( 3 )ポピュラーな会計処理とその検討

労働保険料の会計処理については、概算保険料の計上をどうするか(費用(法定福利費)計上か資産(前払費用)計上か)、概算保険料に含まれる雇用保険料従業員負担分をどうするかということがポイントとなるのが一般的です。ポピュラーな処理と思われるものについて検討してみたいと思います。

結論から申し上げますと、保険年度(4月から3月まで)と会計期間がピタリ一致し、かつ、(労働保険料の確定申告よりも前に)確定保険料の算定を行って不足額または超過額を損益に反映させないかぎり、労働保険料は適切に計上されていません。3月決算であっても中間決算や四半期決算では崩壊することになります。

また、会計情報を基礎にして原価計算(労務費)を行う場合も、正確な計算ができていないことになります。

ポピュラーな会計処理の類型

労働保険料の会計処理については、さまざまな処理が行われています。

大別すると、「借方すなわち概算保険料をどう処理するか」「貸方すなわち従業員の給料から天引きする雇用保険料従業員負担分をどう処理するか」の組み合わせになります。

前者については、「概算保険料を費用(法定福利費a/c )処理する方法」「概算保険料を資産(前払費用a/c )処理する方法」に分かれます。費用処理した場合には、概算保険料を全額費用とするかどうかによっても処理が異なり、また、資産処理した場合には、その残高をどう費用処理(償却)するのかによっても処理が異なります。

後者については、雇用保険料従業員負担分を「費用(法定福利費a/c )のマイナス処理とする方法」「負債(預り金a/c )として処理する方法」に分かれます。負債処理した場合には、この残高をどう減らしていくかによって処理が異なります。

目次

( 1 )概算保険料⇒全額費用、雇用保険天引き⇒法定福利費

概算保険料を全額費用処理して、給料等の支払時の雇用保険料従業員負担分の天引きは法定福利費a/c の貸方で処理する方法です。

概算保険料を全額費用(法定福利費a/c )、すなわち、会社の費用とはならない雇用保険料従業員負担分も費用として処理する一方で、給与等の支払い時に天引きする雇用保険料従業員負担分を法定福利費のマイナスとして処理することで、雇用保険料従業員負担分が自動的に(?)相殺されるという考え方です。

この方法は、非常にお手軽な方法で、もっとも利用されている処理だと思われます。

概算保険料の納付時

(借) 法定福利費 ××× (貸) 預金 ×××

給料等の支払時

(借) 給料など ×××× (貸) 預金など ×××
法定福利費 ×

概算保険料と確定保険料の差額の処理

確定申告時の確定保険料と概算保険料の差額が出た場合、概算保険料が不足していた場合の仕訳は次のとおりです。計上すると以下のとおりとなります。

(借) 法定福利費(前年度) ×× (貸) 未払金 ××

逆に、概算保険料が超過していた場合の仕訳は次のとおりです。実際には、還付を受けるのではなく、当年分の概算保険料に充当されます。

(借) 未収入金 × (貸) 法定福利費(前年度) ×
(借) 法定福利費(当年度概算) ××× (貸) 未払金 ×××
(借) 未払金 × (貸) 未収入金 ×

なお、確定申告での確定保険料と概算保険料との差額については、当年分の概算保険料に追加あるいは充当して納付するために、概算保険料との区別をまったくしないどころか、その認識すらまったくないケースが多々あるのではないかと思われます

問題点1 法定福利費a/c の相殺

雇用保険料の従業員負担分は会社の費用にはならないはずなのに、全額を費用処理しています。いっぽう、実際の給料等の支給の際の雇用保険料の従業員負担分の天引き額を費用のマイナスとして処理しています。

つまり、概算保険料よりも確定保険料が大きいと、法定福利費で処理した雇用保険料従業員負担分の概算処理額を上回る額が法定福利費のマイナスとして処理されてしまいます。このため、決算月によっては、会社の費用となるべき労働保険料の概算額まで食い込んでしまいます。

逆に、概算保険料よりも確定保険料が小さいと、法定福利費で処理した雇用保険料従業員負担分の概算計上額を十分に消し込むことができず、本来ならば会社の費用とならない部分が法定福利費として計上されたままとなってしまいます。

