( 2 )比較的確実に予測できる数値の算定

事業計画は将来のことであるため、不確実、不確定なことも少なくなく、一定の予測や見積りが伴うことは避けられません。 しかし、将来のこととはいえ、たとえば以下の項目については、より客観的に精度の高い予定額を算定することができます。

  • 既存の固定遺産の減価償却費
  • 前払費用などの費用化
  • 借入金の返済と利息の支払い

やろうと思えば正確に算定できる情報についてあらかじめ確実に算定しておくことは、その後に大胆な予測や見積りを行うための足元を固めることになります。

減価償却費の予測

減価償却費は、フリー・キャッシュ・フローの算定要素であるため、可能な限り厳密に計算すべきですし、実際に正確な予定額を計算できます。

既存の固定資産の減価償却費については、固定資産台帳から作り込むことになります。 Excel等で計算することもできますが、会計上の減価償却費を法人税法が規定する各事業年度の償却限度額としている場合には、とくに年数経過後の定率法の償却がやや複雑になります。よって、将来の減価償却費の予定額については、ExcelにIF関数を複雑に入れても計算はできますが、このエネルギーは別のところに使って減価償却ソフトで年次更新をどんどんかけるほうが効率的だと思います。

事業計画上で、どこかの予測事業年度に設備投資を行うことがありますが、この設備投資の額や設備投資のタイミング、減価償却の開始のタイミングをシミュレーションする場合には、Excelで行ったほうが効率的ですが、最終的な確認の意味ではやはり減価償却ソフトで既存資産も含めた全社的な残高や計上額を確認したほうが確実だと思われます。

なお、自社の事業計画の作成ならば存分に基礎資料を入手できますが、他社の事業計画の作成(または検証)の際には十分に情報が入手できないことがあります。固定資産の内訳が入手できなかったり、償却法や耐用年数が不明なこともあります。この場合には、過去数年の決算書等を入手して、各勘定科目を一つの資産と仮定して償却法や耐用年数を類推することなどが考えられます。

また、事業計画の各予測事業年度の目標最終利益や目標財務比率(売上高営業利益率)があらかじめ決められている場合には、正確な減価償却費を計上すると整合性が取れなくなってしまうことがあります。しかし、この段階ではまだ最終利益や財務比率の変更を求めるべきではなく、もうすこし他の情報を固めてからにしないと、五月雨式なリクエストになってしまいます。

前払費用などの費用化

前払費用などの発生とその費用化については、事務所家賃等のように金額も毎月ほぼ同額であり翌月に費用化するものについてはフリー・キャッシュ・フロー算定のための事業計画ではあまり意識しなくてもよいのではないかと思われます。 金融機関からの借入金に係る保証料の未経過分については、そのスケジュールを厳密に算定すべきとも考えられますが、費用化される保証料は営業外費用であることが多く、この場合にはフリー・キャッシュ・フローの構成要素にはなりません。 とはいえ、前払費用a/c の償却を厳密にすることは、予測貸借対照表の精度の向上を通じて運転資本の増減額の精度を高め、ブーメラン的にフリー・キャッシュ・フローの算定結果の信頼性の向上につながります。 同様に、借入金利息の前払分については金額の重要性や集計の手間などを踏まえて判断することになると思われます。

また、のれんの償却費などの非現金支出費用と通常の現金支出を伴う費用の償却(期間配分)を区別する必要があります。

借入金の返済と利息の支払いの予測

借入金の返済も利息の支払いも、いずれもキャッシュ・フロー(資金流出)には変わりませんが、借入金の返済は財務キャッシュ・フローでフリー・キャッシュ・フローを構成せず、支払利息も一般の事業会社では営業外費用となるため、やはりフリー・キャッシュ・フローを構成しません。しかし、借入金の元本と利息の予測(予定)額の精度を高めることは、事業計画の中で資金繰りがショートするタイミング、すなわち追加的な資金調達のタイミングを把握するために極めて重要です。まして、事業計画の作成目的が損益面のみならばともかく、「フリー・キャッシュ・フロー算定のための事業計画」ならばなおさらです。追加的な資金調達を借入金によって行う場合には、追加的な支払利息の計上が求められ、これに伴い法人税等や最終利益の修正が必要となります。

さらに、借入金残高の変化は、他人資本である借入金と自己資本とのバランス(資本構成)の変化を伴います。資本構成によっては、適用する割引率や事業価値等の算定方法にも影響を与えることになります。 と申しますのも、事業価値等をDCF法で算定するには、将来のフリー・キャッシュ・フロー予測額を現在価値に割り引くわけですが、この割り引くための割引率は加重平均資本コストを用いるのが一般的です。ただし、加重平均資本コストを適用するための前提が、資本構成が一定であることです。借入金の返済によって資本構成が一定しない場合には、DCF法を修正して事業価値等を算定すべきか検討することになります。

以上の理由、そして、金融機関等から返済予定表があるため、利息と元本返済の正確な予定額を事業計画に組み込むべきです。

借入金の返済計画は、各金融機関の返済予定表をそのまま行います。この際、返済予定表をExcelシートにベタうちでもかまいませんが、返済予定表には利息の計算根拠(利息計算日数)が示されているため、これらを数式として入力することで、利率の変更した場合の効果を正確に反映することができます。

借入金の利息は通常は前払であるため、事業計画の作成にあたっては、期間損益を重視するかフリー・キャッシュ・フローを重視するかによって、この取扱いには考慮する必要があるでしょう。 たとえば、返済計画をとらえるExcelのワークシートには、実際の返済予定表に忠実なデータを入力するばかりではなく、もともと前払分の利息を実際に期間対応させるデータとするように調整することで前払費用処理の手間を省くことができます。

さらに悩ましいのが返済時期です。とくに月末返済の借入金です。月末が土日祝日である場合や年末年始の場合には、翌月に2回引き落としがあります。 この場合、返済計画をとらえるExcelのワークシートには、上記に加え、月末が休日である借入金については(年末も含め)月末に引き落としがあったものと仮定して利息額を計算(返済予定表と一致することを確認しながら行います)することが考えられます。 なお、月末が土日祝日である場合や年末年始の場合には、多くの金融機関は休日明け(月曜日等)に元利金の支払いになりますが、あるメガバンクでは休日前日に元利金の支払いが行われます。 なお、直近の事業年度末が土日祝日である場合の借入金a/c の残高や支払利息に係る前払費用a/c や未払費用a/c の残高にはとくに注意します。

なお、自社の事業計画の作成ならば存分に基礎資料を入手できますが、他社の事業計画の作成(または検証)の際には十分に情報が入手できないことがあります。この場合には、借入金残高の増減状況や支払利息の発生状況などから、利率等を合理的に推測することになります。

( つづく )