ちょっと変わった経営計画の作り方のヒント(総論)

将来のことはわからないため、経営計画は、いかに「もっともらしく」作れるか、すなわち、「将来の数値をどう予測したのか」「その数値からどう作り込んだのか」に説得力があればあるほど、その信頼性が増すことになります。

経営計画の作成目的が、社外の関係者に何かのアクション(出資や融資(の継続)など)をしてもらうためだとすると、相手の担当者の上司が承認してくれるように作る必要があります。

何のために経営計画を作るのか

経営計画は、自己満足的な未来予想図を作成するばかりでなく、外部の関係者から求められたり、あるいは、外部の関係者に何かをしてもらう(出資や融資(の継続)など)ために作成することが多いのではないでしょうか。

経営計画の作成目的が、社外の関係者に何かのアクションをしてもらうためだとすると、「相手が納得してくれるもの」を作る必要があります。より正確に言えば、相手の担当者の上司が承認してくれるようなものを作る必要があります。

逆を言えば、どんなに質の高い経営計画をこしらえても、相手が納得してくれるようなものでないと、結果として作成に要した時間やエネルギーはあまり有用でなかったことになると思われます。

とはいえ、内部的には、将来に対する見方(悲観的や楽観的など)に応じて「なりゆき」ベースで経営計画を作るのは重要なことだと思われます。

もっともらしさ

将来のことはわかりません。

わからないのですから、いかに「もっともらしく」作れるか、すなわち、「将来の数値をどう予測したのか」「その数値からどう作り込んだのか」に説得力があればあるほど、信頼性が増すことになります。

同時に、先ほど申し上げましたとおり、どうすれば「相手が納得してくれる」のか、相手が重視するポイント(特定の項目の数値や比率など)を満たすように作り込んでいく必要があります。

過去の実績との連続性

「もっともらしさ」の第一歩として、経営計画作成のタイミングが会社の設立前あるいは設立直後でない場合には、過去の経営実績(直前期)の数値を出発点にして作ることになります。

この過去の経営実績と一定の連続性を持たせるような説得力が重要です。

経営計画は右肩上がりで描かれることが通常ですが、それまでの実績が右肩下がりなのにどうして右肩上がりとなるのかが相手の担当者に上手に説明できなければなりません。相手の担当者が上司にうまく報告できるようにしなければなりません。

将来の予測

次の、「もっともらしさ」として、将来のことをどう予測したのか、すなわち、いかに将来の予測がなるべく客観的で恣意性が少ないものであるかを説明できることが重要です。

将来のことは誰にもわかりませんが、一般的に想定されている方向性はあります。

それに沿うか、あるいは、その方向性とは異なるが説得的な根拠があるかということになります。

諸数値の算定

さらに、将来の予測をいかに経営計画の諸数値に反映させるか、つまり、経営計画の諸数値をいかに精緻に算定するかが重要です。

将来の予測は不透明ですが、いったん予測した数値から経営計画を作り込むのはいくらでも細かく厳密にすることができます。

せっかく将来の予測は精密にしても、経営計画の諸数値の作成が雑ではもったいないことです。

逆に、経営計画の諸数値の作成が厳密であれば、将来の予測もそれなりに確度が高いのではないかというイメージを作ることもできないわけではないと考えられます。

検証のしやすさ

「もっともらしさ」は、結局はそれを評価する人が納得できるかどうかに尽きます。

そのためには、作成者がただ自己満足的に作ればよいというものではなく、他人が検証しやすいようにしなければなりません。

おのずとシンプルな数式等で作り込むことになりますし、そうすることでかえって致命的なミス(前提条件の設定のミスや数式のミスなど)を防ぐことができます。

どの程度のものが求められているか

まず、経営計画の作成にあたっては、相手からどのくらいの精度の情報が求められているのかを考える必要があります。 相手は普通の定食を求めているのに懐石料理を作る必要はありません。

とはいえ、相手の注文も変わり得るので、それに対応できるような作り方をしないと、注文のたびに一から作り直すというのは効率的ではありません。 ある数値を変えれば最終的な計画値も即座に変化するようなシミュレーションシートをExcel等で作っておく必要があります。

一般に、経営計画は予想損益計算書ベースの計画のみが求められます。

しかし、より精度の高い計画を作るためには、(その提出は求められていなくても)予想貸借対照表の作成が重要になってきます。

予想貸借対照表の必要性(資金繰りと資金調達の面から)