「会計理論なんてどうでもいい。税金の計算が正しければいいんだ」という方も、通達9-3-3(1)で、「被保険者が負担すべき部分の金額は立替金等とし」とあり、「その他の部分の金額」が損金に算入されることはご存知のはずです。

ここで、損金となる「その他の部分の金額」はずばり雇用保険料従業員負担分以外の部分の額です。概算保険料をすべて費用計上すると、その中には損金にならない雇用保険料従業員負担部分が含まれているのです。概算保険料と確定保険料が異なれば、費用計上した概算保険料に含まれる会社負担分(損金)の額が相殺によって少なくなってしまったり、逆に、概算保険料に含まれる損金にならない雇用保険料従業員負担分が申告調整もされないままになっているのです。

問題点2 納付と費用発生のタイミング

概算保険料の納付のタイミングは年1回から3回ですが、給料等の支給時に法定福利費のマイナスとして処理される額は毎月発生します。この期間的なミスマッチによっても、理論的な法定福利費よりも大きい額となったり小さい額となります。

そして、月次決算ベースでも概算保険料の納付時に大きく法定福利費が計上されるため、月次間の損益がデコボコになります。月次決算によりもろもろの経営意思を決定しようとする場合には誤った判断をしかねません。

問題点3 概算保険料の期間帰属

概算保険料の納付が年1回の全納にせよ年3回の分納にせよ、納付したときは一部が未払金であり一部が前払費用となります。

たとえば、当年分(4月1日から翌年3月31日まで)の概算保険料を申告初日の6月10日に全納したとします。1年分の概算保険料を12分割するものとすると、6月相当分は当月分の納付となりますが、4月相当分と5月相当分は未払期間の納付となり、7月相当分から翌年3月相当分は前払となります。

この方法によれば、決算時に何の処理を行わないと、会計上は未払金相当額や前払費用相当額が無視されてしまいます。

概算額と実際額の相殺、しかも、概算額は未払相当分や前払相当分が含まれるということになると、いったい事業年度の本来の労働保険料はどうやって算定すべきか混乱することになります。

その他にも根本的な問題があります。最後に申し上げます。

( 2 )概算保険料⇒一部費用、雇用保険天引き⇒預り金

雇用保険料従業員負担分について、概算保険料の納付では立替金、従業員からの天引きでは預り金として処理する方法です。

この方法は、従業員負担分をいずれも損益としない点にあります。なんとなく相殺していた先の方法よりも洗練されたものとなります。

概算保険料の納付時

(借) 法定福利費 ×× (貸) 預金 ×××
立替金 ×

まず、概算保険料の支払時に、雇用保険料の従業員負担分相当額は法定福利費とせずに立替金とします。

これによって、概算保険料のうち費用とすべきでない(損金にならない)部分の額は区分されることになります。

給料等の支払時

(借) 給料など ×××× (貸) 預金など ×××
預り金 ×
(借) 預り金 × (貸) 立替金 ×

給料等の支給時に天引きする雇用保険料の従業員負担分を預り金として処理します。そして、立替金と預り金を相殺します。

このとき、概算保険料の基礎となった賃金総額の概算額よりも実際の賃金総額が大きい場合には、立替金よりも預り金の方が大きいことから、立替金の残高はゼロとなり、預り金に残高が生じることになります。逆に、賃金総額の概算額よりも実際の賃金総額が小さい場合には、立替金に残高が残ることになります

概算保険料と確定保険料の差額の処理

最後に、労働保険料の確定申告時に、立替金a/c や預り金a/c の残高をゼロにします。

確定申告時の確定保険料と概算保険料の差額が出た場合、まず、不足額が生じた場合の仕訳は次のとおりです。

(借) 法定福利費 ××× (貸) 未払金 ×××
(借) 預り金 × (貸) 法定福利費 ×

確定申告時の確定保険料と概算保険料の差額(不足額)には、雇用保険料従業員負担分が含まれています。この部分は、預り金の残高となっています。この額は、会計上の費用、税務上の損金いずれにも該当しないため、法定福利費と相殺します。

逆に、概算保険料が超過していた場合の仕訳は次のとおりです。実際には、還付を受けるのではなく、当年分の概算保険料に充当されます。

(借) 未収入金 ××× (貸) 法定福利費 ×××
(借) 法定福利費 × (貸) 立替金 ×

確定申告時の確定保険料と概算保険料の差額(超過額)とは、概算保険料の方が確定保険料よりも大きかったことを意味するので、超過分は法定福利費のマイナス、あるいは、雑収入(決算月によっては前期損益修正益)となります。

