に(無償の)経済的利益を供与したことになります。

この経済的利益は、先ほどの例では借り手が法人のため寄附金となりましたが、借り手が個人となると、法人と個人との関係によって取扱いが異なります。

借り手が、その法人の役員や従業員である場合、この経済的利益は役員や従業員の給与所得となります。

法人は通常受け取るべき利息を受け取らなかったのだから法人が役員や従業員に対して経済的利益を供与した、逆にいえば、役員や従業員は法人から経済的利益の供与を受けた、すなわち、給与(現物給与)を受けたと認定されるのです。

そして、法人は所得税の源泉徴収義務者であることから、通常の給料にこの経済的利益の額を加えた額について所得税を源泉徴収しなければなりません。

従業員への貸付けを無償で行い、適正利率による利息が100、追加的に源泉徴収しなければならない額が30とすると、税務上の仕訳は次のようになります。

(借) 給料 100 (貸) 受取利息 100
立替金 30 預り金 30

実務上は、給料支払いの際に天引きで行うため、給料の仕訳(本人支給額を未払金a/cとするものとします。)に次の部分が追加的に加わります。

(借) 未払金 100 (貸) 預り金 30

法人税申告書の別表での処理は、別表四で適正利率との差額を益金として加算(社外流出)し、同額を従業員給与を損金として減算(社外流出)します。結果として課税所得に影響はありません。

ところで、貸付けが従業員ではなく役員に対するものである場合には、法人税上の「定期同額給与」に注意する必要があります。役員との金銭消費貸借契約では利息の支払いは年1回だとしても、年1回に1年分の利息(とこれに係る役員給与と源泉所得税)を認識すると、法人税法上は定期同額給与に当たらず「役員給与の損金不算入」、所得税法上は月々の源泉徴収が漏れているという指摘があるリスクがあります。契約による支払は年1回でも、利息そのものは毎月発生しているため、毎月利息相当額を認識することで定期同額給与とし、これに係る所得税の源泉徴収をすべきことになります。

もっとも、災害や病気などで臨時に多額の生活資金が必要となった役員または使用人に、その資金に充てるため、合理的と認められる金額や返済期間で金銭を貸し付ける場合、法人における借入金の平均調達金利など合理的と認められる貸付利率を定めている場合、適正利率による利息の額との差額が1年間で5,000円以下である場合には給与所得にする必要はありません(源泉徴収が不要となります)。

借り手が、その法人の役員や従業員でない場合、この経済的利益は個人に対する寄附金となります。 よって、上記の借り手が法人の場合と同様になります。

借り手

借り手が、その法人の役員や従業員である場合、上記のとおり、この経済的利益は役員や従業員の給与所得となるのが原則です。給与所得とならない場合には雑所得になると思われます。

借り手が、その法人の役員や従業員でない場合、この経済的利益は法人からの無償の経済的利益(贈与)となります。法人からの贈与については、原則として一時所得(所得税法34条、所得税基本通達34-1(5))となりますが、所得税基本通達34-1(5)によれば、法人からの贈与により取得する金品は一時所得ですが、継続的に受けるものは除かれ(利息発生は継続的です)、また、法人との関係は委任関係(役員)でも雇用関係(従業員)でもないため、雑所得となると思われます。

貸し手=個人 借り手=法人

この典型的な例が、オーナー経営者が、自らの個人資金を自身の法人に貸し付けることです。

この場合、オーナー経営者から見ると法人への貸付金、法人から見ると役員からの借入金となります。

貸し手

貸し手である個人が貸付金の利息を受け取った場合、貸し手には所得税(および復興特別所得税)と住民税がかかります。

さて、所得税法では、所得を10種類に分け、所得の種類ごとに所得金額を計算します。

貸し手である個人が事業として(その個人は個人事業主ということになります。)貸し付けた場合、その受取利息は事業所得の収入金額となります。

貸し手である個人が事業として貸し付けたのではない場合には、その利息収入は雑所得の収入金額となります。

実は、10種類の所得のなかに「利子所得」というのがあるのですが、利子所得とは、公社債および預貯金の利子ならびに合同運用信託、公社債投資信託および公募公社債等運用投資信託の収益の分配に係る所得をいうため(所得税法23条)、利子所得には該当しません(35条)。

もっとも、事業所得にしても利子所得にしても雑所得にせよ、所得がプラスの場合には実質的な差はありません。なぜなら、所得税の計算にあたっては、これらの所得を合計するからです(総合課税)。雑所得はマイナスでもゼロになる(他のプラスの所得と通算できない)点で異なりますが、貸付金の利息収入がマイナスになることは通常はないと思われます。

