( 3 )設例と数値例 配偶者の税額軽減 Part2

相続人が配偶者と子2人であり、配偶者の相続税額の軽減を適用するというシンプルな設例で相続税の計算を行います。今回は、配偶者が法定相続分以上を取得した場合に配偶者の税額の軽減を超える事例です。

さらに、相続税の総額を各相続人等への割り振る「あん分割合」の端数処理の関係では、税額の負担がない部分が発生し、これによって税額を負担しない人が出てくることがあります。

事例

  • 被相続人Aの相続人は、配偶者B、長男Cそして長女Dの3人です。
  • Aの(債務や葬儀費用等の控除後の)正味の財産の課税価格の合計額は10億円です。

設問

次の場合の各人の納付する相続税額はいくらか

設問( 1 )

( 1 )基礎控除額の計算

被相続人Aの相続人は、配偶者B、長男Cそして長女Dの3人です。

3人はいずれも法定相続人です。

基礎控除額は、3,000万円× 600万円×法定相続人の数(3人)= 4,800万円です。

( 2 )課税遺産総額の計算

課税遺産総額は、正味の財産の課税価格の合計額(10億円)から基礎控除額(4,800万円)を差し引いた額です。

10億円− 4,800万円= 9億5,200万円

( 3 )課税遺産総額を法定相続分で割り振り

実際に誰がどの財産を取得したかとは無関係に、課税遺産総額を法定相続分で割り振ります。

正味の財産の課税価格の合計額(10億円)ではなく、基礎控除額を差し引いた課税遺産総額(9億5,200万円)です。

法定相続分は配偶者と子で1/2ずつ、すなわち、Bが1/2、Cが1/4、Dで1/4です。

課税遺産総額(9億5,200万円)を、Bに1/2、Cに1/4、Dに1/4に割り振ります。

Bは4億7,600万円(= 9億5,200万円× 1/2)、Cは2億3,800万円(= 9億5,200万円× 1/4)、 Dは2億3,800万円(= 9億5,200万円× 1/4)です。

( 4 )相続税の総額の計算

課税遺産総額を法定相続人に法定相続分で割り振った額について、法定相続人ごとに相続税額を算定します。 この額が各人の納税額ではありません。

相続税額の計算には速算表を用います。

Bは「6億円以下」となります(税率50%、控除額4,200万円)。

Bは、4億7,600万円× 50%− 4,200万円= 1億9,600万円

CとDはいずれも「3億円以下」となります(税率45%、控除額2,700万円)。

Cは、2億3,800万円× 45%− 2,700万円= 8,010万円

Dは、2億3,800万円× 45%− 2,700万円= 8,010万円

3人の合計額3億5,620万円(= 1億9,600万円+ 8,010万円+ 8,010万円)が相続税の総額となります。

( 5 )各人ごとの相続税額の計算

相続税の総額を、各人に実際に取得した正味の財産の課税価格に応じて割り振ります。

「各人が実際に取得した正味の財産の課税価格」であって、合計すれば正味の財産の課税価格の合計額となります。

相続税の総額の計算では、課税価格の合計額ではなく基礎控除額を差し引いた課税遺産総額を法定相続分で割り振りましたが、ここでは、課税価格の合計額を各人が実際に取得した正味の課税価格の割合で割り振ります。

Bは、3億5,620万円×(5億円/10億円)= 1億7,810万円

Cは、3億5,620万円×(2億5,000万円/10億円)= 8,905万円

Dは、3億5,620万円×(2億5,000万円/10億円)= 8,905万円

1億7,810万円(B)+ 8,905万円(C)+ 8,905万円(D)= 3億5,620万円

( 6 )各人の納付額の計算

各人の相続税額から控除額等の加減算を行った額が納付すべき税額となります。

Bは、配偶者に対する相続税額の軽減(相続税法19条の2)を適用します。これは、配偶者が取得した正味の財産の課税価格が、「1億6,000万円」か「配偶者の法定相続分相当額」のいずれか大きい額までは相続税がかからないという制度です。

Bが取得した正味の財産の課税価格は5億円であり、正味の財産の課税価格の合計額10億円の1/2相当額、すなわち法定相続分相当額です。1億6,000万円とBの法定相続分相当額の大きい方(5億円)まではBに相続税はかかりません。よって、Bの相続税額1億7,810万円は税額の軽減によりゼロになります。

よって、各人の納付する税額は、Bが0円、Cが8,905万円、Dが8,905万円となります。

コメント

本問は、相続人が法定相続分で財産の取得をした場合です。

相続税の総額の計算のときは、正味の財産の課税価格の合計額から基礎控除を差し引いた課税遺産総額(9億5,200万円)を法定相続分で割り振ります。その結果、相続税の総額は3億5,620万円となります。