この超過額には、雇用保険料従業員負担分が含まれており、立替金の残高となっています。この額は会計上の費用のマイナス(収益)、税務上の損金のマイナス(益金)いずれにも該当しないため、法定福利費と相殺します。

問題点

概算保険料のうち会社負担分のみを法定福利費としている点で、( 1 )の方法よりも精度は上がっていいます。

しかし、労働保険料の年度と事業年度が一致する、すなわち3月決算でないかぎり、概算保険料の未経過期間に相当する額が残高として残ります。

概算保険料の納付が全納にせよ分納にせよ、一部が未払金であり一部が前払費用となります。

当年分(4月1日から翌年3月31日まで)の概算保険料を申告初日の6月10日に全納したとしても、理論上は1年分の概算保険料を12分割した場合に4月相当分と5月相当分は未払金相当額の納付となり、6月相当分は当月分となり、7月相当分から翌年3月相当分は前払保険料の納付となります。

決算時に何の調整も行わないと、会計上は未払金相当額や前払費用相当額が無視されてしまいます。

その他にも根本的な問題があります。最後に申し上げます。

( 3 )概算保険料⇒前払費用、雇用保険天引き⇒法定福利費

概算保険料を費用処理する方法は、その申告や納付のタイミングで費用が計上されることから、月次損益が歪むばかりか、決算処理で前払相当額や未払相当額を反映しなければなりません。

そこで、概算保険料を全額資産処理し、すなわち、前払費用として計上し、規則的に費用処理、すなわち、月割で償却を行うことによって費用発生のタイミングを安定させる方法を採ります。

まずは、概算保険料を全額資産計上して、資産計上額を月々で償却し、給料等の支払時の雇用保険料従業員負担分の天引きは法定福利費の貸方で処理する方法です。

概算保険料の納付時

(借) 前払費用 ××× (貸) 預金 ×××

(1)(2)では、概算保険料の全額または一部の額を費用処理(法定福利費)していましたが、ここでは、全額を資産処理(前払費用)することにします。

前払費用の償却

(借) 法定福利費 × (貸) 前払費用 ×

たとえば、6月中(7月中)に当年度分の概算保険料を1年分納付したとすると、4月5月6月分(7月分)については、すでに期間を経過しているため、3ヶ月分(4ヶ月分)相当額を費用処理します。

また、3回に分納した場合、納付期限は1回目が7月10日、2回目が10月31日、3回目が翌年1月31日の3回となります(口座振替の場合は異なります)。これらの納付期限から期間を(ムリやり)対応させようとすると、1回目が4月1日から7月31日まで、2回目が8月1日から11月30日まで、3回目が12月1日から3 月31日までの期間が考えられます。

すると、たとえば2回目の納付を10月中にした場合で、対応する期間が8月から11月までとすると、10月の段階では11月分の1ヶ月分に相当する額だけが前払費用となります。

(借) 前払費用 × (貸) 預金等 ××××
法定福利費 ×××

給料等の支払時

(借) 給料など ××× (貸) 預金など ××
法定福利費 ×

概算保険料と確定保険料の差額の処理

確定申告時の確定保険料と概算保険料の差額が出た場合、概算保険料が不足していた場合の仕訳は次のとおりです。計上すると以下のとおりとなります。

(借) 法定福利費(前年度) ×× (貸) 未払金 ××

逆に、概算保険料が超過していた場合の仕訳は次のとおりです。実際には、還付を受けるのではなく、当年分の概算保険料に充当されます。

(借) 未収入金 × (貸) 法定福利費(前年度) ×
(借) 法定福利費(当年度概算) ××× (貸) 未払金 ×××
(借) 未払金 × (貸) 未収入金 ×

問題点

この処理は、概算保険料の納付にあたり、費用処理(法定福利費)するのではなく、資産処理をして償却する処理です。

月次決算のデコボコをなくそうという点では改善されたようにも思えます。しかし、費用にしてしまえば結局( 1 )の場合と同じく雇用保険料従業員負担分も含まれており、( 1 )の問題点がそのまま妥当することになります。

