( 1 )所得税と住民税の知識

インテリの方ほど知ったかぶってしまいがちな、基本的な知識を確認します。

シミュレーションで、各所得金額の合計額にいきなり税率を乗じる誤りをよく見受けます。これでは、高い税率が適用されてしまいます。税率を乗じるのは、各所得金額の合計額から所得控除の額を控除した後の額です。

ありがちなのが、「そもそも給与所得者じゃないですよね?」すなわち、「勤務先」から交付されたのが源泉徴収票でなく支払調書の場合です。支払調書の場合には、従業員ではなく単純な請負業者(個人事業主)であり、年末調整などされるはずもなく、確定申告をしなければなりません。

また、国税庁サイト等で区分されている「所得税」「源泉所得税」の関係についてもコメントいたします。

所得税および復興特別所得税

個人に対する所得税とは、個人の所得(稼ぎや儲け)に対してかかる税金です。その締めは暦年(1月1日から12月31日まで)です。

より厳密にいえば、所得税に加えて復興特別所得税が課されます。よって以下では「所得税等」といいます。

各年分の所得税等の額は基本的に次のように計算されます。

  • 収入金額-必要経費=所得金額
  • 所得金額-所得金額から差し引かれる金額(所得控除額)=課税所得金額
  • 課税所得金額×所得税の税率(5%~45%)=課税所得に対する税額
  • 課税所得に対する税額-税額控除額=基準所得税額
  • 基準所得税額×復興特別所得税(2.1%)=所得税等の額

まず、所得税法では、所得を10種類に分けて、それぞれの所得の種類ごとに所得金額を計算します。給与所得もそのひとつです。 このため、所得税を正しく申告するためには、所得の種類を間違えないこと、そして、それぞれの所得について所得金額を正しく計算することが重要です。

所得税の計算は、各所得金額を合計し、所得控除の額(配偶者控除や扶養控除や生命保険料控除や医療費控除など)を控除した額(課税所得金額)に、税率を乗じます。税率は、課税所得金額の大きさによって5%から45%となります。

シミュレーションで、各所得金額の合計額にいきなり税率を乗じる誤りをよく見受けます。これでは、高い税率が適用されてしまいます。税率を乗じるのは、各所得金額の合計額から所得控除の額を控除した後の額です。

いっぽう、他の所得とは合計せずに、独自の税率を乗じて税額を計算するものもあります(分離課税)。土地や家屋、また株式等の譲渡による所得(譲渡所得)がこれにあたります。

そして、総合課税の所得税の額、分離課税の所得税の額を合計した額から、税額控除(住宅ローン控除など)を差し引いた額(基準所得税額)に復興特別所得税の税率を乗じて、その年分の所得税等の額が計算されます。

このように算定された所得税等の額を納付するわけですが、勤務先から給料等の支払を受ける場合にすでに所得税等が天引き(源泉徴収)されています。また、個人事業主や不動産所得がある方は前年分の所得税額に基づいて算定される一定の額を納付しています(予定納税)。

その年分の所得税等の額を計算し、すでに納付している額を比較して、不足している額を納付し、超過している額の還付を受けようとするのがまさに確定申告なのです。

住民税

住民税(都道府県民税および市区町村民税)も所得税とほぼ同じ構造で課税されます。

所得金額の計算方法は所得税とほぼ同じですが、所得控除については、所得税とは異なります。たとえば、基礎控除は所得税38万円にたいして住民税は33万円です。

また、税率は一律10%です。

各個人の所得の情報は、勤務先(年末調整)や税務署(確定申告)から市区町村に流れ、市区町村が住民税の額を計算します。つまり、当年分の各個人の住民税の基礎は前年分の所得に基づくものです(年ずれ)。

住民税の納付の方法は2つあります。 まず、市区町村から各個人に対して納付書が送付され、その納付書に基づいて各個人が自分で納付する方法です(普通徴収)。いっぽう、給与所得者の場合には各個人ではなく勤務先に納付書が送付されます。勤務先は、従業員等に給料を支払う際に住民税と天引きして翌月10日までに納付します。この住民税の天引きは、所得税等の天引きが源泉徴収というのに対して特別徴収といいます。