相続税の総額を、各人が実際に取得した正味の財産の課税価格(10億円)で割り振ります。

配偶者Bは税額の軽減があるため、納付する税額はゼロになります。

設問( 2 )

「( 4 )相続税の総額の計算」まではまったく同じです。

本問ではCとDが取得した財産はゼロで、これは結果的は相続放棄したような形となっています。なお、基礎控除額や相続税の総額の計算で用いる「法定相続人の数」では、相続放棄した人も相続放棄しなかったものとします。

( 5 )各人ごとの相続税額の計算

相続税の総額を、各人に実際に取得した正味の財産の課税価格に応じて割り振ります。

「実際に取得した正味の財産の課税価格」であって、各人の分を合計すれば「正味の財産の課税価格の合計額」となります。

相続税の総額の計算では、正味の財産の課税価格の合計額ではなく基礎控除額を差し引いた課税遺産総額を法定相続分で割り振りましたが、ここでは、正味の財産の課税価格の合計額を各人が実際に取得した課税価格の割合で割り振ります。

Bは、3億5,620万円×(10億円/10億円)= 3億5,620万円

Cは、3億5,620万円×(0円/10億円)= 0円

Dは、3億5,620万円×(0円/10億円)= 0円

3億5,620万円(B)+ 0円(C)+ 0円(D)= 3億5,620万円

( 6 )各人の納付額の計算

各人の相続税額から控除額等の加減算を行った額が納付すべき税額となります。

Bは、配偶者に対する相続税額の軽減(相続税法19条の2)を適用します。これは、配偶者が取得した正味の財産の課税価格が、「1億6,000万円」か「配偶者の法定相続分相当額」のいずれか大きい額までは相続税がかからないという制度です。

Bが取得した正味の財産の課税価格は10億円であり、正味の財産の課税価格の合計額10億円の1/2相当額(5億円)を超えています。1億6,000万円とBの法定相続分相当額の大きい方(5億円)まではBに相続税はかかりません。よって、Bの軽減される相続税額は5億円に対応する部分(1億7,810万円)までということになります。これを超える部分はBに相続税がかかります。

よって、Bの納税額は、3億5,620万円− 1億7,810万円= 1億7,810万円

以上から、各人の納付する税額は、Bが1億7,810万円、Cが0円、Dが0円となります。

コメント

本問は、相続人が法定相続分とは異なる財産の取得をした場合です。

相続税の総額の計算のときは、正味の財産の課税価格の合計額から基礎控除を差し引いた課税遺産総額(9億5,200万円)を法定相続分で割り振ります。その結果、相続税の総額は3億5,620万円となります。

相続税の総額を、各人が実際に取得した正味の財産の課税価格(合計1億円)で割り振ります。

配偶者Bは税額の軽減がありますが、法定相続分(5億円)を超えて取得した部分には納付する税額が生じます(1億7,810万円)。

設問( 3 )

「( 4 )相続税の総額の計算」まではまったく同じです。

( 5 )各人ごとの相続税額の計算

相続税の総額を、各人に実際に取得した正味の財産の課税価格に応じて割り振ります。

「実際に取得した正味の財産の課税価格」であって、各人の分を合計すれば「正味の財産の課税価格の合計額」となります。

相続税の総額の計算では、正味の財産の課税価格の合計額ではなく基礎控除額を差し引いた課税遺産総額を法定相続分で割り振りましたが、ここでは、正味の財産の課税価格の合計額を各人が実際に取得した課税価格の割合で割り振ります。

Bは、3億5,620万円× 0.501(= 5億100万円/10億円)= 1億7,845万6,200円

Cは、3億5,620万円× 0.498(= 4億9,800万円/10億円)= 1億7,738万7,600円

Dは、3億5,620万円× 0.001(= 100万円/10億円)= 35万6,200円

1億7,845万6,200円(B)+ 1億7,738万7,600円(C)+ 35万6,200円(D)= 3億5,620万円

(6)各人の納付額の計算

各人の相続税額から控除額等の加減算を行った額が納付すべき税額となります。

Bは、配偶者に対する相続税額の軽減(相続税法19条の2)を適用します。これは、配偶者が取得した正味の財産の課税価格が、「1億6,000万円」か「配偶者の法定相続分相当額」のいずれか大きい額までは相続税がかからないという制度です。

Bが取得した正味の財産の課税価格は5億100万円であり、正味の財産の課税価格の合計額10億円の1/2相当額(5億円)を超えています。1億6,000万円とBの法定相続分相当額の大きい方(5億円)まではBに相続税はかかりません。よって、Bの軽減される相続税額は5億円に対応する部分(1億7,810万円)までということになります。これを超える部分はBに相続税がかかります。