( 4 )概算保険料⇒前払費用、雇用保険天引き⇒預り金

( 3 )では、概算保険料を全額資産処理し、規則的に費用処理(法定福利費)、すなわち、月割で償却しました。 しかし、この償却額の中には、費用とならない雇用保険料従業員負担分が含まれています。そこで、償却にあたり費用とするのは会社負担分のみとし、雇用保険料従業員負担分は立替金として処理します。

いっぽう、給料等の支払時の雇用保険料従業員負担分の天引きは、法定福利費のマイナスではなく、預り金で処理します。つまり( 2 )の方法です。

概算保険料の納付時

(借) 前払費用 ××× (貸) 預金 ×××

前払費用の償却

(借) 法定福利費 × (貸) 前払費用 ××
立替金 ×

償却にあたっては、概算保険料に含まれる雇用保険料従業員負担分を立替金として処理します。

納付回数と期間対応についての論点は( 3 )と同じです。

給料等の支払時

(借) 給料など ××× (貸) 預金など ××
預り金 ×
(借) 預り金 × (貸) 立替金 ×

概算保険料と確定保険料の差額の処理

最後に、労働保険料の確定申告時に、立替金a/c や預り金a/c の残高をゼロにします。

確定申告時の確定保険料と概算保険料の差額が出た場合、まず、不足額が生じた場合の仕訳は次のとおりです。

(借) 法定福利費 ××× (貸) 未払金 ×××
(借) 預り金 × (貸) 法定福利費 ×

確定申告時の確定保険料と概算保険料の差額(不足額)には、雇用保険料従業員負担分が含まれています。この部分は、預り金の残高となっています。この額は、会計上の費用、税務上の損金いずれにも該当しないため、法定福利費と相殺します。

逆に、概算保険料が超過していた場合の仕訳は次のとおりです。実際には、還付を受けるのではなく、当年分の概算保険料に充当されます。

(借) 未収入金 ××× (貸) 法定福利費 ×××
(借) 法定福利費 × (貸) 立替金 ×

確定申告時の確定保険料と概算保険料の差額(超過額)とは、概算保険料の方が確定保険料よりも大きかったことを意味するので、超過分は法定福利費のマイナス、あるいは、雑収入(決算月によっては前期損益修正益)となります。

この超過額には、雇用保険料従業員負担分が含まれており、立替金の残高となっています。この額は会計上の費用のマイナス(収益)、税務上の損金のマイナス(益金)いずれにも該当しないため、法定福利費と相殺します。

問題点

この方法は、( 2 )の問題点を解消してそれなりに精度の高い方法となっています。

しかし、この方法でも、根本的な問題が解決されていません。

( 5 )根本的欠陥

概算保険料を費用計上するにせよ、前払費用計上して償却するにせよ、いずれの方法も、会計上で発生する費用は、概算保険料が納付あるいは償却という形で反映されているにすぎません。

すなわち、見積もりで計算した額を、それらしく毎月費用処理しているにすぎません。資産計上して償却したところでそれは同じです。

見積りの賃金総額と実際の賃金総額の発生は異なるのです。実際の給与等から発生した労働保険料が計上されなければならないはずです。

ところが、各月で発生している労働保険料は、概算保険料にすぎません。これが確定保険料になるのは、労働保険料の確定申告をし、不足額または超過額が反映された段階です。

しかも、保険年度は4月から3月です。とすれば、3月決算であり、かつ、(労働保険料の確定申告よりも前に)確定保険料の算定を行って不足額または超過額を損益に反映させないかぎり、概算保険料は確定保険料とはなりません。つまり、いろいろ理論的にこねくりまわしたところで、給与等から実際に発生する労働保険料とは異なるのです。

さらに言えば、3月決算で、(労働保険料の確定申告よりも前に)確定保険料の算定を行って不足額または超過額を損益に反映させて、概算保険料を確実に実際発生ベースの確定保険料に置き換えたとしても、たとえば、労務費の原価計算を行う場合には、各月々の従業員等のアクティビティが反映されるわけです。年間の総額が確定保険料に置き換わっても、原価計算等に反映されていなければ、その有効性は高くないといえます。

毎月発生している労働保険料をどう反映させるべきかという点と、概算保険料とをどう調和するか、これこそまさに労働保険料の会計処理の重要な点なのです。

( つづく )