つまり、毎月の給料からは所得税等と住民税がそれぞれ天引きされますが、源泉徴収される所得税等の額はまさに毎月の支給額を基礎に計算した額であるのに対して、特別徴収される住民税は前年分の所得を基礎に計算され毎月一定の額が差し引かれます。このため給料明細を見ると、残業手当などで毎月の給料が変化する場合、源泉所得税の金額は変動するのに、住民税は一定であるはずです。

ところで、この勤務先に送付される特別徴収の通知ですが、そこには各個人の住民税の計算過程と住民税の額、そして勤務先が毎月給料支払の際に天引き(特別徴収)する額が記載されています。この各個人の住民税の計算過程で、その勤務先の前年の給与の額よりも大きい額であった場合には、他の事業所から給料をもらっていたことがバレることになります。

ちなみに、所得税等の確定申告書の第二表の最後のところは「住民税、事業税に関する事項」には、「給与・公的年金等に係る所得以外の所得に係る住民税の徴収方法の選択」という欄があります。

先ほど申し上げたとおり、所得の種類は10あります。また、住民税の納付方法は、普通徴収と特別徴収があります。

「給与・公的年金等に係る所得以外の所得」というのは、たとえば不動産所得や土地・家屋の譲渡による所得です。これに対する住民税も特別徴収になってしまうと、ともすれば毎月の給料よりも特別徴収される金額の方が大きくなってしまうこともあります。このため、給与所得や公的年金等に係る所得(雑所得)は特別徴収(天引き)ですが、それ以外の所得については普通徴収(自分で納付)も選択できます。

(余談)そもそも給与所得者なのか

笑えない誤解があります。

源泉徴収票と支払調書を混同している場合です。つまり、「令和〇年分給与所得の源泉徴収票」か「令和〇年分報酬、料金、契約金等の支払調書」なのかということです。

もらっているのが「令和〇年分報酬、料金、契約金等の支払調書」の場合、これは支払先との関係は雇用(従業員)ではなく、請負などになります。要するに、個人事業主だということになります。

この場合は、給与をもらっているのではなく報酬等をもらっていることになります。所得税の計算でも給与所得ではなく事業所得ということになり、確実に確定申告が必要になります。

たとえば、メールや電話ベースで、いろいろやり取りしたところで、実際に現物を見せてもらうと「え?源泉徴収票じゃないですよね」ということがしばしばあります。

繁忙期の税務署で、この点でドタバタしている光景をしばしば目撃しますが、問題の本質は税金とかの問題ではありません。

メディアでは、個人事業主であるはずのプロ野球選手なのに「解雇」ってコトバが用いられている(そもそも会社に雇用され給料をもらっている人に対して使われる用語です。)わけですが、一般人的にみると、「源泉徴収票」でなく「支払調書」をもらうということは、その会社からそもそも雇われていないということになり、生活基盤や将来設計にも重大な影響を及ぼしかねないのです。

(余談)「所得税」と「源泉所得税」の関係

国税庁のサイトなどでは、「所得税」「源泉所得税」とカテゴライズされているため、あたかも別の税金であるかのように思いますが、まったく同じです。

「所得税」のカテゴリーでは、「稼ぎ(所得)に対する税金(所得税)をどう計算しますか」が中心です。

いっぽう、「源泉所得税」のカテゴリーでは、「給料や報酬を支払う事業者が、支払の際にどう所得税を天引き(源泉徴収)しますか」が中心になります。

同じものを「支払を受ける側」「支払をする側」という異なる角度で説いているだけです。

初歩的な経理ですと、やれ勘定科目がどうだとか、損益がどうかだけで終わってしまいますが、現実の実務では「消費税」「源泉所得税」に極めて関心があります。支払を受ける側は天引きされて腹が立つかもしれませんが、支払をする側は源泉徴収モレを指摘されるとペナルティ(不納付加算税など)がかかるため慎重に検討しているのです。

( つづく )