よって、Bの税額は、1億7,845万6,200円− 1億7,810万円= 35万6,200円となります。

以上から、各人の納付する税額は、100円未満を切り捨て、Bが35万6,200円、Cが1億7,738万7,600円、Dが35万6,200円となります。

コメント

本問は、相続人が法定相続分とは異なる財産の取得をした場合です。

この場合でも、相続税の総額(3人全員で負担すべき税額)は変わりません。

相続税の総額の計算のときは、正味の財産の課税価格の合計額から基礎控除を差し引いた課税遺産総額(9億5,200万円)を法定相続分で割り振ります。その結果、相続税の総額は3億5,620万円となります。

相続税の総額を、各人が実際に取得した正味の財産の課税価格(合計10億円)で割り振ります。

配偶者に対する相続税額の軽減によって、配偶者はどんなに多くの財産を取得しても、法定相続分相当額までならば相続税額は発生しません。

しかし、本問では、配偶者Bは法定相続分5億円を100万円超過して取得しているために、5億円を超えた100万円分に対して35万6,000円の税額が発生しています。

また、課税遺産総額が大きいと相続税の総額が大きくなるため、取得した額が相対的に少額であっても税金の負担が大きくなります。ここでは、Dは100万円を取得したところ35万6,000円の負担があります(実効税率は35.6%)。

設問( 4 )

「( 4 )相続税の総額の計算」まではまったく同じです。

( 5 )各人ごとの相続税額の計算

相続税の総額を、各人に実際に取得した正味の財産の課税価格に応じて割り振ります。

「実際に取得した正味の財産の課税価格」であって、各人の分を合計すれば「正味の財産の課税価格の合計額」となります。

相続税の総額の計算では、正味の財産の課税価格の合計額ではなく基礎控除額を差し引いた課税遺産総額を法定相続分で割り振りましたが、ここでは、正味の財産の課税価格の合計額を各人が実際に取得した課税価格の割合で割り振ります。

ただし、設問(3)とは異なり、このあん分割合について、小数点第2位で合計が1になるように調整すると次のようになります。

Bは、3億5,620万円× 0.50(= 5億100万円/10億円)= 1億7,810万円

Cは、3億5,620万円× 0.50(= 4億9,800万円/10億円)= 1億7,810万円

Dは、3億5,620万円× 0.00(= 100万円/10億円)= 0円

1億7,810万円(B)+ 1億7,810万円(C)+ 0円(D)= 3億5,620万円

( 6 )各人の納付額の計算

各人の相続税額から控除額等の加減算を行った額が納付すべき税額となります。

Bは、配偶者に対する相続税額の軽減(相続税法19条の2)を適用します。これは、配偶者が取得した正味の財産の課税価格が、「1億6,000万円」か「配偶者の法定相続分相当額」のいずれか大きい額までは相続税がかからないという制度です。

Bが取得した正味の財産の課税価格は5億100万円であり、正味の財産の課税価格の合計額10億円の1/2相当額(5億円)を超えています。1億6,000万円とBの法定相続分相当額の大きい方(5億円)まではBに相続税はかかりません。よって、Bの軽減される相続税額は5億円に対応する部分(1億7,810万円)までということになります。これを超える部分はBに相続税がかかります。

ところが、設問( 3 )と異なり、相続税の総額について、あん分割合を小数点第2位で行うと、Bには1億7,810万円となります。 このため、Bの軽減される相続税額は5億円に対応する部分(1億7,810万円)を超過する税額はありません。よって、Bは、法定相続割合より100万円多く取得しているにもかかわらず納付すべき相続税額はありません。

同じく、Dも100万円を取得しているのに、相続税の総額について、あん分割合を小数点第2位で行うと、Dの税額は0円です。 Dも100万円取得しているにもかかわらず納付すべき相続税額はありません。

この「シワ寄せ」は、Cに行くことになります。Cの納付すべき相続税額は、あん分割合を小数点第3位で行うと1億7,738万7,600円ですが、小数点第2位で行うと1億7,810万円となります。その差額は、小数点第3位であん分したときにBとDが負担する35万6,200円の合計71万2,400円となります。相続税の総額そのものは変わらないので当然といえば当然です。

以上から、各人の納付する税額は、100円未満を切り捨て、Bが0円、Cが1億7,810万円、Dが0円となります。

コメント

本問は、相続人が法定相続分とは異なる財産の取得をした場合です。

この場合でも、相続税の総額(3人全員で負担すべき税額)は変わりません。

ただし、設問( 3 )の場合と異なり、あん分割合の端数処理を変えると、各相続人等の納付する相続税額が変わることになります。

財産を取得した人全員分の相続税の総額は変わりませんが、財産を取得した各人へのあん分割合によっては、財産を取得した人によっては財産額の一部について税額を負担しないことがあります(BやD)。

( つづく )