ところで、当事者間で無利息あるいは低い利率とした場合、貸し手である個人への課税関係はどうなるでしょうか。

この点、所得税法36条(収入金額)1項によれば、「その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額(金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもつて収入する場合には、その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額)とする。」とあり、金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の例として、金銭の貸付け又は提供を無利息又は通常の利率よりも低い利率で受けた場合における通常の利率により計算した利息の額又はその通常の利率により計算した利息の額と実際に支払う利息の額との差額に相当する利益(所得税基本通達36-15(3))とあります。

しかし、国税庁のタックスアンサーなどで示されているのは「会社が役員や従業員に対して無利息や低い利率で金銭を貸し付けた場合、役員や従業員の経済的利益は給与所得となる(だから会社は所得税を源泉徴収しなければならない)」というシチュエーションです。少なくとも貸し手が貸金業を営む個人事業主で、借り手が個人事業の従業員でない場合は適用されないと思われます。

よって、法人ではなく個人の貸付けが無利息あるいは低い利率で行われている場合には、適正利率による受取利息の額との差額について貸し手である個人に所得税の申告漏れが指摘されることは通常ありません。

貸し手が法人である場合と異なります。

このため、金銭消費貸借契約で当事者間で利息を付すようにすると、貸し手である個人は受取利息について所得税が課されるため、無利息としていることが少なくありません。

さて、給与所得がある者で、給与所得と退職所得以外の所得金額(その年分の利子所得の金額、配当所得の金額、不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額、譲渡所得の金額、一時所得の金額及び雑所得の金額の合計額)が年20万円以下である場合には所得税の確定申告を要しないルールがあります(所得税法121条)。

ただし、同族会社の役員またはその関係者が、法人に対して貸付けを行って利息を受け取っている場合には、その額が年20万円以下であっても確定申告をしなければなりません(所得税法施行令262条の2)。

また、「所得税」の確定申告は要しない場合であっても、「住民税」すなわち個人都民税、個人道府県民税、個人区民税、個人市町村民税の確定申告は必要です。

借り手

同族会社において同族関係者が法人に対して金銭を貸し付けることはよくありますが、金銭消費貸借契約上で無利息であったとしても、適正利率による支払利息相当額が損金として認定されることはありません。

そもそも当事者間の契約では無利息あるいは低い利率としており、借り手は営利を追求しもっぱら経済的合理性に従って行動する主体である法人です。無利息あるいは低い利率ということは支払利息がゼロあるいは定額となるため、ある意味経済合理性にかなうわけです。

貸し手=個人 借り手=個人

最後に、貸し手も借り手も自然人たる個人である場合です。

利息を付した場合

貸し手である個人が事業として(その個人は個人事業主ということになります。)貸し付けた場合、その受取利息は事業所得の収入金額となります。

貸し手である個人が事業として貸し付けたのではない場合には、その利息収入は雑所得の収入金額となります。

当事者間で無利息あるいは低い利率とした場合、貸し手が法人の場合とは異なり、個人が貸し手の場合には、適正利率による利息相当額(との差額)を所得として認定されることはありません。

いっぽう、借り手である個人が事業資金として借入れを行った場合(その個人は個人事業主ということになります。)、支払った利息は借り手の事業所得の必要経費となります。よって、支払利息の額だけ事業所得の金額が減少するため、所得税が減額される効果があります。

いっぽう、借り手である個人が事業資金として借入れたわけではない場合には、支払った利息はとくに所得税の計算には影響はありません。

また、貸し手も借り手も個人である当事者間で無利息と決めた場合でも、所得税の課税の問題は生じません。

無利息ではないが利息支払いを免除した場合

では、貸し手も借り手も個人である当事者間において、無利息ではなく利息を付すことにしたものの、利息の受払いがない場合はどうなるでしょうか。

利息を付すことにした以上、貸し手である個人には、実際の利息の入金がなくとも利息収入(雑所得)があることになります。

もっとも、利息を受け取ることを免除した場合にはどうなるでしょうか。

この場合、貸し手である個人は借り手である個人に対して利息支払いを免除、すなわち、無償の経済的利益を与えたと構成し、借り手である個人に対する贈与になるといえます。

すると、借り手としては「個人からの贈与により取得するもの(所得税法9条1項16号)」として所得税ではなく贈与税の課税対象となります。

この場合、貸し手と借り手の関係が相続時精算課税制度の適用を受けている場合、非課税枠(2,500万円)を超えた部分について20%の贈与税が課されます。相続時精算課税制度の適用を受けていない場合には、暦年課税となるため、他の贈与額と合わせて年間110万円に達しなければ贈与税はゼロとなります。

個人間の金銭消費貸借契約で利息を付す意味

個人が法人に対して貸付けを行う場合に利息を付さないことが多いのは、法人の利益を大きくするためだけではなく、貸し手の所得(雑所得)として所得税等が課されるのを避けるためもあります。

では、個人が個人に対して貸付けを行うときに、契約上で利息を付す意味は何でしょうか。

それは、利息収入が目的というよりはむしろ、「おカネは借入金であって贈与を受けたものではない」ことを証明するためといえます。

(おわり)