( 2 )譲渡制限株式の売買交渉に影響を与えるもの

売り手側に立つか、買い手側に立つかで真逆の主張となります。

「取引をしたいのはどちらか」「取引の動機は何か」「(想定される)当事者間の信頼関係はどうか」「その株主が株主になった経緯」「その株主の株主としての支配力やこれまでの行動」「会社の経営状況」などが売買価格の交渉に影響を与えると考えられます。

譲渡制限株式の売買交渉に影響を与えるもの

譲渡制限株式にかぎらず、売買にあたっては、売り手はなるべく高く売りたいと願いますし、買い手はなるべく安く買いたいと願います。

売り手のポジションに立つか、買い手のポジションに立つかで真逆の主張となります。

第三者がどちらのポジションに付くとしても、あるいは、中立的なポジションに立つとしても、まずは、株式の評価に影響を与える視点としては以下の点が考慮されると思われます。

「取引をしたいのはどちらか」という視点

  • 株主側から株式譲渡の希望があるのか
  • 会社側(およびその指定買取人候補者)が株主に対して株式譲渡をもちかけたのか

「取引の動機は何か」という視点

  • (株式譲渡による)資金的な動機か
  • 分散してしまった株主の状況を整理したいのか
  • 利害(信頼)関係のなくなった株主から取得したいのか
  • 利害関係の会社の株式を処分したいのか
  • 持株比率(議決権比率)を上昇させて経営権を強化としたいのか

「(想定される)当事者間の信頼関係はどうか」という視点

  • (親族間など)密接な信頼関係があるか
  • 一定の紳士的な信頼関係があるか
  • (親族間でもありえますが)信頼関係どころかむしろ敵対関係なのか

「その株主が株主になった経緯」という視点

  • 創業者や経営者の知り合いや取引先や従業員だからというおつきあい目的なのか
  • 会社からの配当を期待した投資目的なのか
  • 会社の株式公開(上場)に伴うキャピタルゲインを期待した投資目的なのか

「その株主の株主としての支配力やこれまでの行動」という視点

  • 株主の会社に対する支配権(すなわち議決権比率)はどの程度か
  • 株主としての権利をどの程度行使していたか
  • 株主としての支配権のほかに役員等として会社の経営に参与していたかどうか

「会社の経営状況」という視点

  • ここ数年の経営成績はどうか
  • ここ数年の配当状況はどうか
  • その株主が株主になった時点からの経営状況の推移はどうか
  • 直近(直前期末)の財政状態(貸借対照表)はどうか
  • 含み損益のある資産を保有しているかどうか
  • 潜在的な債務はどうか(保証債務や訴訟債務や退職給付債務や役員退職金債務など)
  • 将来の収益性はどうか
  • 将来の配当予定はどうか
  • 近い将来に解散や清算を行う予定があるのか
  • 譲渡請求のある株式を会社みずから取得することができるか(財源規制)

そして、さらに重要なポイントとして、「当事者間の情報格差」、そして、「ゴネ得をするのはどちらか」ということになります。

株主側からすると、会社(関係者)に比べると株式評価の基礎となる情報の入手という点では著しく不利であり、会社(関係者)側の出してきた株式価値の評価結果を見てからこれを分析・検討する受け身のパターンが多くなり、交渉力にも影響を与えます。もっとも、株主側から積極的に譲渡と求める場合には、事前にひそかに株主としての権利を行使して一定の情報を入手することができます。

そして、当事者間の交渉が調わない場合には、裁判所に売買価格の決定を求めることになりますが、裁判所の決定まで持ち込まれた場合に有利なのはどちらかも検討することになります。いかに有利な立場に立つ会社(指定買取人)であっても、株式価値が高くなる評価方法による評価結果を売買価格として決定されることが想定されるならば、株主にある程度譲歩してでも裁判所の決定まで持ち込まないほうが有利だという判断が求められます。

「一切の事情」について

株主からの株式譲渡承認請求を会社が承認しない場合には、株主の株式について、会社が自ら買い取るか、買取人を指定することになります。そして、株主と会社との間、あるいは、株主と指定買取人との間で売買価格を協議することになりますが、協議が調わない場合には裁判所に対して売買価格の決定を申し立てることができます。

裁判所は、譲渡等承認請求の時における株式会社の資産状態その他一切の事情を考慮して売買価格を決定します。

ここで、「一切の事情」とは何か、あるいは、その範囲が問題となります。

この点について、株式の客観的価値とは無関係な事情については、株式価値の算定にあたっては考慮すべきでないとされます。これによれば、たとえば、「指定買受人の支払能力」や「会社が好ましからざる者を排除して閉鎖性を維持したい事情」などは、当事者(とその意思決定機関)の主観的事情であるため、株式価値の算定にあたって考慮すべきでないことになります。

しかし、これは「公権力たる裁判所が私人間の取引の売買価格を決定する」ときの論点であって、その前段階である当事者間の協議の場面にまで及んでいるわけではないと考えられます。

よって、当事者間の協議では、株式の客観的価値とは無関係な事情を考慮することは排除されないと考えられます。

そもそも、株式価値の算定にあたっても、その過程において、それを構成するいくつかの要素が結果として客観的なものであっても、その選択や算定にあたっては一定の主観的な判断が伴います。

さらに、その株式価値の結果をタタキ台として行われる売買価格の協議は当事者の主観的事情の反映にほかならないからです。

( つづく )