一般的な経営計画は、右肩上がり、すなわち、売上や利益が年々増加していくように描かれます。

しかし、取引先との約定や業界等の慣習等にもよりますが、右肩上がりの増収増益の予測を立てても資金繰りが厳しいことがあります。

そうしますと、新たな資金調達が必要になります。この場合、自己資本(新株発行)か他人資本(借入金等)によって異なりますが、そのタイミングと調達額が重要になります。

なぜなら、自己資本の場合には、調達額に必要な金額から株価や株式数を現在の会社の支配状況(議決権割合)を踏まえて検討する必要がありますし、他人資本の場合には新規調達による支払利息の増加があり、これが予想損益計算書に影響してくるからです。

しかし、損益計算書だけで絵を描いていては、どのタイミングでキャッシュが足りなくなるのかがよくわかりません。よくわからないから適当、ではなくて、一定の仮定を置くのか、それとも、予想貸借対照表によってより正確に資金調達のタイミングや調達額、予想返済額を判断し、そこからの予想支払利息を予想損益計算書に反映させるかは意見が分かれるところと考えられます。

予想貸借対照表の必要性(設備投資と減価償却費の面から)

設備投資等(固定資産の取得)を行った場合には、減価償却によって費用が計上されます。

減価償却費は、新規の取得資産からの償却費もありますが、既存の固定資産の分もあります。

減価償却費を定率法により計上している場合には、年々計上される償却費は減少していくことになります。さらに、固定資産の取得のタイミングをいつに仮定するか(期首か期央か期末か)によって計上される減価償却費は異なります。

減価償却費を適切に経営計画(予想損益計算書)に反映させながら、かつ、新規の取得のタイミングやその時点に手元資金があるのか、ないとして調達をどうするのかについては、予想損益計算書だけでは困難と考えられます。

予想貸借対照表の必要性(企業価値等を算定するためのフリーキャッシュフローの基礎資料の面から)

株式発行やM&Aの局面では、DCFの算定の基礎としてのフリーキャッシュフロー(FCF)のために経営計画が必要になります。

この場合は、「設備投資額」と「運転資本増減額」が重要な計算要素となります。

予測損益計算書は異常なほどの精度で作り上げたものの、設備投資額と減価償却費の対応関係が合理的でなかったり、とりわけ運転資本増減額はあまりにもプアな仮定ではバランスを欠きます。

「目的にかなうために」いろいろとシミュレーションをしようとすると、たとえば、損益予測に一定の「枠」がはめられていると、予想損益計算書だけでコントロールするには限界があります。このような場合には、設備投資額や運転資本増減額でコントロールせざるをえませんが、そのためには、これらの数値の計算根拠の説得力を高めていかなければなりません。

また、ご存じの方も多いとは存じますが、DCF法によって企業価値等を算定する場合、重要なのは、経営計画の最終年度の予想損益計算書等から導かれたキャッシュフローです。これを割り引いた「残余価値(TV)」が企業価値の大半を占めることになります。つまり、最終年度までの数年間をどんなに詳細に計算しても、結論的にはあまりインパクトは生じません。しかし、最終年度の予想損益計算書の数値の信頼性を高めるためには、そこに至る年度の予想損益計算書等から導かれた予想キャッシュフローが重要なのです。

精度と時間のトレードオフ

経営計画の作成目的が、社外の関係者に何かのアクション(出資や融資(の継続)など)をしてもらうためだとすると、「相手が納得してくれるもの」を作る必要があります。より正確に言えば、相手の担当者の上司が承認してくれるようなものを作る必要があります。

将来のことはわからないので、いかに「もっともらしく」作れるか、すなわち、「将来の数値をどう予測したのか」「その数値からどう作り込んだのか」に説得力があればあるほど、信頼性が増すことになります。

いっぽう、経営計画にはその作成期限があります。 厳密にやろうとしすぎても、期限までにまとまらなければ意味がありません。 時間の関係上、ある程度の割り切りで、一定の線引きが必要と思われます。 このため、重要な部分はより精度を上げて、重要でない部分はそれなりの精度で作らざるを得ません。

つまり、「どの部分が重要で、精度の高い予測値が出すべきか」の選択が重要になってきます。

この営みは、学生時代等の試験で、全問解答する時間がない場合に、配点が高いと思われる問題は絶対に落とさず、時間がかかり配点も低そうな設問は捨てることに似ています。

とはいえ、重要でないと選択した部分があまりにも雑過ぎてはバランスを欠きます。全体の精度を上げながらメリハリをつけていくことが重要です。

なお、時間が限られているということになれば、作成者の労働生産性(作業のスピード)は、経営計画のクオリティに相当な影響を与えるものと考えられます。

( おわり )