ちょっと変わった経営計画の作り方のヒント(各論)

もっともらしい経営計画を作成する場合に、収益や費用について考慮すべきかもしれない点についてまとめました。

経営計画の作成目的が、社外の関係者に何かのアクション(出資や融資(の継続)など)をしてもらうためだとすると、相手の担当者の上司が承認してくれるように作る必要があります。

収益

売上高は右肩上がりで作っていくことが一般的です。

将来のことは誰にもわかりませんので、もっともらしい市場予測を作り、これをベースにして売上高を予測すればするほどその信頼性は向上します。

逆に、相手の上司に承認がもらえるには一定の売上高が必要な場合には、一定の期間に一定の売上高を達成できるようなストーリー作りに専念することになります。

ところで、経営計画作成のタイミングが会社の設立前あるいは設立直後でない場合には、過去の経営実績(直前期)の数値を出発点にして作ることになります。 そこで、この過去の経営実績と一定の連続性を持たせるような説得力が重要です。

経営計画は右肩上がりで描かれることが通常ですが、それまでの実績が右肩下がりなのにどうして右肩上がりとなるのかを説得的に説明できなければなりません。

時間が経つと、経営計画の期間に実績がかかってしまうことになりますが、実績の数値と計画の数値に乖離があると、将来の計画の信頼性そのものも疑わしくなることが考えられます。

受取利息

私は他人様がお作りになった経営計画を分析することも少なくないのですが、受取利息が売上高の増加比率と同じ比率で増加している場合があります。

たしかに、受取利息は売上高に比べたら数字的なインパクトは無視しうるものです。

ただ、受取利息が売上高の増加比率と同じ比率で増加しているためには、「期首と期末の預金残高の予測値を平均した値に一定の合理的な予想利率を乗じた結果がたまたま売上高の増加比率と一致した」ことが示せなければなりません。 でないと、経営計画そのものが「イージーに作られた」という印象を持たれかねません。

費用

売上高を右肩上がりで作っていき、その比率に応じて費用も上昇するように計画が作られていることが一般的です。

売上高の増加比率よりも費用の増加比率を低くすれば、利益はどんどん増加する計画となります。 しかし、費用には売上高と比例的に増減するもの(いわゆる変動費)と、売上高とは必ずしも比例的に増減しないものがあります。

人件費

人件費はそのすべてが必ずしも売上高とは比例的に増減するわけではありません。

営業部門、とくに最終的な出荷や役務の提供に携わる担当者の人件費を時給ベースで計上しているのであれば、ある程度売上高と比例的な関係にあるかもしれませんが、人件費はそのような業務の方だけではありません。

このため、人件費の増加については、売上高とは別の基準でその増加を説得的に説明できるようにしなければなりません。

また、人件費は給料だけではありません。法定福利費もついてきます。厳密な予測と計算は不可能ですしその必要性もないと思われますが、一定の考慮をしているかどうかで、その信頼性は違ってくると思われます。

減価償却費

ズバリ、減価償却費が売上高と比例的に増減することはまずありえません。

もし、減価償却費が売上高と比例的に増加している場合には、「設備投資計画に基づいて設備投資(固定資産でかつ減価償却の対象となる資産)を行い、その減価償却費(当然ですが期首取得か期中取得かによって異なります。)と既存設備等の減価償却費の合計額の推移がたまたま売上高の増加比率と一致した」ことが示せなければなりません。

また、ソフトウェア開発業などの場合には、人件費がその発生時の費用となるとは限りません。資産(ソフトウェア資産)として計上されるものもあります、そして資産に計上された人件費は、製品完成後は減価償却費として費用化されます。 このため、製品開発の期間や製品完成のタイミングによって、経営計画はどうにでもできることになります。 製品開発や販売のスケジュールの変化に応じて最終的な計画値も即座に変化するようなシミュレーションシートをExcelで作っておく必要があります。

支払利息

支払利息も売上高と比例的に増減することはまずありえません。

支払利息の予想値は既存の借入金の返済予定額によりつつ、設備投資計画や資金繰り予測に基づいた新規借入額と借入期間等による予想支払利息を合計して織り込んでいく必要があります。

法人税等

経営計画は最終的な税引後の当期純利益まで作り込むことが一般的ですが、法人税等(法人税、住民税および事業税等)の予想額を、簿記の試験のように税引前当期純利益の予想額に単純に実効税率を乗じた額にしていることが少なくありません。

たしかに、中長期的には実効税率を乗じた額が負担額となります。しかし、経営計画が単純な損益予測ではなく、企業価値算定のためのフリーキャッシュフロー予測が重要な場合には、各期末の未払法人税等の額は運転資本増減額の構成要素となるため、それなりに重視しなければならないと考えられます。

また、そもそも安易に実効税率を用いることも微妙なものがあります。

経営計画は一定の経営実績(直前期)の数値を出発点にして作りますが、法人税法上の繰越欠損金があるのに、それを無視して将来事業年度の予想税引前当期純利益に単純に実効税率を乗じたのでは、やはり精度が低いといわざるをえません。

また、住民税均等割など所得の金額とは関係なく事業所の数や従業員数による部分があります。また、資本金1億円以下の法人の場合は、法人税や適用される事業税や地方法人特別税の税率も異なります(事業税の場合には、所得金額の大きさによっても税率が異なります)。資本金1億円超の法人では事業税の一部が外形標準課税となるため、付加価値割や資本割が発生します。 また、事業税については法人所得の計算上損金に算入される一方で損金算入時期が異なるため、将来事業年度の法人税等の予想値も、前事業年度末における未払事業税等の額と当事業年度の予定申告(納付)予想額を織り込んで算定することになります。

たかだか5年程度の経営計画ならば、一般的な実効税率ではなく、個々の法人の状況に応じて算定すべきです。

いわゆる税務調整項目(交際費など)については、金額等のインパクトなどから考慮に入れるか否か、入れるとしてどの程度盛り込んでいくかの判断になると思われます。利益計画を重視する場合には一定の考慮が必要かもしれませんが、企業価値算定のためのフリーキャッシュフロー予測を重視する場合には、あえて無視することも一つの考え方と思われます。

その他

消費税等の額

経営計画は税抜経理で作り込むことが圧倒的多数と思われますが、もし、税込経理をイメージしている場合には、納付する消費税等の額は費用となるために、これを損益予測に入れなければなりません。

キャッシュフロー予測が重視される場合には、その金額的なインパクトも考慮しながら、消費税の中間納税(年1回から12回まで)や確定納付額あるいは還付額(とくに輸出型で消費税の多額の還付がある場合など)も織り込む必要があるかどうか、あるとしてどう取り込むかを検討する必要があります。

予想貸借対照表の作成

予想貸借対照表の作成を要する場合には、売掛金等の入金サイトや買掛金等の支払サイトを考慮することになります。

なお、経営計画は右肩上がりであることが想定されていいます。「期中も右肩上がり」だとすると、期末の売掛金残高や買掛金残高も単純に年間の1/12で妥当なのかという考え方も出てくるでしょう。

固定遺産の取得時期や取得価額の仮定によって(期首取得か期央取得か期末取得か)によって、各年分の予想減価償却費が変わってきますし、借入金の調達時期、借入期間そして借入額の仮定によって、各年分の予想返済額や予想支払利息額が変わってきます。

( おわり )